私たちが目指している国家資格は,社会福祉士(あるいは精神保健福祉士)です。
今の時点(9月)ではまだまだ勉強が進んでいないと思いますが,国家試験が近づいてくると,やり残した感のない,いわゆる「万能感」になる人がいます。
それなのに,国家試験の当日,問題用紙を開いてみると,勉強したことがないことばが並んでいて,「こんなはずではなかった」と思います。
まじめに勉強した人ほど,その思いは強いことでしょう。
知らないことばが出てきても,知恵を絞って考えられることが国試では求められています。
勉強したことがないことばを目の当たりにしても動じないように,「国家試験とは,このようにしてふるいにかけている。私はそんな挑発には乗らない」といった気構えが必要です。
今日のテーマは「動的」「静的」です。
一般用語ですが,日常会話にはまず使うことはないでしょう。
それでは,今日の問題です。
第29回・問題104 ソーシャルワークにおけるアセスメントに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 コミュニティはアセスメントの対象に含まれない。
2 ソシオグラムは,クライエントと複数世代の家族メンバーとの関係性を表す。
3 パーソナリティに焦点化して,クライエントに関する情報を収集する。
4 プライバシー保護のため,クライエント以外の者から情報収集は行わない。
5 支援プロセスの進行と共に展開する動的なプロセスである。
アセスメントという用語を勉強していない受験生はまずいないと思います。
しかし,この問題はことのほか簡単ではないレベルのものです。
理由は,「動的」です。
この問題の正解は,選択肢5です。
5 支援プロセスの進行と共に展開する動的なプロセスである。
この場合の「動的」とは,「動きのある」といった意味合いで使われています。
つまり,この文章は,アセスメントは,支援中はどのプロセスでも行われるものである,といったような意味合いだと考えられます。
アセスメントは「インテーク」と「プランニング」の間に行う情報収集&課題分析だと考えていると,たとえ「動的」の意味がつかめたとしても,間違う可能性があります。
注意が必要です。
「動的」の反対語は「静的」です。
動的の反対語ですから,「動きのない」といった意味合いとなります。
それでは,ほかの選択肢も見てみましょう。
1 コミュニティはアセスメントの対象に含まれない。
システム理論で言えば,コミュニティも一つのシステムを形成しているので,コミュニティに関する情報も重要です。
ICFで考えても,生活機能に「参加制約」があっても,環境によってクリアできることもありますし,クリアできないこともあります。
2 ソシオグラムは,クライエントと複数世代の家族メンバーとの関係性を表す。
ソシオグラムは,人間関係を矢印によって図式化するアセスメントツールです。
刑事ドラマでは,被害者が真ん中にあり,交友関係のある人を周りに配置して,矢印の向きで,敵対していたのか,好意があったのか,などを可視化しています。
実際の捜査では,ソシオグラムは使われないそうですが,視聴者が理解しやすいようにとの演出上の効果をねらっています。
ソシオグラムで重要なのは,矢印の向きです。矢印のないただの線では,人間関係をすぐ理解することができません。
3 パーソナリティに焦点化して,クライエントに関する情報を収集する。
パーソナリティ(人格)も重要な情報かもしれません。
しかし,おそらく心理職であっても,パーソナリティに焦点化して情報収集するものではないのではないでしょうか。
まして,ソーシャルワークでは,パーソナリティ以外にも情報収集しなければならないことはたくさんあるでしょう。
4 プライバシー保護のため,クライエント以外の者から情報収集は行わない。
プライバシー保護は,もちろん必要です。
プライバシー保護に留意しながら,情報収集は行われます。
ただし,情報収集は,クライエントの支援のために必要なものに限られます。
<今日の一言>
今日の問題では「動的」に引っ掛かると,正解できる確率が下がります。
そのため,苦し紛れで,違和感があっても「パーソナリティに焦点化して,クライエントに関する情報を収集する」といった選択肢を選んでしまいがちになります。
国家試験の得点力を上げる方法はいくつも存在しますが,完璧に意味がわからなくても「この文章はおおよそこんな意味ではないだろうか」と概略をつかむことはとても重要です。
「動的」というたった2文字のために,その問題を正解できないのでは,あまりにもったいないと思いませんか?