それは,「高齢者に対する支援と介護保険制度」で出題されるからでしょう。
出題数が他の科目が基本的に7問なのに対し,この科目は10問です。そのため,ほかの科目より出題に余裕があります。
さて,今日の問題は,介護保険の保険料の問題です。
介護保険は当たり前ですが社会保険制度です。
社会保険には,ある一定の共通した仕組みがあります。
社会保険制度の整理
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それでは,今日の問題です。
第24回・問題124
介護保険法の保険料に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 第1号被保険者の保険料の特別徴収の対象となる年金には,老齢基礎年金,遺族基礎年金及び障害基礎年金が含まれる。
2 第1号被保険者の普通徴収される保険料の納付義務は,その被保険者本人が負い,その属する世帯の世帯主は負わない。
3 第1号被保険者の保険料率は,全国どこの保険者においても第4段階を基準額として,6段階に統一的に設定されている。
4 第2号被保険者の保険料は,医療保険者が徴収し,社会保険診療報酬支払基金を通じてその被保険者が居住する市町村に交付される。
5 第2号被保険者の保険料は,介護給付及び予防給付の財源に充てられ,地域支援事業の財源には充てられない。
「社会保障」で出題するよりも,ちょっと細かく出題されています。
しかし,問題文には,国試特有の癖があります。
それらに気がつけば,いくつかの選択肢は消去できることでしょう。
それでは,詳しく見ていきましょう。
1 第1号被保険者の保険料の特別徴収の対象となる年金には,老齢基礎年金,遺族基礎年金及び障害基礎年金が含まれる。
第1号被保険者の保険料の徴収方法には,普通徴収と特別徴収の方法があります。
このシステムを見るたびに,国の役人は頭がいいなぁ,と思います。
本来は,保険料は,保険者が徴収します。
介護保険の保険者は,市町村(あるいは広域連合)です。
市町村が保険者になっているものには,市町村国保があります。しかしその対象は一部です。
介護保険の被保険者は,65歳以上の第1号被保険者と40歳以上の第2号被保険者(生活保護受給者を除く)なので,対象人数が極めて多いこととなります。
そこで,第2号被保険者の保険料は,医療保険の保険料と一緒に徴収することを考えました。これで第2号被保険者問題はクリアされます。
さて,第1号被保険者の保険料を効率よく徴収するために,年金からの天引きすることを考えました。これが特別徴収です。絶対に取りはぐれることがありません。
年金額が年18万円以上を特別徴収することにしました。
大部分が年18万円以上です。それ未満は市町村が徴収する普通徴収です。普通徴収の対象はかなり少数派です。
この方式を考えたことで,市町村の事務はかなりシンプルになります。これで第1号被保険者の保険料徴収問題も解決です。
さて,問題に戻ります。
年金保険の種類
国民年金(基礎年金)の老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金。
被用者には,それに上乗せして,厚生年金の老齢厚生年金,障害厚生年金,遺族厚生年金があります。
これらの,年金額が年18万円以上の第1号被保険者の保険料は,年金からの天引きである「特別徴収」されます。
よって正解です。
2 第1号被保険者の普通徴収される保険料の納付義務は,その被保険者本人が負い,その属する世帯の世帯主は負わない。
間違い選択肢をつくるときの常とう手段
〇〇は▲▲だが,■■ではない。
というスタイルです。
この表現をしている出題は,実にたくさんあります。
別の言い方をすれば・・・
人は嘘をつくとき饒舌になる
答えが分からなくても,ほとんどの場合は消去できます。
もし,正解選択肢なら・・・
第1号被保険者の普通徴収される保険料の納付義務は,被保険者の属する世帯の世帯主は負わない。
という文章で十分だと思います。
これをわざわざ「その被保険者本人が負い,その属する世帯の世帯主は負わない」といったように,条件から除外しているのは,不自然さがあります。
第1号被保険者の普通徴収される保険料の納付義務は,被保険者の属する世帯の世帯主は「保険料連帯納付義務者」です。よって間違いです。
ここで,「あれっ?」と思った人もいるでしょう。
国民健康保険と年金保険(第1号被保険者)の仕組みと一緒です。
これが最初に述べた,社会保険の共通した仕組みの意味です。
3 第1号被保険者の保険料率は,全国どこの保険者においても第4段階を基準額として,6段階に統一的に設定されている。
これは,ちょっと難しいですね。現在は9段階が基準です。
しかし,市町村が条例で独自に細分化できます。よって間違いです。
ここでまた注意すべき用語が出てきています。
「統一的に」
介護保険は,国の制度ですが,法定受託事務ではなく,自治事務です。
そのため,市町村が独自に展開できるような仕組みがあります。
それが,
第1号被保険者の保険料率は,第9段階を基準額として,条例でさらに細分化できる,というものです。
それよりも,この問題のもともとの文章は論理的に破たんしていることにお気づきでしょうか。
第1号被保険者の保険料率は,全国どこの保険者においても第4段階を基準額として,6段階に統一的に設定されている。
6段階に統一されているのであれば,第4段階の基準は必要ではありません。
もし6段階に統一されているのが正解なら・・・
第1号被保険者の保険料率は,全国どこの保険者においても6段階に統一的に設定されている。
という文章でなければ論理的に正しくはありません。
ほかに注意したいものには「一律に」があります。
4 第2号被保険者の保険料は,医療保険者が徴収し,社会保険診療報酬支払基金を通じてその被保険者が居住する市町村に交付される。
第2号被保険者の保険料は,各医療保険の保険者が徴収して,社会保険診療報酬支払基金に納付します。
基金は,それを市町村等に介護給付費交付金及び地域支援事業支援交付金として交付します。交付金の金額は,市町村等からの交付申請に基づいて交付金の金額を決定します。
このように,第2号被保険者の保険料は,その居住する市町村に交付される仕組みではありません。
よって間違いです。
5 第2号被保険者の保険料は,介護給付及び予防給付の財源に充てられ,地域支援事業の財源には充てられない。
先述のように,第2号被保険者の保険料は,市町村等に介護給付費交付金及び地域支援事業支援交付金として交付します。
地域支援事業の財源として使われます。
よって間違いです。
第2号被保険者の保険料が使われないものには,市町村特別給付などがあります。
<今日の一言>
間違い選択肢を作るのは,とても難しい作業です。
そのために,今日紹介したような常とう手段を用いることがよくあります。
また,下手な試験委員が作ると,今日の問題のように,論旨矛盾(あるいは破たん)している文章になることもあります。
国試勉強の一環として,過去問を解いて覚えている人は多いと思います。
覚えるだけではなく,これらのポイントにいかに気がつき,慣れていくかが,とても重要な意味をもちます。
別な言い方をすれば,それを意識しない勉強法は実にもったいないです。
これができたら,あと数点をアップさせることができるでしょう。