2024年10月3日木曜日

特別遵守事項と専門的処遇プログラム

 

今回は,保護観察制度を学びます。

 

保護観察対象者は,すべての人が等しく守らなければならない「一般遵守事項」に加えて,遵守すべき特別の事項「特別遵守事項」が定められた場合,特別遵守事項を遵守しなければなりません。

 

一般遵守事項 全員が遵守すべき事項

・再び犯罪をすることがないよう,又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること。

・保護観察官又は保護司の呼出し又は訪問を受けたときは,これに応じ,面接を受けること。

・保護観察官又は保護司から,労働又は通学の状況,収入又は支出の状況,家庭環境,交友関係その他の生活の実態を示す事実であって指導監督を行うため把握すべきものを明らかにするよう求められたときは,これに応じ,その事実を申告し,又はこれに関する資料を提示すること。

・速やかに,住居を定め,その地を管轄する保護観察所の長にその届出をすること(住居あるいは宿泊すべき特定の場所を定められた場合を除く)。

・転居又は七日以上の旅行をするときは,あらかじめ,保護観察所の長の許可を受けること。 など

 

特別遵守事項 個別に定められた場合に遵守する

・犯罪性のある者との交際,いかがわしい場所への出入り,遊興による浪費,過度の飲酒その他の犯罪又は非行に結び付くおそれのある特定の行動をしてはならないこと。

・労働に従事すること,通学することその他の再び犯罪をすることがなく又は非行のない健全な生活態度を保持するために必要と認められる特定の行動を実行し,又は継続すること。

・七日未満の旅行,離職,身分関係の異動その他の指導監督を行うため事前に把握しておくことが特に重要と認められる生活上又は身分上の特定の事項について,緊急の場合を除き,あらかじめ,保護観察官又は保護司に申告すること。

・医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識に基づく特定の犯罪的傾向を改善するための体系化された手順による処遇として法務大臣が定めるものを受けること。

・法務大臣が指定する施設,保護観察対象者を監護すべき者の居宅その他の改善更生のために適当と認められる特定の場所であって,宿泊の用に供されるものに一定の期間宿泊して指導監督を受けること。 など

 

このうちの「医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識に基づく特定の犯罪的傾向を改善するための体系化された手順による処遇」が専門的処遇プログラムのことです。

 

専門的処遇プログラム

・性犯罪者処遇プログラム

・薬物再乱用防止プログラム

・暴力防止プログラム

・飲酒運転防止プログラム

 

特定の犯罪的傾向を改善するための専門的な援助を行うために必要な指示その他の措置を取る場合,保護観察対象者の意思に反しないことを確認しなければなりません。

 

ただし,専門処遇プログラムの実施が,特別遵守事項として定められている場合は,意思を確認する必要はありません。

なお,薬物使用等の罪を犯した者が刑の一部の執行猶予に付された場合,猶予期間は,特別遵守事項として薬物乱用防止プログラムが定められます。

 

それでは,今日の問題です。

 

33回・問題150

事例を読んで,保護観察に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 Aさん(47歳,男性)は,覚醒剤取締法違反により懲役2年執行猶予4年の保護観察付きの刑の言渡しを受けた。今まで頻繁に転職を繰り返し就労経験に乏しく,現在も無職である。親の遺産で生活できており,経済的には今すぐ困窮するような状況ではない。薬物使用に関する罪悪感や後悔の念が薄いことが懸念されている。

1 Aさんの指導監督における,更生保護法が定める一般遵守事項としては,薬物再乱用防止プログラムを受けることが明記される。

2 Aさんは,薬物再乱用防止プログラムの実施期間中,簡易薬物検出検査を受けることまでは求められない。

3 Aさんへの指導監督において,保護観察官若しくは保護司は,収入又は支出の状況など,生活実態に関する資料の提出を求めることはできない。

4 Aさんのプライバシー保護のため,薬物再乱用防止プログラムには外部の関係機関(者)は関与することはできない。

5 薬物依存の改善に資する医療を受けるよう,必要な指示その他の措置をとる場合は,あらかじめ,Aさんの意思に反しないことを確認しなければならない。

 

今回は,丁寧に前説を書いたので,答えはすぐわかると思います。しかし,前説を読んでいなくても正解出来そうな問題でもあります。

 

それでは,解説です。

 

1 Aさんの指導監督における,更生保護法が定める一般遵守事項としては,薬物再乱用防止プログラムを受けることが明記される。

 

薬物再乱用防止プログラムを受けることは,特別遵守事項として定められます。

 

 

2 Aさんは,薬物再乱用防止プログラムの実施期間中,簡易薬物検出検査を受けることまでは求められない。

 

薬物再乱用防止プログラムは,簡易薬物検出検査を受けながら実施されます。

 

3 Aさんへの指導監督において,保護観察官若しくは保護司は,収入又は支出の状況など,生活実態に関する資料の提出を求めることはできない。

 

保護観察官若しくは保護司が収入又は支出の状況など,生活実態に関する資料の提出を求めることは,一般遵守事項として定められています。

 

4 Aさんのプライバシー保護のため,薬物再乱用防止プログラムには外部の関係機関(者)は関与することはできない。

 

薬物再乱用防止プログラムは,更生保護事業を営む者その他の適当な者が行うことができます。

 

5 薬物依存の改善に資する医療を受けるよう,必要な指示その他の措置をとる場合は,あらかじめ,Aさんの意思に反しないことを確認しなければならない。

 

これが正解です。

 

特定の犯罪的傾向を改善するための専門的な援助を行うために必要な指示その他の措置を取る場合,保護観察対象者の意思に反しないことを確認しなければなりません。

 

ただし,専門処遇プログラムの実施が,特別遵守事項として定められている場合は,意思を確認する必要はありません。

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