被用者を対象とする健康保険の根拠法である健康保険法は,日本で最初の社会保険立法です。
1922年(大正11年)に作られました。
そのあと,1938年(昭和13年)に農業者などを対象とする国民健康保険法ができます。
戦前にはすでに国民皆保険の原型が出来上がっていたというのは,世界的にみてもすごいことらしいです。
現在の健康保険には,治療費などを保険給付する「療養の給付」と所得保障である「現金給付」などがあります。
「など」のなかには,「療養の給付」と同じ内容を家族に給付する「家族療養費」があります。
国試攻略のためには,「現金給付」を押さえておきたいです。社会福祉士の業務である相談援助には,経済的相談が含まれるからです。
現金給付には,
傷病手当金
出産手当金
出産育児一時金
があります。
家族の出産については,家族出産育児一時金があります。
傷病手当金のポイントは,労務不能(仕事ができなくなること)になった日から,連続した3日の後,4日目以降,最大1年6か月間給付されることです。
4日目以降というのが重要ポイントです。
さらには,労務不能のまま退職しても,給付されることも覚えておきたいです。
ただし,気を付けたいのは,退職日に職場にあいさつには行かないことです。
そうすると,労務不能だと認められなくなるおそれがあります。
出産手当金と出産育児一時金は紛らわしいので,確実に押さえておきたいです。
出産手当金は,被保険者本人が出産のために,産前産後に仕事ができなかった場合に給付される所得補償です。
出産育児一時金は,出産費用を給付してくれるものです。
家族の出産には,家族出産育児一時金が給付されます。
出産手当金と出産育児一時金は目的が異なるので,併せて受給することができます。
それに対して,傷病手当金と労災保険の休業補償給付は,どちらも所得補償を目的としているために併せて受給することができません。
併せて受給できてしまうと,もともとの給与よりも高い金額になってしまうことがあるからです。
それでは,今日の問題です。
第28回・問題55 健康保険制度の保険給付に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 自己の故意の犯罪行為による傷病に対しても保険給付が行われる。
2 被保険者が出産した場合,出産の日の前後の一定期間のうち,労務に服さなかった期間について出産手当金が支給される。
3 保険者には,保険給付において後発医薬品を使用することが義務づけられている。
4 被扶養者に対する家族療養費の支給は,被扶養者が被保険者と同一世帯に居住する場合に限られる。
5 保険外併用療養費を用いた治療は,保険医療機関では提供できない。
この問題は,勉強不足の人でも慎重に問題を読めば,正解できてしまう可能性があります。
そういったタイプの問題は,本来は資格試験には向きません。
しかし,第28回国試問題は,このような出題が結構多い回です。
試験委員が問題を作るのに不慣れだったためでしょう。
さて,この問題の正解は,選択肢2です。
2 被保険者が出産した場合,出産の日の前後の一定期間のうち,労務に服さなかった期間について出産手当金が支給される。
出産の日の前後の一定期間とは,
産前 42日
産後 56日
となっています。
それでは,ほかの選択肢も解説します。
1 自己の故意の犯罪行為による傷病に対しても保険給付が行われる。
この文章は,つくり方が下手だなぁ,と思います。
もしこの文章が正しければ,出題する意味がないと思いませんか?
こういった文章は,実は意外と多いです。
3 保険者には,保険給付において後発医薬品を使用することが義務づけられている。
後発医薬品は,ジェネリック医薬品と呼ばれます。
ジェネリック医薬品は,先行して開発された医薬品の特許が切れたあとに後発メーカーが同じ成分で医薬品を作るものです。
開発費がかからないので安くなります。
しかし,同じ成分だからといって,同じ効き目があるとは限りません。
それはさておき,保険給付において後発医薬品を使用することが義務づけられるなら,先発医薬品を開発する意欲を削ぐと思いませんか?
それはかなり不適切でしょう。新薬を開発するのは,開発費がかかり,また長い年月を要します。
新薬の特許が切れたら,もう使えなくなるというは,あまりにむごいです。
4 被扶養者に対する家族療養費の支給は,被扶養者が被保険者と同一世帯に居住する場合に限られる。
親元から離れて進学している学生はよくわかると思いますが,同居は支給の要件とはなりません。
5 保険外併用療養費を用いた治療は,保険医療機関では提供できない。
保険外併用療養費は,保険適用と保険外の療養を合わせて提供するものです。
だからといって混合診療を認めるものではありません。