社会福祉士の国家試験は,1年に1回実施されています。
そのため,不合格になると1年待たなければなりません。
1年というのは,とても長いようですが,決してそれほど長い期間ではありません。
国家試験は,社会福祉士に期待されている力を問います。
国家試験を通して感じることは,
知識偏重の社会福祉士は求められていない
国家試験に合格するには,最低限の知識は必要ですが,それだけではボーダーラインを超えることはできません。
知識を使って,考えて考えて考え抜いて,答えを引き出す力が必要です。
しかも,これは,限られた時間内で行わなければなりません。
それでは今日の問題です。
第32回・問題63 2000年度(平成12年度)以降の生活保護の全国的な動向(年次推移)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 住宅扶助費の生活保護費全体に占める割合は,一貫して減少している。
2 被保護世帯及び被保護人員共に,2011年(平成23年)の東日本大震災を契機に増加に転じた。
3 世帯類型別にみた被保護世帯の構成比をみると,「母子世帯」の割合が一貫して増加している。
4 保護の開始理由別の被保護世帯数の推移をみると,「傷病」が一貫して増加している。
5 介護扶助人員は,一貫して増加している。
動向関連の問題は,たとえ基礎データに目を通していたとしても,正解できるとは限りません。
なぜなら,目を通しておくことと覚えていることは同じではないからです。
学校の先生や試験対策の講師などは,「●●白書に目を通しておきましょう」と言います。
しかし,実際に正解するのはとても難しいものです。
先生方は,その分野の専門家ですから,動向を読み取ることができます。
今日の問題のような,生活保護の動向は何度も出題されているので,ある程度の情報は,参考書に書いてあります。
しかし,すべては書いてありません。
参考書に書いてある内容から出題されるのであれば,記憶力の優れた人が有利です。
しかししかし・・・
知識偏重の社会福祉士は求められていない
そのために,考えて答えを見つけ出すように問題は作られます。
この問題を考えるために必要なポイントは「一貫して」です。
「一貫して」,増加や減少する背景には,明確な理由があります。
まずは,選択肢2
2 被保護世帯及び被保護人員共に,2011年(平成23年)の東日本大震災を契機に増加に転じた。
どの参考書にも書かれていますが,増加に転じたのは,平成7年のことです。
この問題で正解するために,最低限必要な知識は,平成7年を機に増加に転じたということです。
そのほかは,「一貫して」を考えることです。
この問題の正解は,選択肢5です。
5 介護扶助人員は,一貫して増加している。
高齢化が進展する中,近年は高齢者世帯が増加しています。
これは参考書で手に入れられる情報です。
これに比べると
1 住宅扶助費の生活保護費全体に占める割合は,一貫して減少している。
3 世帯類型別にみた被保護世帯の構成比をみると,「母子世帯」の割合が一貫して増加している。
4 保護の開始理由別の被保護世帯数の推移をみると,「傷病」が一貫して増加している。
これらの「一貫して」は,明確な理由を見つけることができません。
たとえば,選択肢4の保護の開始理由の「傷病」が一貫して増加するためには,ケガや病気になる人が増えていなければなりません。
これが明確な理由を見つけることができない,という意味です。
<今日の一言>
本番に弱い
という人がいます。
おそらく思考力を働かせることをしなければ,同じ結果を繰り返します。
思考力とは,想像力とほぼ同意語です。
勉強する際は,常に想像力を働かせるようにしましょう。
それこそが,社会福祉士に求められている姿であるように思います。
最新の記事
後見・保佐・補助
法定後見制度の類型には,後見,保佐,補助の3つがあります。 成年被後見人 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者 被保佐人 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
コミュニティはさまざまな人が定義していますが,ヒラリーの研究によって,それらに共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが示されました。 しかし,現代では,空間が限定されないコミュニティが広がっています。それをウェルマンは,「コミュニティ開放論」と...
-
解決志向アプローチは,クライエントとワーカーの対話を通して,解決した未来を描くものです。 ワーカーは,クライエントの語りを傾聴し,クライエントに教えてもらうという姿勢で面接していきます。 その時に用いられるのが質問の技法です。 ワーカーは,クライエントに質問を投げかけ...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...