2020年3月19日木曜日

新カリキュラムの概要~⑤地域福祉と包括的支援体制~その2

わが国は,明治以降,経験したことのない人口減少社会に突入しています。

そのような時代で求められているのが「地域共生社会」の実現です。

もしこの問題にソーシャルワークが対応できなければ,アメリカで1950年代から60年代にかけて,社会問題に対応できずに,社会から批判を浴びたアメリカことになるかもしれません。

イギリスで生まれて,アメリカで発展してきたソーシャルワークは,新しい局面を迎えていることは明らかです。

第32回国試では,以下のような出題があります。

第32回・問題106 事例を読んで,B社会福祉士が介入しようとしているシステムとして,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 P国から2年前に来日したCさんは,現在,難民認定を得て就労可能な在留資格を持って,Q市で暮らしている。日本語能力は十分ではないが,R市にある会社に就職している。しかし,自宅付近では孤独な暮らしで,近隣住民との会話ややりとりは全くない。Cさんは,どうしたら近隣住民と交流を持てるのかと悩み,Q市社会福祉協議会のB社会福祉士に相談した。B社会福祉士は,Cさんと同じような相談を複数回受けたことがあったため,実態把握の必要性を感じた。このため,Q市に居住している外国籍住民を対象とした聞き取りを行い,その結果を町内会に報告し,対応を促すこととした。

