2024年10月24日木曜日

倫理的ジレンマの事例問題(2)

 

倫理的ジレンマは,2つの状況の中で板挟みになることです。


2つの状況が示され,その組み合わせによって答えを探すことができますが,正解を2つ選ぶタイプでも出題されます。


今日の問題は,オーソドックスである2つの状況の組み合わせです。


精神保健福祉士

第22回・問題21

U精神科病院に勤めるA精神保健福祉士は,担当患者のBさんへの支援が思うように展開できないでいた。Bさんは,障害年金と親の多額の遺産金で暮らしているが,「お金がない。生活保護を受けられないか」と何度も訴えていた。A精神保健福祉士は,Bさんが他の患者にお金を貸したり,欲しいものをすぐに買ったりして無駄遣いをしているのに生活保護を受けたいと主張することを好ましく思っていなかった。そのため,どうしてBさんが同じ主張を繰り返すのかについて,その背景に何かあるかもしれないということは気になっていたが,いつも一方的な態度をとるBさんを受け入れられず,「遺産金があるので,生活保護を申請することは難しい」と繰り返し説明していた。

 次のうち,A精神保健福祉士が抱く倫理的ジレンマとして,適切なものを1つ選びなさい。

1 自己決定とパターナリズム

2 専門職的価値と個人的価値

3 バウンダリーとクライエントの利益

4 クライエントの利益と所属機関の利益

5 秘密保持とプライバシー


5つの選択肢の内容は,第19回の問題と全く同じです。


どうしてBさんが同じ主張を繰り返すのかについて,その背景に何かあるかもしれないということは気になっていた。


いつも一方的な態度をとるBさんを受け入れられず,「遺産金があるので,生活保護を申請することは難しい」と繰り返し説明していた。


この2つによって,A精神保健福祉士は揺れ動いています。


どうしてBさんが同じ主張を繰り返すのかについて,その背景に何かあるかもしれないということは気になっていた。


 → ソーシャルワーカーとして専門的なアセスメントが必要な場面です。これは専門職的価値だと言えるでしょう。


いつも一方的な態度をとるBさんを受け入れられず,「遺産金があるので,生活保護を申請することは難しい」と繰り返し説明していた。


 → 「受け入れられない」というのは,ケースワークの原則に「非審判的態度」に反する「審判的態度」となっています。つまり,個人的価値だと言えます。


正解は,選択肢2です。


2 専門職的価値と個人的価値


またまたバウンダリーが出題されています。


バウンダリー(boundary)は,「境界」を意味し,心理学では,自分と他人の境界線を意味しています。


バウンダリーがあいまいになると,


NOと言わなければならない場面でNOと言えない。

YESと言わなければならない場面でYESと言えない

私が思っていることは相手も同じことを思っている

自分の価値観を相手に押し付ける


など,人間関係や対人援助に弊害を生じます。


バウンダリーを明確にすることは簡単なことではありませんが,対人援助職としては大切なことでしょう。


今のところ,バウンダリーはまだ正解になったことはありませんが,注意すべきダークホース的な用語です。


それでは,正解以外を解説します。


1 自己決定とパターナリズム


〈例〉

クライエントは「デイケアに行きたくない」と考えているのに対して,ソーシャルワーカーは「デイケアに行かないと生活が乱れる」と考えている。


3 バウンダリーとクライエントの利益


〈例〉

クライエントの強い態度に威圧され,クライエントの言いなりになってしまう。しかし,それはクライエントにとって本当は良いことではない。



4 クライエントの利益と所属機関の利益


〈例〉

クライエントは入院継続を望んでいるのに対して,病院は診療報酬の面から早期退院を望んでいる。


5 秘密保持とプライバシー


秘密保持とプライバシーは,同じベクトルなので,倫理的ジレンマを生じることはありません。


倫理的ジレンマを生じるとすると・・・


クライエントから「誰にも言わないで」と言われて,プライバシーに関係する話を聞く場合です。


その話の内容に,生命の危機に関係する場合は,関係機関と連携しなければなりません。


そのために,クライエントに「誰にも言わないで」と言われたら,「ここで聞いた話は,〇〇さんの許可がない限り,誰にも話しません」と秘密保持を保証したうえで,「ただし,〇〇さんを含めて生命に危険があるような場合は,関係機関に連絡させていだたくことがあります」と明確に示すことが必要です。


そのために,倫理的ジレンマを生じることになります。


この背景には,タラソフ事件があります。


アメリカで起きたこの事件は,精神科医が患者から「タラソフを殺すつもりだ」という話を聞いて,通報したものの釈放されて,その後に本当に殺人事件が発生してしまったものです。


この事件は秘密保持義務と生命の安全を考える場合に,よく引き合いに出される事件です。


守秘義務を理由に患者が殺すつもりだと宣言したタラソフさんに警告を促さなかったことで発生した事件です。


このようなことは,下手をすれば刑事的責任を問われることにもなりかねません。

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