2020年3月10日火曜日

新カリキュラムの概要~②心理学と心理的支援

現時点(2020年3月10日),第32回国家試験を受験された方でこの学習部屋に訪れている方は,合格発表を目前にして,センシティブになっているところでしょう。

新しいカリキュラムによる国家試験は,ずっとずっと先である第37回であるにもかかわらず,その概要を紹介することに申し訳なく思っています。

しかし,学習部屋は,第32回国家試験直後から,既に次回の国家試験に向けて動き出しています。

次回以降の国家試験は以下のように推移します。


国家試験の内容
33
今と同じ
34
35
36
37回以降
新しいもの


大学では,令和3年から新しいカリキュラムによる教育が始まります。
その人たちが卒業するときに,新しいカリキュラムでの国家試験となります。


さて,今回は,「②心理学と心理的支援」です。

現在は,「心理学理論と心理的支援」なので,新カリキュラムでは「理論」が抜けています。

「③社会学と社会システム」の名称とそろった感じです。



心理学と心理的支援(30時間)
ねらい(目標)
①人の心の基本的な仕組みと機能を理解し、環境との相互作用の中で生じる心理的反応を理解する。
②人の成長・発達段階の各期に特有な心理的課題を理解する。
③日常生活と心の健康との関係について理解する。
④心理学の理論を基礎としたアセスメントの方法と支援について理解する。
教育に含むべき事項(内容)
教育に含むべき事項
想定される教育内容の例
①心理学の視点
1 心理学の歴史と対象
・心理学の起源
・心理学の発展と対象
2 心を探究する方法の発展
・生態学的心理学
・進化心理学的アプローチ
・認知行動科学
・行動遺伝学
②人の心の基本的な仕組みと機能
1 心の生物学的基盤
・脳の構造
・神経機能
・遺伝
2 感情・動機づけ・欲求
・感情の仕組み・機能
・動機づけ理論
3 感覚・知覚
・知覚の情報処理過程
・感覚モダリティ
・アフォーダンス
4 学習・行動
・馴化・鋭敏化
・古典的条件づけ
・道具的条件づけ
5 認知
・記憶・注意
・思考
・認知バイアス
6 個人差
・知能
・パーソナリティ
7人と環境
・対人関係
・集団・組織
・自己
③人の心の発達過程
1 生涯発達
・発達の定義
・ライフステージと発達課題
2 心の発達の基盤
・認知発達理論
・言語発達
・アタッチメント理論
・道徳性の発達
④日常生活と心の健康
1 心の不適応
・不適応の理論
・ストレス理論(コーピングを含む)
・燃え尽き症候群
・トラウマ
・依存症
2 健康生成論
・レジリエンス
・首尾一貫感覚(SOC
⑤心理学の理論を基礎としたアセスメントと支援の基本
1 心理アセスメント
・心理アセスメントの方法
・事例定式化
2 心理的支援の基本的技法
・ソーシャルワークにおける心理的支援
・支持的精神療法
・マイクロカウンセリング
・動機づけ面接
3 心理療法におけるアセスメントと介入技法の概要
・精神分析
・認知行動療法(SST を含む)
・応用行動分析
・家族療法
・ブリーフ・セラピー
・対人関係療法
4 心理の専門職
・公認心理師


第32回国家試験を受験した人は,「あれっ?」と思ったところがあると思います。


4 学習・行動
馴化・鋭敏化
・古典的条件づけ
・道具的条件づけ


馴化(じゅんか)が第32回国家試験で出題されています。


第32回・問題8 次のうち,馴化による行動の記述として,適切なものを1つ選びなさい。
1 同じ大きな音が繰り返されるにつれて,驚愕反応が小さくなった。

2 乳児に新しいおもちゃを見せたら,古いおもちゃよりも長く注視した。

3 まぶたにストローで空気を吹き付けると,思わずまばたきした。

4 食あたりした後に,その食べ物を見るだけで吐き気がするようになった。

5 うまくできたら褒めることで,ピアノの練習に取り組むようになった。


この問題の正解は,1です。

前回紹介した「医学一般」のICFの問題も同様ですが,新しいカリキュラムで示されているものの出題です。

そういう面で,安直ですが,「鋭敏化」も近い将来には,出題されることでしょう。

鋭敏化とは,馴化とは逆に,強い刺激に過敏になることです。

同じ大きな音が繰り返されるにつれて,驚愕反応が小さくなった。

が馴化ですが,鋭敏化は

同じ大きな音が繰り返されるにつれて,恐怖が強くなった。

心理学的には,このようになるのだと思います。


<新カリに向けて>


現在の心理学理論と心理的支援は


 心理学
  ↓
心理学理論と心理的支援
  ↓
心理学と心理的支援


と変遷しています。

現在の科目でも難しいですが,新カリキュラムでは,心理学をしっかり学ぶことになります。

「想定される教育内容の例」に示されていますが,この科目にも歴史が出題されてくることでしょう。

人名も今よりもしっかり覚えなければならないように思います。


第8回・問題101 心理学史に関する次の記述のうち,誤っているものを一つ選びなさい。
1 心理学に関する組織的研究は,ロック(Locke,J.)など18世紀のイギリス経験論の哲学者たちが取り上げた実験心理学に始まる。
2 ゴールトン(Galton,F.)は,19 世紀後半に傑出人の出現頻度を調べたり,双生児を比較して心的遺伝の研究を行い,個人差研究の基礎をつくった。
3 1879年に,世界で最初の心理学の実験室をつくり,心理学に独立した地位を与えたのはヴント(Wundt,W. M.)である。
4 エビングハウス(Ebbinghaus,H.)は,19 世紀の後半に,無意味綴りを記憶材料として記憶に関する最初の科学的研究を行った。
5 我が国に西欧の心理学が伝えられたのは比較的早く,明治初年にはpsychology が,心理学と訳され,1888年には東京帝国大学で元良勇次郎が精神物理学の講義を始めた。

こういった問題も出題されることになるでしょう。

この当時と今の国家試験の大きな違いは,現在は,「誤っているもの」を選ぶ問題はないことです。

この問題の答えは,1です。

ロックは思想家であり,心理学者ではありません。

難しそうに見えても,それほど難しくはないです。

しかし,今は,正しいもの(適切なもの)を選ぶ問題です。

「誤っているものを選ぶ」のと「正しいものを選ぶ」では,「正しいものを選ぶ」のほうが難しいです。

新カリキュラムの「心理学と心理的支援」では,しばらく出題されて来なかった歴史(心理学史)も出題されてくると思うので,歴史や人の名前を覚えるのが苦手だとは言っていられなくなります。

しかし,それは次のカリキュラムでの国家試験です。

現在の「心理学理論と心理的支援」を苦手だとしている人は多いと思います。

しかし,旧カリや次のカリキュラムと比べると,今の科目の方が,確実にやさしめです。

今,受験資格を持っている人は,カリキュラムが変わっても受験資格がなくなりません。しかし,今のカリキュラムのうちに資格を取得しておいた方がよいです。

心理学理論と心理的支援は,心理学をベースにした心理的支援という感じです。

心理学と心理的支援は,心理学を本格的に学んぶことと心理的支援が並立している感じです。

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