古典的な福祉ニーズは,貧困です。
特に,産業化(工業化)が進展することにより,生産するための資産をもつ資本家と資産を持たない労働者が生まれていきます。
現在は,多くの法制度で労働者が保護されていますが,国はできるだけ国民生活にかかわらない古典的な自由主義が支配していた時代があります。
自由は,市民が勝ち取った権利だからです。
現代では,福祉国家が形成されているので,国民生活を守るのが国の役割という意識が普通でしょう。
福祉国家も過去の学びから出来上がったものです。
COS(慈善組織協会)は,慈善活動による救済の偏りを防止するために設立されたものです。
イギリスでは地区訪問員,アメリカでは友愛訪問員と呼ばれた訪問活動が,ケースワークに発展し,またアウトリーチの原型でもあります。
しかしこの時代は,貧困に陥る原因は,個人の問題だと捉えていました。
貧困の原因が社会構造にあることが明らかにされていくのは,ブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査がきっかけです。
まだまだ先の出来事です。
それでは,今日の問題です。
第22回・問題86 ソーシャルワークの形成過程に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 慈善組織協会は,慈善活動による救済の偏りを防止するために設立され,貧困の原因を社会の構造に求めて,貧困者に対する救済を社会の義務ととらえていた。
2 セツルメント運動は,大学生たちが貧困地区に住み込むことによって展開され,貧困からの脱出に向けて,勤勉と節制を重視する道徳主義を理念とした。
3 YMCAは,キリスト教の信仰を深める青年運動として始められ,個別面接を繰り返すことによって,心理的な側面を重視した面接技法の体系化を進めた。
4 リッチモンド(Richmond,M.)の提案に基づいて,ニューヨークで6週間に及ぶ博愛事業に関する講習会が初めて開催され,専門教育へと発展していった。
5 フレックスナー(Flexner,A.)によって「ソーシャルワークはすでに専門職である」と結論づけられ,専門性が社会的に認知されるきっかけとなった。
模擬試験などでもよく見る内容です。
歴史が苦手でもこのくらいは覚えておいてほしいと思います。
この問題の正解は,選択肢4です。
4 リッチモンド(Richmond,M.)の提案に基づいて,ニューヨークで6週間に及ぶ博愛事業に関する講習会が初めて開催され,専門教育へと発展していった。
慈善組織協会の指導者だったリッチモンドは,友愛訪問の経験をもとに,ケースワークに科学性を導入したことで「ケースワークの母」と呼ばれた人物です。
そのリッチモンドの提案により,夏期講習会が実施されました。これがソーシャルワークの専門教育の発端になりました。
それでは,ほかの選択肢も確認します。
1 慈善組織協会は,慈善活動による救済の偏りを防止するために設立され,貧困の原因を社会の構造に求めて,貧困者に対する救済を社会の義務ととらえていた。
慈善組織協会(COS)は,慈善活動による救済の偏りを防止するために設立されたのは正しいです。
しかし,前説のように,貧困の原因は,個人によるものだと考えていたのが,特徴です。
そのため,COSが救済したのは,救済の価値のある貧民でした。
救済の価値のない貧民は,救済しませんでした。
救済の価値のない貧民はどうしたのだと思いますか?
お気づきの方もいると思いますが,救済の価値のない貧民を救済したのが,公的救済である救貧法です。
2 セツルメント運動は,大学生たちが貧困地区に住み込むことによって展開され,貧困からの脱出に向けて,勤勉と節制を重視する道徳主義を理念とした。
近代の貧困は,資本主義という制度の歪みが生み出したものです。
セツルメントが目指したのは,教育と環境の改善です。
勤勉と節制を重視する道徳主義は,古い貧困観に基づくものだと考えることができれば,消去できます。
3 YMCAは,キリスト教の信仰を深める青年運動として始められ,個別面接を繰り返すことによって,心理的な側面を重視した面接技法の体系化を進めた。
YMCAは,キリスト教の信仰を深める青年運動として始められたのは正しいです。
しかし,個別面接を繰り返すことによって,心理的な側面を重視した面接技法の体系化を進めたのは,COSの友愛訪問です。これがケースワーク(個別援助技術)につながっていきます。
YMCAの活動は,グループワーク(集団援助技術)として発展していきました。
5 フレックスナー(Flexner,A.)によって「ソーシャルワークはすでに専門職である」と結論づけられ,専門性が社会的に認知されるきっかけとなった。
フレックスナーが述べたのは,「ソーシャルワーカーはいまだ専門職ではない(1915年)」です。
「ソーシャルワークは既に専門職である(1957年)」と述べたのは,グリーンウッドです。