今回から,医療観察法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律)に取り組んでいきたいと思います。
医療観察法は,2003(平成15)年に成立したものです。
以下,厚生労働省のホームページ「医療観察法制度の概要について」から転載します。
医療観察法の概要
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)は、心神喪失又は心神耗弱の状態(精神障害のために善悪の区別がつかないなど、刑事責任を問えない状態)で、重大な他害行為(殺人、放火、強盗、
強制性交等、強制わいせつ、傷害)を行った人に対して、適切な医療を提供し、社会復帰を促進することを目的とした制度です。
本制度では、心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行い、不起訴処分となるか無罪等が確定した人に対して、検察官は、医療観察法による医療及び観察を受けさせるべきかどうかを地方裁判所に申立てを行います。
検察官からの申立てがなされると、鑑定を行う医療機関での入院等が行われるとともに、裁判官と精神保健審判員(必要な学識経験を有する医師)の各1名からなる合議体による審判で、本制度による処遇の要否と内容の決定が行われます。
審判の結果、医療観察法の入院による医療の決定を受けた人に対しては、厚生労働大臣が指定した医療機関(指定入院医療機関)において、手厚い専門的な医療の提供が行われるとともに、この入院期間中から、法務省所管の保護観察所に配置されている社会復帰調整官により、退院後の生活環境の調整が実施されます。
また、医療観察法の通院による医療の決定(入院によらない医療を受けさせる旨の決定)を受けた人及び退院を許可された人については、保護観察所の社会復帰調整官が中心となって作成する処遇実施計画に基づいて、原則として3年間、地域において、厚生労働大臣が指定した医療機関(指定通院医療機関)による医療を受けることとなります。
なお、この通院期間中においては、保護観察所が中心となって、地域処遇に携わる関係機関と連携しながら、本制度による処遇の実施が進められます。
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それでは,今日の問題です。
第22回・問題150 「医療観察法」の医療観察制度に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 精神保健観察は,刑法上のすべての犯罪行為に対して適用される制度である。
2 医療観察は,厚生労働省で定める基準に適合する私立病院において医療を行う制度である。
3 精神保健観察は,必要な医療を受けているか否か及びその生活の状況を見守る制度である。
4 医療観察は,精神保健審判員の判断によって,退院を許可することができる制度である。
5 医療観察は,指定入院医療機関の管理者が,入院の申立てをする制度である。
第22回国家試験は,現在のカリキュラムによる1回目です。
つまり今日の問題は,「更生保護制度」が新しく加わった回のものです。
第22回の国家試験は,「今後このような出題をしていきます」ということを示したものなので,とても重要です。
そのため,この問題は,医療観察法の重要ポイントを凝縮しているものとなっています。
それでは,解説です。
1 精神保健観察は,刑法上のすべての犯罪行為に対して適用される制度である。
医療観察法の内容は,入院による医療(入院医療)と入院によらない医療(通院医療)を受けさせるものです。
入院によらない医療を受ける場合は,その期間中,精神保健観察に付されます。
医療観察法が対象とする犯罪行為
殺人
放火
強盗
強制性交等
強制わいせつ
傷害
2 医療観察は,厚生労働省で定める基準に適合する私立病院において医療を行う制度である。
通院医療は,私立病院も指定を受けて実施することができますが,入院医療は,国,都道府県,特定地方独立行政法人が開設する病院でなければ指定を受けることができません。
指定入院医療機関及び指定通院医療機関の指定は,厚生労働大臣が行います。
3 精神保健観察は,必要な医療を受けているか否か及びその生活の状況を見守る制度である。
これが正解です。
通院医療を受けている期間は,精神保健観察に付されます。
精神保健観察の処遇内容
・精神保健観察に付された者が必要な医療を受けているか否か及びその生活の状況を見守ること。
・継続的な医療を受けさせるために必要な指導その他の措置を講ずること。
精神保健観察は,保護観察所に配置される社会復帰調整官が実施します。
4 医療観察は,精神保健審判員の判断によって,退院を許可することができる制度である。
入院医療の退院の許可を行うのは,裁判所です。
裁判所は,指定入院医療機関の管理者の意見及び対象者の生活環境を考慮して,退院の許可を判断します。
5 医療観察は,指定入院医療機関の管理者が,入院の申立てをする制度である。
医療観察は,心神喪失あるいは心神耗弱の状態で,重大な他害行為を行った者の処遇を,検察官が地方裁判所に対して申立てを行う制度です。
地方裁判所は,裁判官と精神保健審判員(医師)の合議体により処遇を決定します。