事例問題は,知識がなくても解ける可能性があります。
そのため,受験者の多くが正解することができます。
社会福祉士の国家試験に合格するために必要なのは,受験者の多くが正解できる問題をミスしないことです。
しかし,実は多くの人が思っているほど,事例問題は簡単ではありません。
今日の問題もそういったタイプの問題だと言えるでしょう。
第28回・問題37 事例を読んで,Aボランティアコーディネーターの取組に関する次の記述のうち,より適切なものを2つ選びなさい。
〔事 例〕
N市社会福祉協議会のボランティアセンターのAボランティアコーディネーターは,窓口での相談対応や地域の状況把握などを踏まえて,ボランティア活動の調整など,コーディネーターとしての業務に取り組んでいる。
1 N市では孤立死が数件発生しているが,住民がショックを受けないように,地元の孤立死の件数,自殺者数などの情報は伏せておくことにした。
2 子どもの不登校で悩んでいる親が相談に来たことをきっかけに,不登校の子どもを支援するボランティアの養成講座を企画した。
3 担当地区の高齢化率が著しく高いため,ボランティアの新規募集は別の地区で行うことにした。
4 市内の企業からボランティアへの協力の申出があったので,近くの福祉施設で活動できるようにした。
5 N市の住民のボランティアへの参加意欲を知ろうと考え,社協が開いているふれあい・いきいきサロンの利用者を対象とする調査を実施することにした。
この問題で確実に正解するためには,ボランティアコーディネーターは何をする人なのかを押さえておくとミスしないでしょう。
この問題を正解することが難しい理由は,正解を2つ選ぶ問題だからです。
事例問題の場合,1つは選べても,もう1つを選ぶのが意外と難しい問題が多いのです。
正解を先に言うと,
2 子どもの不登校で悩んでいる親が相談に来たことをきっかけに,不登校の子どもを支援するボランティアの養成講座を企画した。
4 市内の企業からボランティアへの協力の申出があったので,近くの福祉施設で活動できるようにした。
この2つです。
ボランティアコーディネーターという名称から,選択肢4は選べるはずです。
しかし,ボランティアコーディネーターの役割は,ボランティアを受け入れたい施設とボランティアをしたい人のマッチングを行うことだけではなく,ボランティアを養成することもボランティアコーディネーターの役割とされています。
そのため,選択肢2がもう1つの正解となります。
さて,ここまでがボランティアコーディネーターの役割を正しく理解していることが前提となる解説です。
それを知らなかった場合,選択肢5を選ぶ人もいるはずです。
しかし,冷静にこの選択肢を読めば,「より適切」ではないと思えるはずです。
なぜなら,N市の住民のボランティアへの参加意欲を知ろうとすることは,適切なのですが,その方法が「より適切」ではないのです。
N市の住民の意識を調査したいのに,調査する対象が,社協が開いているふれあい・いきいきサロンの利用者となっています。
社協が開いているふれあい・いきいきサロンの利用者が,N市の住民を代表する意見をもつ集団であれば,適切な意識調査ができるでしょう。
しかし,おそらくそうではないはずです。
N市の住民の意識を正しく把握するためには,N市の住民を無作為抽出すると,「より適切」な調査となります。
<今日の一言>
今日の問題でわかると思いますが,「地域福祉の理論と方法」は,「社会調査の基礎」で学ぶ知識の応用の問題も存在します。
例えば,KJ法などです。
今日の問題は,その知識がなければ解けない問題ではありませんが,さまざまな知識を使って冷静に考えることで,得点できる可能性が高まります。