2020年3月21日土曜日

新カリキュラムの概要~⑦障害者福祉

第37回国家試験から新カリキュラムの内容に変わります。

現時点での直近である第32回国家試験は150問出題されています。

しかし当初から150問だったわけではありません。

国家試験問題は第1回と第2回は非公表のため,私たちを含めて一般の人が問題を見られるのは,第3回以降です。

第3回国家試験は,170問出題されています。第1回と第2回も同じく170問だったと考えるのが適切でしょう。

第4回から現在と同じ150問になって現在に至ります。

現在のカリキュラムは,第22回から実施されています。

第22~24回は,

午前(共通科目) 2時間 76問
午後(専門科目) 2時間 74問

でしたが,第25回以降は

午前(共通科目) 2時間15分 83問
午後(専門科目) 1時間45分 67問

で実施されるようになっています。

最初の方がバランスが良いのに,第25回からバランスが崩れているのは,第25回から「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」が,専門科目から共通科目に移行したためです。

さて,今回取り上げるのは,「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」の流れをくむ「⑦障害者福祉」です。

国家試験で午前中に実施される問題を共通科目と呼ばれることがあるのは,この部分が精神保健福祉士にも共通しているからです。

大学によっては,社会福祉士と精神保健福祉士の受験資格を合わせて得られます。
そのため,2つの資格を得られるように,以下のスケジュールで,実施されています。

土曜日の午後 専門科目(精神保健福祉士)
日曜日の午前 共通科目
日曜日の午後 専門科目(社会福祉士)

障害者に関する科目が専門科目から共通科目に移行したのは,精神保健福祉士でも学べるようにしたためです。

精神保健福祉士が対象とするのは,精神障害者です。そのために障害者福祉の知識が求められます。

話は脱線しますが,精神保健福祉士の合格率は,約60%です。
社会福祉士が約30%であるので,その倍の合格率になっています。

精神保健福祉士の合格率が高いのは,精神疾患とその治療も学びますが,基本は精神障害なので,出題範囲が狭いからです。

それにもかかわらず,精神保健福祉士の専門科目の問題数は80問(共通科目と合わせて163問)なので,共通科目の点数が低くても,専門科目で点数を稼ぐことができます。

社会福祉士の場合は,共通科目もある程度得点できないと専門科目で逆転することができません。

直近の国家試験のボーダーラインを比較すると

社会福祉士 150問中,88点以上(専門科目のみ受験の場合は,37点以上)
精神保健福祉士 163問中,90点以上(専門科目のみ受験の場合は,40点以上)

のようになっています。

いわゆるダブル受験をしていて,何度も受験に失敗されている方の場合は,一度社会福祉士の受験をやめて,精神保健福祉士に絞って勉強して,精神保健福祉士に合格した後,社会福祉士の専門科目のみで受験した方が良いかもしれません。

さて,「⑦障害者福祉」です。


障害者福祉(30時間)
ねらい(目標)
①障害の概念と特性を踏まえ、障害者とその家族の生活とこれを取り巻く社会環境について理解する。
②障害者福祉の歴史と障害観の変遷、制度の発展過程について理解する。
③障害者に対する法制度と支援の仕組みについて理解する。
④障害による生活課題を踏まえ、社会福祉士及び精神保健福祉士としての適切な支援のあり方を理解する。
教育に含むべき事項(内容)
教育に含むべき事項
想定される教育内容の例
①障害概念と特性
1 国際生活機能分類(ICF
ICIDHからICF
ICFの構造
2 障害者の定義と特性
・身体障害(肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、内部障害、難病等)
・知的障害
・精神障害
・発達障害
②障害者の生活実態とこれを取り巻く社会環境
1 障害者の生活実態
・地域移行
・居住
・就学、就労
・高齢化
・介護需要
・障害者の芸術、スポーツ
2 障害者を取り巻く社会環境
・バリアフリー
・コンフリクト
・障害者虐待
・親亡き後問題、きょうだいへの支援
③障害者福祉の歴史
1 障害者福祉の理念
・ノーマライゼーション
・ソーシャルインクルージョン
2 障害観の変遷
・偏見と差別
・障害者の権利条約の批准の経緯
・障害者基本法の変遷
3 障害者処遇の変遷
・明治以前の障害者の処遇
・明治以降の障害者の処遇
・戦後の障害者の処遇
4 障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)と障害者基本法
・障害者権利条約の概要
・障害者基本法の概要
5 障害者福祉制度の発展過程

④障害者に対する法制度
1 障害者総合支援法
・障害者総合支援法の概要
・障害福祉サービス及び相談支援
・障害支援区分及び支給決定
・自立支援医療
・補装具
・地域生活支援事業
・障害福祉計画
2 身体障害者福祉法
・身体障害者福祉法の概要
・身体障害者手帳、身体障害者福祉法に基づく措置
3 知的障害者福祉法
・知的障害者福祉法の概要
・療育手帳、知的障害者福祉法に基づく措置
4 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)
・精神保健福祉法の概要
・精神障害者保健福祉手帳
・精神保健福祉法における入院形態
・精神科病院における処遇
5 児童福祉法
・児童福祉法における障害児支援の概要
・発達支援、家族支援、地域支援
6 発達障害者支援法
・発達障害者支援法の概要
・発達障害者支援センターの役割
7 障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)
・障害者虐待防止法の概要
・障害者虐待の未然防止
・通報義務、早期発見
8 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)
・障害者差別解消法の概要
・障害を理由とする差別を解消するための措置(合理的な配慮)

