2020年3月17日火曜日

④社会福祉の原理と政策~その2~第32回・問題99について

新しいカリキュラムは,第32回から実施されます。

現在の「現代社会と福祉」は,「社会福祉の原理と政策」という科目に生まれ変わります。


社会福祉の原理と政策(60時間)
ねらい(目標)
①社会福祉の原理をめぐる思想・哲学と理論を理解する。
②社会福祉の歴史的展開の過程と社会福祉の理論を踏まえ、欧米との比較によって日本の社会福祉の特性を理解する。
③社会問題と社会構造の関係の視点から、現代の社会問題について理解する。
④福祉政策を捉える基本的な視点として、概念や理念を理解するとともに、人々の生活上のニーズと福祉政策の過程を結びつけて理解する。
⑤福祉政策の動向と課題を踏まえた上で、関連施策や包括的支援について理解する。
⑥福祉サービスの供給と利用の過程について理解する。
⑦福祉政策の国際比較の視点から、日本の福祉政策の特性について理解する。
教育に含むべき事項(内容)
教育に含むべき事項
想定される教育内容の例
①社会福祉の原理
1 社会福祉の原理を学ぶ視点
・社会福祉の歴史、思想・哲学、理論、社会福祉の原理と実践
・社会福祉学の構造と特徴
②社会福祉の歴史
1 社会福祉の歴史を学ぶ視点
・歴史観、政策史、実践史、発達史、時代区分
・日本と欧米の社会福祉の比較史の視点
2 日本の社会福祉の歴史的展開
・慈善事業、博愛事業
・社会事業
・社会福祉事業
・社会福祉
3 欧米の社会福祉の歴史的展開
・救貧法
・慈善事業、博愛事業
・社会事業、社会保険
・福祉国家、福祉社会
・国際的潮流
③社会福祉の思想・哲学、理論
1 社会福祉の思想・哲学
・社会福祉の思想・哲学の考え方
・人間の尊厳
・社会正義
・平和主義 等
2 社会福祉の理論
・社会福祉の理論の基本的な考え方
・戦後社会福祉の展開と社会福祉理論
・社会福祉の理論(政策論、技術論、固有論、統合論、運動論、経営論)
・欧米の社会福祉の理論
3 社会福祉の論点
・公私関係、効率性と公平性、普遍主義と選別主義、自立と依存、自己選択・自己決定とパターナリズム、参加とエンパワメント、ジェンダー、社会的承認
4 社会福祉の対象とニーズ
・ニーズと需要の概念
・社会福祉の対象とニーズ
・ニーズの種類と次元
・ニーズの理論とその課題
④社会問題と社会構造
1 現代における社会問題
・貧困、孤立、失業、要援護性、偏見と差別、社会的排除、ヴァルネラビリティ、ニューリスク、依存症、自殺
2 社会問題の構造的背景
・低成長経済、グローバル化、少子高齢化、人口減少社会、格差、貧困、社会意識・価値観の変化
⑤福祉政策の基本的な視点
1福祉政策の概念・理念
・現代の社会問題と福祉政策
・福祉政策の概念・理念
・福祉政策と社会保障、社会政策
・福祉レジームと福祉政策
⑥福祉政策におけるニーズと資源
1 ニーズ
・種類と内容
・把握方法
2 資源
・種類と内容
・把握方法
・開発方法
⑦福祉政策の構成要素と過程
1 福祉政策の構成要素
・福祉政策の構成要素とその役割・機能
・政府、市場(経済市場、準市場、社会市場)、事業者、国民(利用者を含む)
・措置制度
・多元化する福祉サービス提供方式
2 福祉政策の過程
・政策決定、実施、評価
・福祉政策の方法・手段
・福祉政策の政策評価・行政評価
・福祉政策と福祉計画

この中の社会福祉理論は,第32回で早速出題されています。



第32回・問題99 岡村重夫が述べた社会福祉の一般的機能に関して,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 評価的機能は,援助者が,対象者の参加なしに対象者が抱える生活困難を評価するために発揮される。

2 調整的機能は,専門職間で生じている不調和の解決を図るために発揮される。

3 送致的機能は,援助者の所属機関が対象者の主訴に対処できないとき,適切な機関に対象者を紹介するために発揮される。

4 開発的機能は,個人の社会関係能力条件を開発するために発揮される。

5 保護的機能は,個人が必要とする保護を永続的に提供するために発揮される。



この問題の正解は,4です。

解答速報では,選択肢3を正解にしていた会社が多かったために,合格発表で,選択肢4が正解になったので,驚いた人も多かったようです。

この問題は,第32回国試の中でも難しい部類に入るものでしょう。

多くの会社が,選択肢3「送致的機能は,援助者の所属機関が対象者の主訴に対処できないとき,適切な機関に対象者を紹介するために発揮される」を正解にするほど,混乱しています。

この問題の根拠文献は,岡村重夫先生の『社会福祉原論』(1983)です。

極めて明快です。

それにもかかわらず,解答速報で間違ったのは,いわゆる「孫引き」(原著を読まずに,原著を参考にして書いた論文を参考にして書くこと)をしたためではないかと思います。

送致的機能を岡村先生は以下のように述べています。

送致的機能は

欠損した社会関係を回復させるか,あるいはそれに代わる社会関係を見出すことができるように援助する機能である。

いわゆる「リファーラル」とは,異なります。

開発的機能は,

個人に対しても,また集団や地域社会に対しても発動する。個人に関連する開発的機能は,個人の社会関係能力条件や新しい生活目標と生活態度を発展させることを意味する。

と述べています。


<今日の一言>

第32回の問題99は,とても難しい問題です。

岡村理論を理解していることが正解するために必要です。

解答速報と試験センターが発表した正答が違ったために,自己採点よりも下がった人がいると思います。

この問題の正解が,選択肢3だったら,合格していたと思う人もいるかもしれません。

しかし,単純にはそうなりません。

正解が選択肢3であって,受験者の多くが選択肢3を選んでいたとしたら,ボーダーラインは1点上がってしまう可能性があるからです。

国家試験の150問の中には,必ず問題99のような難しい問題が出題されます。

しかし,そういった問題が解けないと国家試験に合格できないものでは決してありません。

なぜなら,問題99のような難しい問題数は限られているからです。

それ以外の問題を確実に正解することができる知識と実力を備えて国試に臨むことができれば,ボーダーラインの行方を気にする必要がないほどの点数は取れます。

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