「社会福祉調査(社会調査)の基礎」が難しいというイメージは,量的調査です。
社会福祉調査は,量的調査だけではなく,質的調査もあります。
質的調査は,インタビューや観察などによってデータを収集して分析する手法です。
これなら,日常的に行っているアセスメントと何ら変わらないと思いませんか。
今日のテーマは,「観察法」です。
観察も対人援助職なら,日常的に行っているものです。
社会福祉調査における観察法というと難しく感じるかもしれませんが,そんなにかけ離れたものではないので,イメージはしやすいのではないかと思います。
それでは,今日の問題です。
第22回・問題81 調査手法としての観察法に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。
1 観察法においては,文字により記録したデータが主たる分析対象となるので,写真や音声などは,分析対象とはならない。
2 観察法においては,マジックミラー(ワンウェイミラー)を使った観察を行ってはならない。
3 参与観察と非参与観察の違いは,観察に当たって,調査者が観察対象者に具体的な指示を出すか出さないかである。
4 観察中にメモをするなどして蓄積されるフィールドノーツは,非参与観察では大いに活用してよいが,参与観察では使用しない方が望ましい。
5 参与観察における調査者の立場は,観察に徹する「完全な観察者」と参加を重視する「完全な参加者」との間で行き来することがある。
問題のつくり方がかなり下手なので難易度がかなり低い問題になっていますが,こういった問題こそ,しっかり押さえておきたいのです。
なぜなら,この問題では問題のつくり方が下手だから簡単に消去できるものでも,本当は意味がよくわからないものもあるからです。
過去問を解く意味は,正解できることではありません。出題されている内容をしっかり理解することです。
この問題の中で,しっかり覚えておきたいのは,参与観察と非参与観察の違いです。
参与観察とは,観察対象者とかかわりながら観察することです。
福祉現場では,クライエントを援助しながら観察を行うことが参与観察にあたります。
非参与観察とは,観察対象者とかかわらないで観察することです。
福祉現場ではイメージしにくいかもしれませんが,クライエントを直接援助せず,見守りをしているような状態です。しかし,実際には何か援助が必要な場合は,かかわらないというスタンスはとれないので,若干ニュアンスが異なります。
それでは,解説です。
1 観察法においては,文字により記録したデータが主たる分析対象となるので,写真や音声などは,分析対象とはならない。
観察法の起源は,文化人類学にあります。
19世紀の西洋人は,新しい文化を理解するために文化人類学を発展させました。
その当時は,まだ写真が発明されたばかりです。
アニメ映画「アナと雪の女王2」を見ると,どの時代に写真が発明されたのかがわかると思います。
それはさておき,当初はフィールドノートと呼ばれる記録が中心でしたが,そこに写真が加わり,20世紀では映像も使って記録します。
それらは,すべて貴重な資料です。分析しないなら,写真も映像(録音データも含めて)も記録する意味がないと思いませんか。
2 観察法においては,マジックミラー(ワンウェイミラー)を使った観察を行ってはならない。
マジックミラーは,外から中は見えますが,中から外は見えません。そのために,ワンウェイミラーといいます。
倫理的には,了解を得なければ不適切だと言えますが,了解を得ていれば不適切な使用ではありません。
3 参与観察と非参与観察の違いは,観察に当たって,調査者が観察対象者に具体的な指示を出すか出さないかである。
参与観察と非参与観察の違いは,観察対象者にかかわりながら観察するのか,かかわらないで観察するのか,です。
4 観察中にメモをするなどして蓄積されるフィールドノーツは,非参与観察では大いに活用してよいが,参与観察では使用しない方が望ましい。
フィールドノーツは,先述のように極めて重要です。もちもん非参与観察でも用います。
5 参与観察における調査者の立場は,観察に徹する「完全な観察者」と参加を重視する「完全な参加者」との間で行き来することがある。
これが正解です。
参与観察は,実際にかかわりながら観察します。なぜこの選択肢のように,立場が異なるのでしょうか。
遊戯療法を例にすると,観察対象者である子どもがおもちゃで遊んでいる場合は,「完全な観察者」に徹することができます。
その子どもに「一緒に遊んで」とせがまれて,遊んでいるときは「完全な参加者」となります。
理解できそうですか。