9 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)
・バリアフリー法の概要
・施設設置管理者等の責務
10 障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)
・障害者雇用促進法の概要
・事業主の責務、法定雇用率
11 国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律(障害者優先調達推進法)
・障害者優先調達推進法の概要
・障害者就労施設
⑤障害者と家族等の支援における関係機関と専門職の役割
1 障害者と家族等の支援における関係機関の役割
・国、都道府県、市町村
・障害者に対する法制度に基づく施設、事業所
・特別支援学校
・ハローワーク
2 関連する専門職等の役割
・医師、保健師、看護師、理学療法士、作業療法士 等
・相談支援専門員、サービス管理責任者、居宅介護従事者 等
・ピアサポーター
・養護教諭、スクールソーシャルワーカー
・家族、住民、ボランティア 等
⑥障害者と家族等に対する支援の実際
1 障害領域における社会福祉士及び精神保健福祉士の役割

2 障害者と家族等に対する支援の実際(多職種連携を含む)
・地域相談支援
・就労支援
・居住支援

新しく加わっているのは,主に以下の部分です。

①障害概念と特性
1 国際生活機能分類(ICF
ICIDHからICF
ICFの構造
②障害者の生活実態とこれを取り巻く社会環境
1 障害者の生活実態
・障害者の芸術、スポーツ
2 障害者を取り巻く社会環境
・コンフリクト
・親亡き後問題、きょうだいへの支援
③障害者福祉の歴史
2 障害観の変遷
・偏見と差別
・障害者の権利条約の批准の経緯
・障害者基本法の変遷
3 障害者処遇の変遷
・明治以前の障害者の処遇
・明治以降の障害者の処遇
・戦後の障害者の処遇
④障害者に対する法制度
8 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)
・障害者差別解消法の概要
・障害を理由とする差別を解消するための措置(合理的な配慮)
11 国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律(障害者優先調達推進法)
・障害者優先調達推進法の概要
・障害者就労施設


このほかにも,家族支援の視点が含まれています。

歴史が苦手な人は,やっかいになると思うのは,以下の部分です。


3 障害者処遇の変遷
・明治以前の障害者の処遇
・明治以降の障害者の処遇
・戦後の障害者の処遇

この辺りは,社会福祉士では,ほとんど触れられてこなかったものです。


精神保健福祉士の第15回・問題36 精神保健医療福祉関連の法制度の変遷に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 精神病者慈善救治会の働きかけにより精神病者監護法(1900(明治33)年)が制定された。

2 精神病院法が目標とした全道府県での公立精神科病院の建設が達成され,精神衛生法(1950(昭和25)年)が制定された。

3 精神障害者も対策の対象に含めた心身障害者対策基本法(1970(昭和45)年)が制定された。

4 精神衛生法が精神障害者の人権に配慮した適正な医療及び保護を明示した精神保健法(1987(昭和62)年)に改称・改正された。

5 精神保健法が精神障害者社会復帰施設を法定化した「精神保健福祉法」(1995(平成7)年)に改称・改正された。

(注) 「精神保健福祉法」とは,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」のことである。


こういった問題が出題されてくるように思います。

正解は,選択肢4です。

4 精神衛生法が精神障害者の人権に配慮した適正な医療及び保護を明示した精神保健法(1987(昭和62)年)に改称・改正された。

現在の精神保健福祉法は「精神衛生法(1950)」→「精神保健法(1987)」→「精神保健福祉法(1995)」と変遷しています。

このうち,精神衛生法が精神保健法に改正された背景には,共通科目でも出題されたことのある,看護職員によって入院患者が殺害された「宇都宮事件」がきっかけとなっています。

この時に任意入院が制度化されました。

第32回でも精神保健福祉の歴史に関するものを含めて出題されています。

第32回・問題57 障害者福祉制度の発展過程に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 1960年(昭和35年)に成立した精神薄弱者福祉法は,ノーマライゼーションを法の理念とし,脱施設化を推進した。

2 1981年(昭和56年)の国際障害者年で主題として掲げられたのは,合理的配慮であった。

3 1995年(平成7年)に精神保健法が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に改正され,保護者制度が廃止された。

4 2013年(平成25年)に成立した「障害者差別解消法」では,障害者を医学モデルに基づいて定義している。

5 2018年(平成30年)に閣議決定された障害者基本計画(第4次)では,命の重さは障害によって変わることはないという価値観を社会全体で共有できる共生社会の実現に寄与することが期待されている。

(注) 「障害者差別解消法」とは,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」のことである。

この問題の正解は,選択肢5です。

5 2018年(平成30年)に閣議決定された障害者基本計画(第4次)では,命の重さは障害によって変わることはないという価値観を社会全体で共有できる共生社会の実現に寄与することが期待されている。

この問題は精神保健福祉士の方が若干有利だったように思います。

その理由は,

3 1995年(平成7年)に精神保健法が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に改正され,保護者制度が廃止された。

保護者制度が廃止されたのは,2013年改正の時です。精神保健福祉士を受験する人なら必ず勉強するものです。


<今日の一言>

新しいカリキュラムに移行するのは,第37回です。

現在のカリキュラムは,まだあと4回あります。

新しいカリキュラムに変わっても,受験資格はなくなるわけではありません。
そして,それほど不利になるものでもありません。

しかし。できるなら,現在のカリキュラムのうちに合格してしまうのが良いです。

因みに,不利にならない,というのは,現在のカリキュラムの範囲の中で,上手に新しいカリキュラムの内容を入れ込んで出題していくと思うからです。

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