国家試験が終わると
時事問題などに目を向けなければ合格できないと思った
といった感想が聞かれます。
もちろん目を向けた方がよいに決まっています。
しかし,目を向けたからといって問題が解けることは限りません。
それよりも国家試験に合格するために必要なことは,覚えるべきことをきっちり覚えることです。
受験生の多くが勉強していないだろうと思う問題は,受験生に差が生じにくいものです。
差が生じるのは,参考書や過去問にはあるのだけれど,覚えにくいものです。
その一つが財政についての問題です。
それでは,今日の問題です。
第32回・問題50 「平成28年度社会保障費用統計」(国立社会保障・人口問題研究所)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 2016年度(平成28年度)の社会保障給付費は,150兆円を超過した。
2 2016年度(平成28年度)の社会保障給付費を部門別(「医療」,「年金」,「福祉その他」)にみると,「福祉その他」の割合は1割に満たない。
3 2016年度(平成28年度)の社会保障給付費を機能別(「高齢」,「保健医療」,「家族」,「失業」など)にみると,「家族」の割合は1割に満たない。
4 2016年度(平成28年度)の社会保障財源における公費負担の割合は,社会保険料の割合よりも大きい。
5 2015年度(平成27年度)における社会支出の国際比較によれば,日本の社会支出の対国内総生産比は,フランスよりも高い。
知識がないと絶対に解けない問題です。
しかも覚えにくいものです。
こういった問題が,国家試験に向きます。
<理想的な問題>
勉強した人は解ける
勉強不足の人は解けない
<最悪な問題>
勉強した人が解けない
勉強不足の人も解ける
時事問題タイプの問題の中には,後者に当たる問題もあります。
さて,今日の問題は,以前も取り上げたように,正解は,選択肢3です。
3 2016年度(平成28年度)の社会保障給付費を機能別(「高齢」,「保健医療」,「家族」,「失業」など)にみると,「家族」の割合は1割に満たない。
ソ教連(日本ソーシャルワーク教育学校連盟)の模擬試験では,「第三位は,家族である」という問題が出題され,出題としてはナンセンスだと感じた人も多かったと思います。第三位は,家族で正解なのですが,第4位の「遺族」との差は,わずか0.3%しかないからです。
日総研模試では,「家族が約20%を占める」(これは間違い)と出題されていました。
この出題のほうが,家族は20%もないのだ,とインプットできます。ソ教連模試では,順位は覚えられても割合は頭に入りにくいです。
模擬試験は,複数受験して国家試験に臨むことは大切なのだと感じた問題です。
社会保障給付費は,過去に何度も出題されてしており,絶対に覚えておかなければならないものの一つです。
内訳は
①高齢 約50%
②保健医療 約30%
③家族 約6%
という割合です。ここで重要なのは,①高齢,②保健医療を合わせると80%を超えることです。
①高齢,②保健医療の2つで80%もあり,ほかのものは10%を超えるものはありません。
ほかのものの詳しく覚える必要性は一切ありません。
まともに覚えようとすると難しいですが,シンプルに覚えることで頭に残りやすくなります。
ほかのものとは,以下のものです。
家族
遺族
障害
生活保護その他
失業
労働災害
住宅
これらはいずれも10%未満です。
それでは,ほかの選択肢も見てみましょう。
1 2016年度(平成28年度)の社会保障給付費は,150兆円を超過した。
社会保障給付費は,約117兆円です。
2 2016年度(平成28年度)の社会保障給付費を部門別(「医療」,「年金」,「福祉その他」)にみると,「福祉その他」の割合は1割に満たない。
年金:5
医療:3
福祉その他 2
この割合は,1994年の「21世紀福祉ビジョン」で提言されたもので,それに合わせて今日の制度設計がなされています。
4 2016年度(平成28年度)の社会保障財源における公費負担の割合は,社会保険料の割合よりも大きい。
社会保障制度は,社会保険制度と社会扶助制度があります。
社会扶助制度は,もともとは救貧政策だったものが,派生して,現在では,生活保護制度(公的扶助)と社会福祉制度に分かれます。
日本は,1950年の社会保障審議会勧告で,社会保障の中心は社会保険とすることを提言され,それに沿って制度設計がなされています。
そのため,財源として,公費(税)が,社会保険料を超えるようにはなりません。
もしそうなると,日本の社会保障制度の中心は,もはや社会保険制度ではなくなってしまいます。
5 2015年度(平成27年度)における社会支出の国際比較によれば,日本の社会支出の対国内総生産比は,フランスよりも高い。
日本とイギリスを比べるとどちらが多いか迷ってしまいますが,フランスは特別な国です。
社会支出も国民負担率もフランスは,世界でもトップクラスの国です。
<今日の一言>
今日の問題は,しっかり勉強してきた人なら,そんなに難しくは感じないはずです。
しかし,勉強不足の人は,正解しにくい問題だと言えます。
知識不足の人でも消去できる選択肢がないからです。
国家試験でボーダーラインを超えるためには,今日の問題のような問題で点数を確実に積み上げていくことが大切です。
最新の記事
消費者契約法
契約を取り消すことができる制度として,クーリング・オフ制度があります。 しかし,利用できるのは,訪問販売や電話に勧誘などによって契約したものに限られます。 消費者契約法は,以下のような場合に取り消すことができます。 出典:消費者庁「知っていますか? 消費者契約法―早わかり!消費...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
平成元年度の改正カリキュラムでは,当初はあったものの,平成19年度のカリキュラム改正でなくなったものがいくつか復活しています。 その1つがコミュニティワーク(地域援助技術)です。 地域共生社会の実現に求められる社会福祉士を養成するためには,コミュニティワークが必要だからでしょう。...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
今回は,福祉ニードを取り上げたいと思います。 ニーズは,ニードの複数形ですが,明確な使い分けはなされていないようです。 どちらも同じ意味だととらえて良いでしょう。 ブラッドショーは,ニーズを以下のように類型化しています。 ...
-
ソーシャルワークにおけるネットワーキングとは,福祉課題を解決するために様々な機関,住民たちが連携することをいいます。 誰かが「それは良いことだ,やろう」と思っても,人を動かすのは,決して簡単なことではありません。 社会福祉士が連携の専門家だとしたら,ネットワーキングは,社会福祉士...
-
今回は,グループワーク(集団援助技術)の主な理論家を学びます。 グループワークの主な理論家 コイル セツルメントやYWCAの実践を基盤とし,グループワークの母と呼ばれた。 また,「グループワーカーの機能に関する定義」( ...