新しいカリキュラムによる国家試験は,第37回から実施されます。
今回は,「貧困に対する支援」を取り上げます。
この科目は,現在の科目の「低所得者に対する支援と生活保護制度」の後継となるものです。
「低所得者」が「貧困」に変わり,生活保護が消されています。
この変化は,古典的福祉ニーズは,所得補償だったものが,所得補償では充足することができない福祉ニーズに対応するものだと言えます。
それでは内容を見てみましょう。
貧困に対する支援(30時間)
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ねらい(目標)
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①貧困や公的扶助の概念を踏まえ、貧困状態にある人の生活実態とこれを取り巻く社会環境について理解する。
②貧困の歴史と貧困観の変遷について理解する。
③貧困に係る法制度と支援の仕組みについて理解する。
④貧困による生活課題を踏まえ、社会福祉士としての適切な支援のあり方を理解する。
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教育に含むべき事項(内容)
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教育に含むべき事項
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想定される教育内容の例
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①貧困の概念
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1 貧困の概念
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・絶対的貧困、相対的貧困、社会的排除、社会的孤立
等
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2 公的扶助の意義と範囲
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・公的扶助の意義(生存権、セーフティーネット、ナショナルミニマム)
・公的扶助の範囲(狭義、広義)
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②貧困状態にある人の生活実態とこれを取り巻く社会環境
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1 貧困状態にある人の生活実態
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・健康
・居住
・就労
・教育
・社会関係資本
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2 貧困状態にある人を取り巻く社会環境
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・経済構造の変化
・家族、地域の変化
・格差の拡大
・社会的孤立
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③貧困の歴史
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1 貧困状態にある人に対する福祉の理念
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・人権の尊重
・尊厳の保持
・貧困、格差、差別の解消
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2 貧困観の変遷
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・スティグマ
・貧困の測定
・貧困の発見
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3 貧困に対する制度の発展過程
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・救貧制度(日本、諸外国)
・生活保護法
・ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法
・子どもの貧困対策の推進に関する法律
・生活困窮者自立支援法
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④貧困に対する法制度
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1 生活保護法
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・生活保護法の原理原則と概要
・生活保護制度の動向
・最低生活費と生活保護基準
・福祉事務所の機能と役割
・相談支援の流れ
・自立支援、就労支援の考え方と自立支援プログラム
・生活保護施設の役割
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2 生活困窮者自立支援法
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・生活困窮者自立支援法の理念と概要
・生活困窮者自立支援制度の動向
・自立相談支援事業と任意事業
・生活困窮者自立支援制度における組織と実施体制
・相談支援の流れ
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3 低所得者対策
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・生活福祉資金貸付制度
・無料低額診療事業
・無料低額宿泊所
・求職者支援制度
・法律扶助
・低所得者への住宅政策と住居支援
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4 ホームレス対策
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・ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法の概要
・ホームレスの考え方と動向
・ホームレス支援施策
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⑤貧困に対する支援における関係機関と専門職の役割
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1 貧困に対する支援における公私の役割関係
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・行政の責務
・公私の役割関係
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2 国、都道府県、市町村の役割
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・国の役割
・都道府県の役割
・市町村の役割
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3 福祉事務所の役割
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・福祉事務所の組織
・福祉事務所の業務
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4 自立相談支援機関の役割
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・自立相談支援機関の組織
・自立相談支援機関の業務
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5 その他の貧困に対する支援における関係機関の役割
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・社会福祉協議会
・ハローワーク、地域若者サポートステーション
・民間支援団体
等
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6 関連する専門職等の役割
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・精神保健福祉士、医師、保健師、看護師、理学療法士、作業療法士
等
・介護支援専門員、サービス管理責任者等
・ハローワーク就職支援ナビゲーター等
・教諭、スクールソーシャルワーカー
等
・弁護士、保護観察官、保護司
等
・民生委員、児童委員、主任児童委員
・家族、住民、ボランティア
等
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⑦貧困に対する支援の実際
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1 社会福祉士の役割
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2貧困に対する支援の実際(多職種連携を含む)
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・生活保護制度及び生活保護施設における自立支援、就労支援、居住支援
・生活困窮者自立支援制度における自立支援、就労支援、居住支援
・生活福祉資金貸付を通じた自立支援
・多機関及び多職種、住民、企業等との連携による地域づくりや参加の場づくり
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随所に新しいものが見られます。
これまでも「生活困窮者自立支援法」は,出題されてきましたが,この中では,低所得者対策から独立しています。
第32回国試問題を見てみましょう。
第32回・問題69 低所得者の支援を行う組織や制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 福祉事務所未設置町村は,生活困窮者及びその家族等からの相談に応じ,生活困窮者自立相談支援事業の利用勧奨等を行う事業を行うことができる。
2 生活困窮者自立相談支援事業の相談支援員は,社会福祉主事でなければならないと社会福祉法に定められている。
3 民生委員は,地域の低所得者を発見し,福祉事務所につなぐために市長から委嘱され,社会奉仕の精神で住民の相談に応じる者である。
4 住宅を喪失した人への支援策として,無料低額宿泊所は全ての市町村が設置しなければならない。
5 生活困窮者一時生活支援事業は,生活保護の被保護者が利用する事業である。
これからは,こんな問題も出題されていくと思います。
正解は,選択肢1です。
1 福祉事務所未設置町村は,生活困窮者及びその家族等からの相談に応じ,生活困窮者自立相談支援事業の利用勧奨等を行う事業を行うことができる。
近年の国試では,生活保護法における福祉事務所を設置しない町村の役割について出題されてしていましたが,いよいよ生活困窮者自立支援制度における町村の役割に関するものも出題してきています。
<今日の一言>
旧カリキュラムでは「公的扶助論」,現在のカリキュラムでは「低所得者に対する支援と生活保護制度」となっている科目が,新しいカリキュラムは,「貧困に対する支援」となります。
これまでも「生活困窮者自立支援法」に関するものは出題されてきましたが,基本的に生活保護法を押さえておけば,ある程度の点数は稼ぐことができました。
しかし,新しいカリキュラムでは,覚えるべき法制度が広がるので,科目自体の難易度は上がると考えられます。
新しいカリキュラムに移る前から,今日の問題のような出題はされていくと思われるので,手ごわい科目になることが予測されます。