これまでの国家試験に出題されている主なアプローチをまとめるとこんな感じとなります。
アプローチ名
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援助方法
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影響を与えた主な理論
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提唱者
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心理社会的アプローチ
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「状況の中の人」を基本概念として,心理社会的に課題のあるクライエントに対して,コミュニケーションを通して関わっていく。
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精神分析理論
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ホリス
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機能的アプローチ
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ワーカーの所属する機関の機能を活用して,クライエントの意志で問題解決できるように援助する。
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意志心理学(自我心理学の一派)
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タフト
ロビンソン
スモーリー
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問題解決アプローチ
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クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する
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役割理論
コミュニケーション理論
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パールマン
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課題中心アプローチ
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クライエント自らが問題を解決するための課題を設定し,あらかじめ決められた期間の中で課題を達成することを目指す。
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精神分析理論,役割理論,学習理論など
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リード
エプスタイン
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危機介入アプローチ
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危機状態に陥っている人に対して早期にかかわり,危機に対して対処能力を高める。
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危機理論,心理社会的発達理論(ライフサイクル理論)
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ラポポート
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行動変容アプローチ
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学習理論を活用して,クライエントの問題となる行動を消去や強化することにより,問題行動全体の変容を図る。
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学習理論
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トーマス
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エンパワメントアプローチ
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クライエントが抑圧された状況を認識して,潜在能力に気づいて,対処能力を高められるようにかかわる。
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ソーシャルアクション
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ソロモン
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ナラティブアプローチ
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クライエントが語るストーリーを重視して,新たな意味の世界を創り出すことを援助する。
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物語理論
社会構成主義
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ホワイト
エプストン
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解決志向アプローチ
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クライエントが抱く解決のイメージを尊重し,その実現に向けてクライエントの社会的機能を高めることを目指す。
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短期療法(ブリーフセラピー)
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シェザー
バーグ
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フェミニストアプローチ
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女性にとっての差別や抑圧などの社会的な現実を顕在化させ,個人のエンパワメントと社会的抑圧の根絶を目指す。
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女性主義(フェミニズム)
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不明
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実存主義アプローチ
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利用者が他者とのつながりを形成し,疎外状態から解放されることに焦点を当てる。
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実存主義
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クリル
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エコロジカルアプローチ
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「人と環境」の交互作用に着目した援助法
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システム理論
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ジャーメイン
ギッターマン
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次のカリキュラムではどのように出題されるのかわかりませんが,現在のカリキュラムではこのくらいの知識で十二分に対応できます。
あとは問題を解いて仕上げましょう。
第30回・問題101 事例を読んで,この場面における解決志向アプローチに基づくFスクールソーシャルワーカー(社会福祉士)の対応方法として,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Gちゃん(9歳,女児)には,1年ほど前から不登校の傾向が見られる。Fスクールソーシャルワーカーは,Gちゃん宅を訪問し,Gちゃんやその母親と2週間に1回程度の定期的な面接を行っていた。しかし,登校できる日数が徐々に減ってきた。Gちゃんは学校に行きたいと思っているが,朝起きると身体が動かず,登校することができないとのことであった。
1 Gちゃんが学校に行くことのできない原因の分析を行った。
2 Gちゃんに,変える必要のある考え方や行動について伝えた。
3 Gちゃん自身ではなく,家族の問題の克服を目指した。
4 Gちゃんに,学校に行き援業を受ける必要性を強く意識させた。
5 Gちゃんが学校に行くことのできた日の状況や行動に焦点を当てた。
なかなか面白い問題をつくったなぁ,と思います。
そう思いませんか?
この問題をただのソーシャルワークの事例問題だと思って解くと間違えます。
ここで問われているのは,適切なソーシャルワークではなく,「解決志向アプローチ」に基づいたものはどれかです。
それでは解説です。
1 Gちゃんが学校に行くことのできない原因の分析を行った。
これはおそらく問題解決アプローチのことを述べているものだと思います。
解決志向アプローチと問題解決アプローチは,名前が似ていますが全然違うものです。
解決志向アプローチ → 未来を志向し,問題そのものの解決は目指さない。
問題解決アプローチ → クライエントの力で問題の解決を目指すもの。そのため,問題を解決しようと思わないクライエントには用いることができない。
このように全然違います。
2 Gちゃんに,変える必要のある考え方や行動について伝えた。
これはおそらく行動変容アプローチのことを述べているものだと思います。
行動変容アプローチは,学習理論を活用して,問題となる行動の修正を図ります。
解決志向アプローチは,問題の解決や行動の変容は求めません。
3 Gちゃん自身ではなく,家族の問題の克服を目指した。
これはおそらく家族システムアプローチのことを述べているものだと思います。
解決志向アプローチは,クライエント本人の未来を志向できるようにアプローチしていきます。
4 Gちゃんに,学校に行き援業を受ける必要性を強く意識させた。
これはおそらく心理教育のことを述べているもののように思います。もしかすると違うかもしれませんが・・・。
心理の世界では心理教育も行われますが,ソーシャルワークの世界では心理教育は馴染みません。なぜなら,ソーシャルワークは,自己決定が原則だからです。
もし心理教育が必要なら,スクールソーシャルワーカーではなく,スクールカウンセラーでしょう。
2つの職種は,チーム学校の一員として活動しています。
5 Gちゃんが学校に行くことのできた日の状況や行動に焦点を当てた。
これが正解です。
解決志向アプローチが面白いなぁ,と思うのは,様々な質問を用いて,未来を志向するところです。
この選択肢は,「エクセプションクエスチョン」という質問で,例外を見つけ出すものです。
具体的には,「Gちゃんが学校へ行ける日はどんな日ですか」といった質問をします。
この質問によって,登校できないということに目を向けていたものが,その中ても登校できることに目を向けることができます。
そうすると,「なぜなのだろう」と思考し,いつもとは違う例外はどんなときに生じているのかを考えることができるようになります。
その例外が生じた要因が思い当たることが見えれば,その要因を多く生じさせるようなかかわりを心がけることになります。
実に素敵だと思いませんか?