「相談援助の理論と方法」は,社会福祉士の国試の150問の中では最もボリュームのある科目です。21問もあります。
この科目の重要性
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こんなにも重要な科目であるにもかかわらず,勉強に時間をかけることが少ない人が多いのではないでしょうか。
さて,今日もさまざまなアプローチを取り上げます。
さまざまなアプローチの押さえるべきポイント( )の数字は出題回数
心理社会的アプローチ(10)
源流は,トールらが確立した診断主義アプローチなので,フロイトの精神分析の理論が根底にあります。診断主義との違いは,診断主義は個人の内部に目を向けたものであるのに対して,心理社会的アプローチは,「状況の中の人」というキーワードで,人と状況の相互作用に目を向けてシステム的にとらえていることです。そのため,アプローチの名称に心理「社会的」アプローチという「社会」が加わっています。
機能的アプローチ(5)
クライエントは,クライエントの自らの意志で問題解決しようとする環境を提供するアプローチです。
見分けるときのポイントは「意志」という言葉です。
問題解決アプローチ(12)
クライエントは,潜在的に問題解決する可能性を持つ存在であるととらえます。いろいろな問題を抱えたクライエントに適用できますが,問題解決の動機づけがなされていないクライエントには適用できません。
見分けるときのポイントは「役割」です。
なお,役割理論の影響を受けているものには,他には課題中心アプローチがあります。
課題中心アプローチ(9)
クライエントと一緒に課題を見つけて,達成可能な課題を設定します。
見分けるときのポイントは「短期」です。
短期処遇のものには,他には危機介入アプローチ,解決志向アプローチがあります。
危機介入アプローチ(9)
危機に陥ったクライエントの対処能力を高めるためのアプローチです。心理社会的アプローチなどのようにパーソナリティの変容は求めません。早期に介入して短期処遇で対処能力を高めます。
見分けるときのポイントは「対処能力」です。課題中心アプローチ,危機介入アプローチ,解決志向アプローチは短期処遇なので,「長期」と記述されれば間違いとなります。
行動変容アプローチ(8)
不適切な行動は不適切な学習の結果だととらえ,学習理論を活用して,問題となる行動の変容を目指すアプローチです。
見分けるときのポイントは「学習理論」です。国試ではここの部分が他の理論に入れ替えて出題されることが多くあります。
エンパワメントアプローチ(8)
個人と敵対的な社会環境との相互関係によって,人は抑圧状態に置かれると無力な状態に陥ることに着目して,クライエントが自ら置かれている抑圧状態を認識することで,自らの能力に気づき,問題対処能力を高めるアプローチです。
見分けるときのポイントは「抑圧」です。抑圧という言葉が使われるのは,フェミニストアプローチがあります。
エンパワメントアプローチの抑圧との違いは,エンパワメントアプローチは,クライエント自身が抑圧された状態を認識するものであるのに対し,フェミニストアプローチは,女性が抑圧された状態からの解放だけではなく,社会変革を目指すものであることです。
ナラティブアプローチ(7)
クライエントの語りを重視して,新たな世界を作り出すアプローチです。
見分けるときのポイントは「語り」「ストーリー」「言語」です。
解決志向アプローチ(8)
さまざまな質問などを活用して,クライエントが解決した未来を志向できるようにさまざまな質問を活用するアプローチです。
見分けるときのポイントは「解決」です。
問題解決アプローチの解決との違いは,問題解決アプローチはクライエント自らが問題解決する存在であるととらえて援助するものであるのに対し,解決志向アプローチは,問題は解決せずとも,解決した未来(明るい将来)を志向するものです。
同じ解決という言葉を使っていますが,内容は異なります。
解決志向アプローチは,短期療法(ブリーフセラピー)なので,短期処遇です。
フェミニストアプローチ(2)
女性が抑圧されている現状からの解放と社会変革を目指すものです。
エンパワメントアプローチの女性版であるとともにソーシャルアクションの要素もあります。
見分けるときのポイントは「エンパワメント」です。
実存主義アプローチ(2)
クライエントが自らの存在価値を認識して,疎外からの解放を目指すアプローチです。見分けるときのポイントは「疎外」です。
さて,これからを押さえて,今日の問題です。
第27回・問題100
相談援助のアプローチに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 フェミニストアプローチは,女性にとっての差別や抑圧などの社会的な現実を顕在化させ,個人のエンパワメントと社会的抑圧の根絶を目指す。
2 解決志向アプローチは,ソーシャルワークを問題解決の過程としてとらえ,クライエント自らが問題を解決することを目指す。
3 行動変容アプローチは,役割理論を導入したもので,条件反射の消去あるいは強化により,特定の問題行動の変容を図る。
4 課題中心アプローチは,短期間の援助を目指したもので,他のソーシャルワークアプローチの影響を受けていない。
5 心理社会的アプローチは,精神分析理論を導入したもので,人は意志を持っていると考え,意志の力を活用した援助を行う。
前説で見分けるときのポイントを詳しく紹介したので,そんなに難しくはないかもしれませんが,詳しく見ていきましょう。
1 フェミニストアプローチは,女性にとっての差別や抑圧などの社会的な現実を顕在化させ,個人のエンパワメントと社会的抑圧の根絶を目指す。
これが正解です。フェミニストアプローチは,エンパワメントアプローチの女性版の要素とソーシャルアクションの要素をプラスしたものです。
2 解決志向アプローチは,ソーシャルワークを問題解決の過程としてとらえ,クライエント自らが問題を解決することを目指す。
クライエント自らが問題を解決することを目指すのは,問題解決アプローチです。
よって間違いです。解決志向アプローチは,問題は必ずしも解決されなくてもよく,質問などの技法を使って,クライエントが解決した未来を志向できることを目指すものです。「解決」という言葉は共通ですが,その中身は異なります。
しっかり押さえていきましょう。
3 行動変容アプローチは,役割理論を導入したもので,条件反射の消去あるいは強化により,特定の問題行動の変容を図る。
行動変容アプローチと言えば「学習理論」です。よって間違いです。
4 課題中心アプローチは,短期間の援助を目指したもので,他のソーシャルワークアプローチの影響を受けていない。
課題中心アプローチは,モダニズム系の「心理社会的アプローチ」「問題解決アプローチ」「行動変容アプローチ」の影響を受けています。
よって間違いです。
これらのことが分からなくても「影響を受けていない」という表現に違和感があるので,正解にはできないでしょう。
もともとは「影響を受けている」という表現だった正しい文章を否定形に変えることで間違い選択肢にしたことがうかがえます。
5 心理社会的アプローチは,精神分析理論を導入したもので,人は意志を持っていると考え,意志の力を活用した援助を行う。
意志と言えば,機能的アプローチです。
よって間違いです。
<今日の一言>
すべてのアプローチは,もっと深いものだと思いますが,国試で出題されるのは,このレベルです。
決して深掘りすることはありません。
理論系の問題は,ほかの科目でも一緒です。