受験生の多くは,歴史と人名が苦手です。
そのため,たとえ正解できなくても,ほかの受験生とは差がつきにくいものです。
さて,今日の問題です。
第32回・問題57 障害者福祉制度の発展過程に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 1960年(昭和35年)に成立した精神薄弱者福祉法は,ノーマライゼーションを法の理念とし,脱施設化を推進した。
2 1981年(昭和56年)の国際障害者年で主題として掲げられたのは,合理的配慮であった。
3 1995年(平成7年)に精神保健法が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に改正され,保護者制度が廃止された。
4 2013年(平成25年)に成立した「障害者差別解消法」では,障害者を医学モデルに基づいて定義している。
5 2018年(平成30年)に閣議決定された障害者基本計画(第4次)では,命の重さは障害によって変わることはないという価値観を社会全体で共有できる共生社会の実現に寄与することが期待されている。
(注) 「障害者差別解消法」とは,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」のことである。
この問題は,歴史問題の形を借りて,今のことを説いているものです。
現在の社会福祉士の国家試験には,しばしば見られます。
この問題の正解は,選択肢5です。
5 2018年(平成30年)に閣議決定された障害者基本計画(第4次)では,命の重さは障害によって変わることはないという価値観を社会全体で共有できる共生社会の実現に寄与することが期待されている。
この問題を読んだ人は,おそらく2016年に神奈川県で起きた悲しくおぞましい事件を思い出したのではないでしょうか。
事件のことには触れずに,社会に語り掛けるこの問題は,試験委員のメッセージです。
ほかの選択肢も見てみましょう。
1 1960年(昭和35年)に成立した精神薄弱者福祉法は,ノーマライゼーションを法の理念とし,脱施設化を推進した。
精神薄弱者福祉法(現・知的障害者福祉法)は,脱施設化ではなく,逆に障害者福祉における施設化の始まりとなったものです。
ノーマライゼーション思想は,1950年代にデンマークで始まったものです。
日本でその思想が本格的に広まったのは,1981年の国際障害者年以降のことです。
2 1981年(昭和56年)の国際障害者年で主題として掲げられたのは,合理的配慮であった。
合理的配慮が初めて示されたのは,1990年のADA法(障害をもつアメリカ人法)です。
1981年の国際障害者年のずっと後のことです。
国際障害者年のテーマは「完全参加と平等」でした。
3 1995年(平成7年)に精神保健法が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に改正され,保護者制度が廃止された。
社会福祉士を受験する人にとっては,この選択肢はちょっと手ごわいものでしょう。
精神保健福祉法は,精神保健福祉士との差別化のためなのか,今までほとんど出題されることがありませんでした。
保護者制度が廃止されたのは,2013年のことです。
精神保健福祉士の専門科目では,こんな問題が出題されています。
問題11 精神保健に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。
1 歴史的に精神衛生を発展させた概念である。
2 精神疾患の一次予防を目的とした活動を意味し,治療を目的とする精神医療に対比する言葉として用いられる。
3 精神医学の領域に初めて予防の概念を取り入れたのはアメリカのビアーズ(Beers,C.)である。
4 精神疾患に罹患している人を対象とした訪問指導は,吉川武彦が提唱した3側面のうちの積極的精神保健に含まれる活動である。
5 全ての人々の精神的健康を保持・増進させていく活動を含む。
正解は,選択肢1と5です。
覚えておきたいのは,現在の精神保健福祉法は,
精神衛生法(1950)
↓ ↓
精神保健法(1987)
↓ ↓
精神保健福祉法(1995)
と発展してきたことです。
精神衛生法では,現在の医療保護入院につながる「同意入院」が規定され,精神保健法では,任意入院が規定されています。
さて,続けます。
4 2013年(平成25年)に成立した「障害者差別解消法」では,障害者を医学モデルに基づいて定義している。
障害者差別解消法は,障害者権利条約を批准するために国内法を整備した中の一つです。
社会的障壁という用語を用いた社会モデルに基づいて定義されています。
<今日の一言>
歴史が苦手な人は,年号などを覚えることが先に来ているように思います。
しかし,国家試験では,年号を知らなければ解けない問題はほとんどありません。
だいたいの時代を押さえることで十分です。
歴史を学ぶときに必要なのは,断片を切り取ることなく,全体の流れをつかむことが大切です。
そうすると,多くの歴史問題に対応できる知識となります。
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