今回は,「社会福祉調査の基礎」を取り上げます。
科目名称から想像がつくと思いますが,現在の「社会調査の基礎」の後継科目です。
ただし,内容は広がります。
社会福祉調査の基礎(30時間)
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ねらい(目標)
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①社会福祉調査の意義と目的について理解する。
②社会福祉調査と社会福祉の歴史的関係について理解する。
③社会福祉調査における倫理や個人情報保護について理解する。
④量的調査の方法及び調査の結果について適切に理解する。
⑤質的調査の方法及び調査の結果について適切に理解する。
⑥ソーシャルワークにおける評価の意義と方法について理解する。
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教育に含むべき事項(内容)
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教育に含むべき事項
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想定される教育内容の例
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①社会福祉調査の意義と目的
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1 社会福祉調査の意義と目的
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・ソーシャルワーク実践の可視化
・ソーシャルワーク実践の理論化
・アクション・リサーチ
・公的統計と政策決定
・ソーシャルワークの価値や倫理と社会福祉調査の関連
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2 社会福祉調査と社会福祉の歴史的関係
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・古典(ブース、ラウントリー、タウンゼント等)
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3 統計法
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・統計法の概要
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②社会福祉調査における倫理と個人情報保護
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1 社会福祉調査における倫理
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2 社会福祉調査における個人情報保護
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・倫理的配慮
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③社会福祉調査のデザイン
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1調査における考え方・論理
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・理論と調査の関係
・演繹法と帰納法
・因果関係
・内的妥当性
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2 社会福祉調査の目的と対象
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・目的(探索、記述、説明)
・分析単位(個人、家族、グループ、コミュニティ、社会関係、現象等)
・サンプリング(母集団、標本、標本抽出、標本の代表性、外的妥当性)
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3 社会福祉調査でのデータ収集・分析
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・フィールド調査
・文献や既存のデータを用いた調査
・実験
・評価のための調査
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4社会福祉調査のプ
ロセス
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・問の設定、概念化・操作化、対象と方法の選択、データ収集、分析、考察
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④量的調査の方法
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1 量的調査の概要
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・多数把握、実態把握、因果関係の推論、一般化
・経験の詳細な理解
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2 量的調査の種類と方法
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・全数調査と標本調査、Web調査
・横断調査、縦断調査、パネル・スタディ
・母集団、標本、標本抽出
・二次分析
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3 質問紙の作成方法と留意点
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・ワーディングとその他の留意点
・パーソナルな質問とインパーソナルな質問
・測定(測定の水準、測定の信頼性と妥当性等)
・プレコーディングとアフターコーディング
・自計式(自記式)、他計式
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4 質問紙の配布と回収
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・訪問面接、郵送、留置、集合、電話、インターネット
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5 量的調査の集計と分析
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・コーディング
・単純集計と記述統計、質的データの関連性(クロス集計)、量的データの関連性(散布図、相関と回帰)、多変量解析
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⑤質的調査の方法
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1 質的調査の概要
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・個人の経験の詳細な理解及び他者との相互作用の詳細な理解
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2 観察法
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・参与観察法、非参与観察法、統制的観察法
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3 面接法
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・構造化面接法、半構造化面接法、自由面接法
・フォーカス・グループ・インタビュー
・インタビューガイド、逐語録
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4 質的調査における記録の方法と留意点
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・観察や面接の記録方法
・音声、映像、テキストのデータの扱い方
・実践の記録や会議資料等の活用
・資料収集におけるICT の活用
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5 質的調査のデータの分析方法
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・事例研究
・グラウンデッドセオリーアプローチ
・ナラティヴアプローチ
・ライフストーリー、ライフヒストリー
・エスノグラフィー
・アクション・リサーチ
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⑥ソーシャルワークにおける評価
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1 ソーシャルワークにおける評価の意義
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・ミクロ・メゾ・マクロレベルにおける実践の評価
・根拠に基づく実践(EBP)とナラティヴに基づく実践(NBP)
・アカウンタビリティ
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2 ソーシャルワークにおける評価対象
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・実践、プログラム、政策
・構造(ストラクチャー)
・過程(プロセス)
・結果(アウトカム)
・影響(インパクト)
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3 ソーシャルワークにおける評価方法
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・シングル・システム・デザイン
・実験計画法
・質的な評価法
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新しく加わるのは,以下の部分です。
⑥ソーシャルワークにおける評価
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1 ソーシャルワークにおける評価の意義
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・ミクロ・メゾ・マクロレベルにおける実践の評価
・根拠に基づく実践(EBP)とナラティヴに基づく実践(NBP)
・アカウンタビリティ
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2 ソーシャルワークにおける評価対象
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・実践、プログラム、政策
・構造(ストラクチャー)
・過程(プロセス)
・結果(アウトカム)
・影響(インパクト)
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3 ソーシャルワークにおける評価方法
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・シングル・システム・デザイン
・実験計画法
・質的な評価法
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ただし,まったく新しいものではなく,他科目からこの科目に合流させています。
第32回・問題41 事例を読んで,N市社会福祉協議会の福祉活動専門員(社会福祉士)が行ったアウトカム評価として,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
N市では,近年ひきこもりに関する相談が増加する一方,具体的な支援活動が市内に不足していることが課題となっていた。そのため,ひきこもりの人やその家族に対する支援活動の拡大を目的として,N市社会福祉協議会が行政の補助金を得て,計6回の講義・見学等からなるひきこもりサポーターの養成研修を企画・実施することになった。初めての取組であることから,行政からプログラム評価の枠組みを用いて,研修のアウトカム評価を行うことが求められた。
1 ひきこもりに関する理解度を測る調査票を作成し,養成研修受講前の受講者の理解度を計測する。
2 養成研修終了後に,支援活動に取り組み始めた受講者の人数とその活動内容を把握する。
3 養成研修の実施回数及び内容が,当初企画したとおりに実施されているかを確認する。
4 養成研修終了後に,N市の市民を対象としたアンケート調査により,ひきこもりに関する市民の意識を把握する。
5 養成研修終了後に,N市内でひきこもり状態から就業に至った人数を把握し,就業による経済効果と補助金額との差を計測する。
正解は,選択肢2です。
この問題は,アウトカム評価の意味がわからなければ,正解することができません。
アウトカムは,「外に出てくるもの」という意味から「結果」と訳されます。
この研修の目的は,「ひきこもりの人やその家族に対する支援活動の拡大」ですから,
2 養成研修終了後に,支援活動に取り組み始めた受講者の人数とその活動内容を把握する。
が正解となります。
第32回・問題104 シングル・システム・デザイン法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 適用対象として,個人よりも家族など小集団に対する支援が適切である。
2 ベースライン期とは,支援を実施している期間を指す。
3 クライエントを実験群と統制群に分けて測定する。
4 測定対象のクライエントに対する支援効果を明らかにできる。
5 ABデザインを用いる場合,測定期間中に支援を一旦中止する必要がある。
この問題は,「相談援助の理論と方法」で出題されたものです。
ベースライン期と呼ばれる介入前と介入後を比較することで,介入の効果を測定するのが,シングル・システム・デザイン法です。
ということで,正解は,選択肢4となります。
<今日の一言>
今回取り上げた「社会福祉調査の基礎」は,共通科目となります。
精神保健福祉士の専門科目でも社会調査に関するものは,科目の一部として学んでいます。
社会調査に関する知識は,実は「地域福祉の理論と方法」でも問われることがあり,科目として学んでいる社会福祉士の方が若干有利でした。
次のカリキュラムでは,共通科目にすることで,「評価」に関する知識を強化するねらいがあるようです。