2020年3月22日日曜日

新カリキュラムの概要~⑧権利擁護を支える法制度

新しいカリキュラムによる国家試験は,第37回から実施されます。

今回は「権利擁護を支える法制度」を取り上げます。

この科目は,現在の「権利擁護と成年後見制度」の後継科目となります。

それでは,内容を見てみましよう。


権利擁護を支える法制度(30時間)
ねらい(目標)
①法に共通する基礎的な知識を身につけるとともに、権利擁護を支える憲法、民法、行政法の基礎を理解する。
②権利擁護の意義と支える仕組みについて理解する。
③権利が侵害されている者や日常生活上の支援が必要な者に対する権利擁護活動の実際について理解する。
④権利擁護活動を実践する過程で直面しうる問題を、法的観点から理解する。
⑤ソーシャルワークにおいて必要となる成年後見制度について理解する。
教育に含むべき事項(内容)
教育に含むべき事項
想定される教育内容の例
①法の基礎
1 法と規範
・法の規範との関係
・法と道徳の関係
2 法の体系、種類、機能
・成文法と不文法
・公法と私法
・実体法と手続法
・法規範の特質と機能
3 法律の基礎知識、法の解釈
・法律条文の構造
・法解釈の基準と方法
4 裁判制度、判例を学ぶ意義
・裁判の種類、判決の種類
・判例とは
②ソーシャルワークと法の関わり
1 憲法
・憲法の概要(最高法規性、日本国憲法の基本原理)
・基本的人権(基本的人権と公共の福祉、平等性、自由権、社会権)
・幸福追求権
2 民法
・民法総則(権利の主体・客体、権利の変動、無効と取消し)
・契約(売買、賃貸借等)
・不法行為(不法行為の要件、不法行為の効果(損害賠償))
・親族(婚姻、離婚、親権、扶養、成年後見制度)
・遺産管理
3 行政法
・行政組織(国、地方公共団体の組織、公務員)
・行政の行為形式(行政処分)
・行政上の義務履行確保(行政強制、行政罰)
・行政訴訟制度(行政不服申立て、行政訴訟)
・国家の責任(国家賠償)
・地方自治法(国と自治体の関係)
③権利擁護の意義と支える仕組み
1 権利擁護の意義

2 福祉サービスの適切な利用
・運営適正化委員会
・国民健康保険団体連合会
3 苦情解決の仕組み
・事業者による苦情解決
・自治体等による苦情解決
4 虐待防止法の概要
・高齢者虐待防止法
・児童虐待防止法
・障害者虐待防止法
5 差別禁止法の概要
・障害者差別解消法
6 意思決定支援ガイドライン
・障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン
・人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
・認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
④権利擁護活動で直面しうる法的諸問題
1 インフォームド・コンセント
・法的概念としてのインフォームド・コンセント
・インフォームド・コンセントに関する判例
2 秘密・プライバシー・個人情報
・秘密
・プライバシー
・個人情報
・情報共有
3 権利擁護活動と社会の安全
・守秘義務
・通報、警告義務
⑤権利擁護に関わる組織、団体、専門職
1 権利擁護に関わる組織、団体の役割
・家庭裁判所、法務局
・市町村
・社会福祉協議会
・権利擁護支援の地域連携ネットワークの中核機関
・弁護士、司法書士
⑥成年後見制度
1 成年後見の概要
・法定後見、任意後見
・専門職後見
2 後見の概要
・成年被後見人の行為能力
・成年後見人の役割
3 保佐の概要
・被保佐人の行為能力
・保佐人の役割
4 補助の概要
・補助人の役割
5 任意後見の概要
・利用動向
・成年後見制度利用促進法
・成年後見制度利用促進基本計画
・意思決定支援
6 成年後見制度の最近の動向

7 成年後見制度利用支援事業

8 日常生活自立支援事業
・日常生活自立支援事業の動向
・専門員の役割
・生活支援員の役割


現在のカリキュラムの「権利擁護と成年後見制度」では含まれていないものが散見されます。

以前は「法学」という科目があり,現在のカリキュラムになったときに,法学が消滅して,現在の科目に移行しています。

この内容は,「法学」時代の内容を包含しています。

現在の「権利擁護と成年後見制度」も難しい科目の一つかもしれませんが,「法学」はもっと難しくて,0点になる人が続出したものです。

それを防ぐために,当時は10問出題されるという特徴を生かして,完全捨て科目として,すべてを3か4にするという技を伝授していた試験対策講座もあったぐらいです。

10問なら,必ず1問は,含まれるからです。下手に考えて全滅するよりも,うまくいけば3点程度取れることもありました。

しかし,今は問題数が少ないので,その戦術は使えないので,次のカリキュラムの時には,苦戦する受験生が増えることが想像できます。

社会福祉士の国家試験を実施する社会福祉振興・試験センターは,法学と同じように出題すると,0点を取る受験生が続出することは知り抜いています。

そのため,勉強した人なら,必ず得点できる問題を入れてくるでしょう。

さて,新しいカリキュラムの中で注目したいのは,以下の部分です。


③権利擁護の意義と支える仕組み
6 意思決定支援ガイドライン
・障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン
・人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
・認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン


この辺りのものは,既に他科目で出題され始めています。

第31回・問題76 事例を読んで,A医療ソーシャルワーカー(社会福祉士)によるBさんへの対応として,この段階において最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
 日雇の仕事をしながら路上生活をしていたBさん(55歳)は,胃痛と吐血があったが,医療保険に加入しておらず医療機関を受診していなかった。吐血して路上で倒れているところを発見され,救急搬送されてきた。受診と検査の結果,担当医師から胃がんであることが本人に告げられた。Bさんは医療費の支払ができないので,このまま放っておいてくれと言い続けるだけであった。看護師が説得を試みたが本人の意向は変わらず,担当医師からA医療ソーシャルワーカーに電話が入った。

1 公共職業安定所(ハローワーク)を紹介し,日雇就労の継続を相談するように促す。

2 治療をしなかった場合の身体的リスクを医師に代わって説明する。

3 Bさんの治療拒否の意向が尊重されるように,医師や看護師を説得する。

4 ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を検討する。

5 生活保護の医療扶助の説明を行い,申請手続を促す。

正解は,選択肢5です。

この問題は「保健医療サービス」で出題されています。



第30回・問題61 事例を読んで,Fサービス管理責任者(社会福祉士)の対応に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
 Gさん(40歳,男性)は,重度の知的障害があり,20年間W施設に入所している。Gさんは,自分だけでは意思決定することが困難な状態であるため,成年後見人が選任されている。W施設のFサービス管理責任者は,入所を継続したいか地域移行したいかのGさんの意向が分からない状態であったが,個別支援計画の見直しを行う時期となっている。

1 入所継続を前提に,日中活動の充実を図る。

2 家族の意向に沿って方針を立てる。

3 成年後見人の意向に沿って方針を立てる。

4 グループホームへの入居を調整する。

5 本人,関係者の参加による意思決定支援会議を開催する。


この問題の正解は,選択肢5です。

この「意思決定支援会議」が意思決定支援ガイドラインで示されているものです。

障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000159854.pdf

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf


認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf


<今日の一言>

新しいカリキュラムでは,これらのガイドラインを学ぶことになります。

国家試験では,「●●ガイドラインに基づく対応として,適切なものを1つ選びなさい」といったように出題されるでしょう。

こういった設問の中に条件を限定するものは,現場経験のある受験生は十二分に気を付けなければなりません。

対応自体は,あまりよくないと思っても,設問で示された条件に合ったものを選ぶ必要があるからです。

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