社会福祉調査(社会調査)の基礎は難しいというイメージをもつ人は多いことでしょう。
しかし,難しいのは,量的調査のほんの一部です。
第22回国試は,平成19年改正のカリキュラムの最初の国試でした。
カリキュラムが変わり,時間がない中での国試だったこともあり,今後このカリキュラムでどのように出題するのかを実質的に示したのが第22回国試です。
なぜ,第22回の国試問題をいまさら取り上げているのかと不思議に思う人もいると思いますが,そういった意味から第22回国試は,とても重要な意味を持っているのです。
さて,今日のテーマは「調査の信頼性と妥当性」です。
知らなくても,それほど困ることはありませんが,一応用語だけは覚えておきたいと思います。
信頼性とは,同じ調査を行ったとき,おおよそ同じようなデータが得られることをいいます。
同じようなデータが得られない場合は,信頼性が低いと表現されます。
妥当性とは,調査したいものを的確に調査していることをいいます。
適切に調査しないと,期待したデータが得られないことになります。
そういったことを妥当性が低いと表現されます。
たとえば,提供したサービス利用者の満足度を調査したいのに,サービスを提供した人に対して,アンケートを行ったらどうでしょうか。
適切なデータは得られないことは,火を見るより明らかでしょう。
サービス利用者の満足度を調査するなら,その本人にアンケートを行わなければなりません。
それでは,今日の問題です。
第22回・問題78 尺度を用いた測定の信頼性に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 信頼性が高ければ,測定したい事柄を適切に測定できているといってよい。
2 信頼性を検討する手法の一つである折半法とは,調査対象者を半分ずつに分けて,それぞれに同一の測定を行う方法のことである。
3 再検査法で信頼性を検討する場合,1回目の検査と2回目の検査の間隔が広ければ広いほど,時間的安定性が高くて望ましい。
4 クロンバックのα係数は,複数の測定項目間に内的整合性があるかどうかを調べるためのものである。
5 同一の対象者集団に対して正反対の結果が出ると想定される2つの測定を行い,負の相関の強さを確認する方法のことを,平行検査法という。
前回,この科目を難しく感じさせる元凶となったのは,第22回国試だと書きました。
この問題は,この時の国試から10年以上経った今も難しく感じられるものだと思います。
その理由は,出題されているもののほとんどは,その後一度も出題されているものではないからです。
極端なことを言えば,こういったものは,正解できなくてもよいと考えると良いと思います。
さっさと気持ちを切り替えて,次の問題に進んだほうがよいです。
ただし,第22回国試では,この次の問題はさらに難しいものが出題されています。
2問も続けて難しい問題が出題されるとメンタル的にかなり辛いです。
そこを乗り越えると,先が開けます。
それでは,解説です。
1 信頼性が高ければ,測定したい事柄を適切に測定できているといってよい。
測定したい事柄を適切に測定できているといってよいのは,妥当性が高い場合です。
信頼性が高いと言えるのは,調査結果にばらつきがなく,だいたい同じようなデータが得られる場合です。
2 信頼性を検討する手法の一つである折半法とは,調査対象者を半分ずつに分けて,それぞれに同一の測定を行う方法のことである。
折半法は,この時1回しか出題されたことがありません。
折半法とは,次の選択肢に出てくる再検査法と異なり,再度検査を行わなくてもよいように開発されたものです。
具体的には,調査で得られたデータを2つに分けて,あたかも調査を2回行ったようにみなして,データを分析するものです。
これだと被検査者の負担を軽くすることができます。
3 再検査法で信頼性を検討する場合,1回目の検査と2回目の検査の間隔が広ければ広いほど,時間的安定性が高くて望ましい。
再検査法は,折半法とは異なり,本当に検査をもう一回行う方法です。
1回目と2回目の間隔が広いと被検査者の状況は変化してしまいます。
それよりもこの選択肢で着目したいのは,「広ければ広いほど」です。
「広ければ広いほど」は,極めて正確性を欠いた表現だと思いませんか。
何十年も間隔を開けたらどうなるのかを想像するとミスしないで判断できることでしょう。
4 クロンバックのα係数は,複数の測定項目間に内的整合性があるかどうかを調べるためのものである。
これが正解です。クロンバックのα係数は信頼性を確認するためのものです。
5 同一の対象者集団に対して正反対の結果が出ると想定される2つの測定を行い,負の相関の強さを確認する方法のことを,平行検査法という。
並行検査法は,同じようなタイプの検査を同時に行うことをいいます。
<今日の一言>
この問題のようなタイプの問題は,その後に出題されたことがありません。
おそらく出題することの意義に疑問が生じたからでしょう。
令和元年改正のカリキュラムによる国試でもそれほど難しいものは出題されないのではないかと思います。
しかし,この科目が難しいというイメージを植え付けたことは,しっかり勉強した人にとって,かなり有利です。
勉強不足の人は,苦手意識を払しょくできないために自滅していくからです。
こういった問題を除けば,決して難しい科目ではないことを肝に銘じておきたいです。