1 ミクロシステム

2 メゾシステム

3 クロノシステム

4 マクロシステム

5 エクソシステム


正解は,選択肢2です。

この問題は,相談援助の理論と方法で出題されたものです。

この科目でも地域共生社会を意識して,メゾシステム,メゾレベルに焦点を当てた出題がされています。

メゾの範囲は明確ではありませんが,おおよそ地域レベルだと押さえておくとよいのかもしれません。

さて,今日取り上げる「⑤地域福祉と包括的支援体制」は,地域共生社会を実現するための本丸と言える科目です。


改めて,内容を確認してみましょう。


地域福祉と包括的支援体制(60時間)
ねらい(目標)
①地域福祉の基本的な考え方、展開、動向について理解する。
②地域福祉における主体と対象を理解し、住民の主体形成の概念を理解する。
③地域福祉を推進するための、福祉行財政の実施体制と果たす役割について理解する。
④地域福祉計画をはじめとした福祉計画の意義・目的及び展開を理解する。
⑤包括的支援体制の考え方と、多職種及び多機関協働の意義と実際について理解する。
⑥地域生活課題の変化と現状を踏まえ、包括的支援体制における社会福祉士及び精神保健福祉士の役割を理解する。
教育に含むべき事項(内容)
教育に含むべき事項
想定される教育内容の例
①地域福祉の基本的な考え方
1 地域福祉の概念と理論
・地域福祉の概念、地域福祉の構造と機能
・福祉コミュニティ論、在宅福祉サービス論、ボランティア・市民活動論
・共生社会
2 地域福祉の歴史
・セツルメント、COS、社会事業、社会福祉協議会、民生委員、児童委員、共同募金、在宅福祉、施設の社会化、地方分権、社会福祉基礎構造改革、地域自立生活、地域包括ケア、地域共生社会
3 地域福祉の動向
・コミュニティソーシャルワーク、コミュニティサービス、地域再生、ケアリングコミュニティ
4 地域福祉の推進主体
・地方自治体
NPO、市民活動組織、中間支援組織
・町内会、自治会等地縁組織
・民生委員、児童委員、主任児童委員、保護司
・当事者団体
・社会福祉協議会
・共同募金
・企業
5 地域福祉の主体と形成
・当事者、代弁者
・ボランティア
・市民活動、住民自治、住民主体
・参加と協働、エンパワメント、アドボカシー
・福祉教育
②福祉行財政システム
1 国の役割
・法定受託事務と自治事務
2 都道府県の役割
・福祉行政の広域的調整、事業者の指導監督
3 市町村の役割
・サービスの運営主体
・条例
・社会福祉審議会
4 国と地方の関係
・地方分権、地方自治、地域主権、地方創生
5 福祉行政の組織及び専門職の役割
・福祉事務所、児童相談所、身体障害者更生相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、婦人相談所、地域包括支援センター 等
・福祉事務所の現業員・査察指導員、児童福祉司、身体障害者福祉司、知的障害者福祉司、精神保健福祉相談員 等
6 福祉における財源
・国の財源、地方の財源、保険料財源
・民間の財源
③福祉計画の意義と種類、策定と運用
1 福祉計画の意義・目的と展開
・福祉行財政と福祉計画の関係
・福祉計画の歴史
・福祉計画の種類(地域福祉計画、老人福祉計画、介護保険事業計画、障害福祉計画、子ども・子育て支援事業計画、民間の福祉計画等)
2市町村地域福祉計画・都道府県地域福祉支援計画の内容
・地域福祉と計画行政の関係
・市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画の定義、機能
・地域福祉活動計画との関係
3 福祉計画の策定過程と方法
・課題把握・分析
・協議と合意形成
4 福祉計画の実施と評価
・モニタリング
・サービス評価
・プログラム評価
④地域社会の変化と多様化・複雑化した地域生活課題
1 地域社会の概念と理論
・地域社会の概念
・地域社会の理論
2 地域社会の変化
・世帯数、世帯構成
・過疎化、都市化、地域間格差
・外国人住民の増加
3 多様化・複雑化した地域生活課題の現状とニーズ
・ひきこもり、ニート、8050問題、ダブルケア、依存症、多文化共生、自殺、災害 等
4 地域福祉と社会的孤立
・社会的孤立、社会的排除
・セルフネグレクト
⑤地域共生社会の実現に向けた包括的支援体制
1 包括的支援体制
・包括的支援体制の考え方
・包括的支援体制の展開
2 地域包括ケアシステム
・地域包括ケアシステムの考え方
・地域包括ケアシステムの展開
・精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの展開
・子育て世代包括支援センター
3 生活困窮者自立支援の考え方
・生活困窮者自立支援制度と理念
・自立相談支援機関による支援過程と方法、実際
・伴走型の支援と対象者横断的な包括的相談支援
・個人および世帯の支援
・居住支援、就労支援、家計支援、子どもの学習・生活支援
4 地域共生社会の実現に向けた各種施策
・多機関協働による包括的支援体制
・住民に身近な圏域における相談支援体制
⑥地域共生の実現に向けた多機関協働
1 多機関協働を促進する仕組み
・総合相談
・各種相談機関の連携
・協議体
・地域ケア会議
・地域包括支援センター運営協議会
・要保護児童対策地域協議会
・障害者自立支援協議会

2 多職種連携
・保健・医療・福祉に関わる多職種連携
・生活支援全般に関わるネットワーク
・多職種連携等における個人情報保護

3 福祉以外の分野との機関協働の実際
・社会的企業
・農福連携
・観光、商工労働等との連携
・地方創生
⑦災害時における総合的かつ包括的な支援体制
1 非常時や災害時における法制度
・災害対策基本法、災害救助法
・各自治体等の避難計画
2 非常時や災害時における総合的かつ包括的な支援
・災害時要援護者支援
BCP(事業継続計画)
・福祉避難所運営
・災害ボランティア
⑧地域福祉と包括的支援体制の課題と展望
1 地域福祉ガバナンス
・ガバナンスの考え方
・多様化・複雑化した課題と多機関協働の必要性
・社会福祉法における包括的な支援体制づくり
・住民の参加と協働、住民自治
・プラットフォームの形成と運営
2 地域共生社会の構築
・地域共生社会
・地域力の強化、包括的支援体制


包括的支援体制が大きなテーマになっていることがわかります。

この科目が,「地域福祉の理論と方法」に「福祉行財政と福祉計画」の内容を含めたものにしたのは,その中心が「地域福祉(支援)計画」だからでしょう。


<今日の一言>

新しい科目である「地域福祉と包括的支援体制」は,新カリキュラムの目玉の科目の一つです。

対クライエントの関係であるメゾレベルを超えた新しい発想が求められます。

その分,守備範囲が広いので,受験生にとっては,かなり手こずる科目になりそうです。

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