社会福祉士の国家試験は,科目の一部が精神保健福祉士と共通です。
そのため,国試当日では午前中に実施される科目は「共通科目」と呼ばれます。
人によっては,午前の科目を「基礎科目」,午後の科目を「専門科目」と言う人がいますが,そういう意味ではありません。
さて,現在知り組んでいる「人体の構造と機能及び疾病」は,精神保健福祉士との共通科目です。
そのため,精神疾患についての出題は,かなり頻度が高くなっています。
国際的な疾患の診断分類には,WHO(国際保健機関)が作成した「国際疾病分類(ICD)」があります。
最新版は,2018に発表されたばかりの「ICD-11」です。
精神疾患については,アメリカ精神医学会が作成した「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」があります。
最新版は,DSM-5です。
このうち,出題基準に示されているのは,ICD-11ではなく,DSM-5です。
ところが,わが国の診療報酬などではICDを採用していることもあり,精神保健福祉士の専門科目では,ICD-11が出題されます。
過去には,共通科目でもICDが出題されたこともありますが,基本的には,DSM-5が出題されると考えてよいでしょう。
特に,ICDは,第10版から第11版になったばかりということもあり,日本では本がまだ出版されていないようです。
最低覚えておきたいこと(作成者)
ICD-11
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世界保健機関
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DSM-5
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アメリカ精神医学会
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DSM-5の具体的な疾患分類については,別の機会に譲るとして,疾患名を日本で訳したときに,かなり苦労があったようです。
強迫症/強迫性障害
パニック症/パニック障害
といったように,新しい疾患名に加えて,日本で定着している疾患名を併記しています。
たとえば,強迫症/強迫性障害
の場合は,
強迫症が,新しい疾患名
強迫性障害が,日本に定着している疾患名
です。
国試では,併記して出題されますが,強迫性障害は知っていても「強迫症/強迫性障害」は知らないと思わないようにしましょう。
いずれも同じものです。
もう一つ覚えておきたいこと(診断方法)
DSM-Ⅲ,およびDSM-Ⅳ
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多軸診断
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DSM-5
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多元的診断
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社会福祉士は,精神保健の専門家ではないので,多元的診断とは何かを詳しく覚える必要はありません。
単純に,多軸診断から,多元的診断という方法に変わったのだ,ということだけを押さえておけば十分です。
それでは,今日の問題です。
第29回・問題7 精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 作成したのは世界保健機関(WHO)である。
2 精神障害を内因性,心因性という名称で分類している。
3 身体疾患の診断基準も掲載している。
4 多軸診断システムを用いている。
5 操作的診断基準によって診断する。
この問題は,DSM-5が初めて出題されたものです。
そういった意味では,この時点では必ずしも正解できなくてもよい問題だったと言えます。
しかし,今は対策ができるので,同様の問題が出題された時は,正解しなければなりません。
それでは解説です。
1 作成したのは世界保健機関(WHO)である。
世界保健機関が作成したのは,ICDです。
DSMを作成したのは,アメリカ精神医学会です。
2 精神障害を内因性,心因性という名称で分類している。
「内因性」「心因性」という名称で分類したのは,DSM-Ⅲ以前だそうです。
この問題が難しいのは,この選択肢を消去するのが難しいためです。
3 身体疾患の診断基準も掲載している。
DSMは,身体疾患の診断基準は掲載していません。
アメリカ精神医学会が作成したものだと考えると,身体疾患は含まれない,ということを推測することが可能です。
4 多軸診断システムを用いている。
多軸診断システムを用いていたのは,DSM-ⅢとⅣです。
DSM-5では,多軸診断を廃止して,多元的診断を取り入れています。
5 操作的診断基準によって診断する。
これが正解です。
精神疾患の診断は,診断する人によって差が生じることがあることが指摘されていました。
そこで,DSM-5では,明確な診断基準を設けたのです。それが「操作的診断基準」と呼ばれるものです。
この場合の操作的とは,「明確な」といった意味合いです。