国家試験には,出題基準というものが公表されていて,基本的にはその範囲で問題が作られます。
しかし,1つの科目の問題数は少ないこともあり,すべてがまんべんなく出題されているわけではありません。
「公的保険制度と民間保険の関係」は,第22~34回では,第25回と第31回のわずか2回しか出題されていません。
しかもその2つの問題は内容がまったく異なり,第25回では,確定拠出年金と厚生年金基金,第31回では,公的保険と民間保険の違いが出題されています。
今回,取り上げるのは,そのうちの第31回の問題に関するものです。
保険原理が掲載されている参考書もあると思いますが,保険原理の用語を必ずしも覚えていなくても問題は基本的には解けます。なぜなら,原理を知らずとも制度がされているからです。そのため,よくよく考えると理解できます。
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公的保険 |
民間保険 |
保険者 |
国,地方公共団体 |
民間企業など |
加入 |
強制 |
任意 |
脱退 |
要件が外れた場合 |
任意 |
保険料 |
(多くの場合) 所得によって決まる |
(多くの場合) リスクによって決まる |
それでは今日の問題です。
第31回・問題50 日本における社会保険と民間保険に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 民間保険では,加入者の保険料は均一でなければならない。
2 生命保険など民間保険の保険料が,所得税の所得控除の対象になることはない。
3 民間保険には低所得者に対する保険料の減免制度がある。
4 社会保険では,各個人が自由に制度に加入・脱退することは認められていない。
5 社会保険は,各被保険者の保険料とそれにより受け取るべき給付の期待値が一致するように設計されなければならない。
ちょっと迷うのは,選択肢5かもしれません。
それでは,解説です。
1 民間保険では,加入者の保険料は均一でなければならない。
民間保険の加入者(被保険者)の保険料は,加入者に生じる保険事故の発生確率によって設定されます。
イメージしやすいのは,自動車の任意保険です。
「走る分だけ」というコマーシャルがありますが,走行距離が短ければ保険事故の発生確率は低くなるので,保険料が下がります。
若年者の保険料が高いのは,運転に慣れていないなどによって保険地味の発生確率が高いからです。
2 生命保険など民間保険の保険料が,所得税の所得控除の対象になることはない。
生命保険,地震保険などの民間保険は,所得税の所得控除の対象となります。
3 民間保険には低所得者に対する保険料の減免制度がある。
民間保険には,低所得者に対する保険料の減免制度は設定されません。
民間保険に保険料の減免制度があるのは,保険事故の発生リスクが低い場合です。
4 社会保険では,各個人が自由に制度に加入・脱退することは認められていない。
これが正解です。
公的保険は,強制加入です。
民間保険のように,各個人の意思で加入する制度にすると,公的保険制度はおそらく運営できないでしょう。
その理由は,次の選択肢に関連しています。
保険原理の一つとして,各被保険者の保険料とそれにより受け取るべき給付の期待値が一致するように設計されなければならない「給付・反対給付均等の原則」があります。
民間保険は,この原理によって保険を設計しています。
社会保険も保険なので制度の根底には,保険原理があるでしょう。
しかし,社会保険は,国策で行われるので,保険原理によって制度が出来上がっているわけではありません。