医療保障制度は,国の特徴が出やすいものです。
どれが良い,どれが悪い,ということはありません。
歴史や国民性の違いによって,形作られたものだからです。
それでは,今日の問題です。
第31回・問題55 諸外国における医療や介護の制度に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。
1 アメリカには,全国民を対象とする公的な医療保障制度が存在する。
2 イギリスには,医療サービスを税財源により提供する国民保健サービスの仕組みがある。
3 フランスの医療保険制度では,被用者,自営業者及び農業者が同一の制度に加入している。
4 ドイツの介護保険制度では,介護手当(現金給付)を選ぶことができる。
5 スウェーデンには,介護保険制度が存在する。
この問題は,各国の特徴を表わしている良い作り方をしていると思います。
制度がよくわからなければ,国の特徴を考えるのが良いです。
それでは解説です。
1 アメリカには,全国民を対象とする公的な医療保障制度が存在する。
アメリカは,エスピン-アンデルセンによれば自由主義レジームに分類される国です。
ティトマスなら,残余的福祉モデルです。
残余的というのは,基本は自助,それで足りないところは公助(つまり国)が賄うという考えのことです。
アメリカの医療保障制度は,メディケア(対象は高齢者・障害者等),メディケイド(対象は低所得者)が特徴です。それ以外の大多数の人は,民間医療保険に加入します。
2 イギリスには,医療サービスを税財源により提供する国民保健サービスの仕組みがある。
これが1つめの正解です。
イギリスは,アメリカと同じく自由主義レジームに属する国です。
その国が,原則無料の国民保健サービス(NHS)を維持しているのは,ベヴァリッジ報告で知られるベヴァリッジ卿の信念によるものです。
スティグマを与えない制度を模索した結果,税財源によるNHSにたどり着きました。
それ以前のイギリスは,1911年の国民保険法によって,医療保障制度を採用していました。
この法律は,世界で初めての失業保険となったことで知られています。
3 フランスの医療保険制度では,被用者,自営業者及び農業者が同一の制度に加入している。
フランスとドイツは,保守主義レジームに属する国です。
もともとあった同業者による互助を国の制度に取り入れているのが特徴です。
そのため,国民共通ではなく,職域によって分かれる制度に加入するスタイルが特徴です。
いかにも保守主義という感じがするでしょう。
4 ドイツの介護保険制度では,介護手当(現金給付)を選ぶことができる。
これがもう1つの正解です。
日本の介護保険にはない現金給付の制度がドイツにはあるのが特徴です。
日本ももし取り入れていれば,介護離職という問題はなかったのにと思うと残念です。
5 スウェーデンには,介護保険制度が存在する。
スウェーデンは,社会民主主義レジームに属する国です。
高福祉・高負担がよく知られます。
高福祉,つまり,介護保障も社会保険制度ではなく,社会福祉制度を取り入れています。
ただし,年金制度は,社会保険制度です。年金制度はアメリカなど多くの国が社会保険制度を取り入れています。