高齢者に対する支援と介護保険制度は,ほかの科目よりも出題数が多い科目です。
この科目の問題数が多いのは,近年の高齢化への対応のためだと思っている人もいるようですが,そういうことではありません。
前のカリキュラムでは,「老人福祉論」と「介護概論」という2科目があったのを統合したためです。
そのことを試験センターもすっかり忘れていたようで,介護技術系の出題が少ない傾向にあります。
しかし,ようやく近年ではその原点を思い出したのか,少しずつ適正な比率になってきているように思います。
介護技術系の問題は,基本事項を押さえたものしか出題されないので,落ち着いて考えれば解けます。
もしわからなくなった場合は,頭の中でシミュレーションしてみると良いと思います。
それでは,今日の問題です。
第30回・問題129 右片麻痺で嚥下機能が低下した状態にある人に対する食事介護の在り方として,適切なものを2つ選びなさい。
1 食形態は,きざみ食が適している。
2 食前に嚥下体操を行う。
3 食事の時は,左側にクッションを入れ座位姿勢が保てるようにする。
4 右側から食事介助をする。
5 口腔内の右側に食物残渣がないか確認をする。
この問題のポイントは2つあります。
①右片麻痺
②2つ選ぶ
「①右片麻痺」は,もしわからなくなった場合は,自分に麻痺があったとき,どんな状態になるのだろうと考えることです。
「2つ選ぶ」は,意外と見落としがちです。「大丈夫」と思っている人は要注意です。普段はしないミスをするのが国試の怖いところです。模擬試験を受けるなど,打てる対策は打っておくことが大切です。
それでは解説です。
1 食形態は,きざみ食が適している。
嚥下機能が低下している人には,とろみ食が適しています。
嚥下機能の研究があまり進んでいなかった時代にはきざみ食が良いとされていました。しかし嚥下の「食塊をつくる」段階では,きざみ食では食塊になりにくいために,誤嚥のリスクがあることがわかったのです。
その点,とろみ食では食塊にしやすいために誤嚥のリスクが低くなります。
食塊になったものを嚥下しないと気道に入るおそれがあるのです。
2 食前に嚥下体操を行う。
これが1つめの正解です。
介護現場にいる人にとってはなじみのあることでしょう。
高齢になると,唾液の分泌が減少します。嚥下体操を行うことで唾液腺の働きを活発化させることができます。
人によっては,「ビュー」と出ることもあります。
3 食事の時は,左側にクッションを入れ座位姿勢が保てるようにする。
クッションなどで座位姿勢を保つことを「シーティング」といいます。
物理的には,体は弱いほうに曲がり,倒れていきます。
この問題は「右片麻痺」ですから,弱いほうは「右」です。
左側にクッションを入れると重心が右にずれます。
そのために右に倒れやすくなります。
麻痺のある側にクッションを入れると,重心が身体の中心にくるので安定します。
4 右側から食事介助をする。
右片麻痺がある人には,麻痺のない左側から食事介助します。
右側には麻痺があるので,口をうまく動かすことができないからです。
5 口腔内の右側に食物残渣がないか確認をする。
これが2つめの正解です。
右側は麻痺があるために,下をうまく動かすことができません。
そのために食物が口の中に残りやすいので確認することが大切です。
〈今日の一言〉
今日の問題は決して難しくない問題です。しかし,こういった問題であっても国家試験では確実に正解することは決して簡単ではありません。
なぜなら,読み間違いということがあるからです。この問題の場合,「右片麻痺」が読み間違いを引き起こすおそれがあるのです。
「右」や「左」,「上」や「下」などは,たった1文字違いです。そのために間違って読むと脳はそのように認知してしまい,本当は右と書いてあるのに,左に見えてしまうのです。
これが医療事故などの要因となるヒューマンエラーです。
さて,それではどうしたらよいでしょうか。
対策は人それぞれですが,脳が正しく認知するように,問題文に線を引くなり,しるしをつけるなりすると良いと思います。
国試会場でそういったことを急にするのは難しいので,普段の勉強から意識的に行うようにしましょう。