2020年12月28日月曜日

生活保護法における扶養義務

生活保護には,原理,原則があります。


その一つには「補足性の原理」があります。


<保護の補足性>

第四条 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。

2 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。

3 前二項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではない。


民法が定める扶養義務者は,直系血族及び兄弟姉妹です。

それ以外の三親等以内の親族は,家庭裁判所の審判により,扶養義務を負います。


扶養義務者による扶養が保護に優先されますが,扶養義務者の扶養を受けられないからと言って,保護を受けられないということではありません。


平成26年の生活保護法改正では,保護の開始をしようする時,扶養義務者が民法の規定による扶養義務を果たしていないと認められる時は,扶養義務者に書面で通知することが規定されています。


ただし,これによって扶養義務が強化されたわけではなく,通知されるのは,扶養義務者が高額な収入を得ていることが明らかになっている場合などに限定されています。


生活保護の扶助の種類は8種類ありますが,そのうち,最も費用がかかっているのは,医療扶助で,生活保護費約4兆円のうち,半分を占めます。


生活保護にかかる費用を削減するなら,生活扶助費を削減するより,医療扶助費を削減したほうが確実です。


不正受給は根絶しなければなりませんが,必要な人には資源を適切に分配しなければなりません。



それでは,今日の問題です。


第28回・問題65 生活保護法における扶養義務者に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 近年の法改正により,保護の開始の決定をしようとするときは,一定の扶養義務者に対する書面による通知を行う仕組みが導入された。

2 保護の実施機関は,家庭裁判所の審判を経ずに,直系血族及び兄弟姉妹以外の者に扶養義務を負わせることができる。

3 保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の親族の申請に基づいて開始される。

4 夫婦間と子の老親に対する関係は,生活保護法の規定に基づき,その他の範囲に比べて強い扶養義務が課せられている。

5 被保護者に対して扶養義務者が扶養の義務を履行しないとき,国は,その費用の全部又は一部をその扶養義務者から徴収することができる。


この問題の正解は,選択肢1です。


1 近年の法改正により,保護の開始の決定をしようとするときは,一定の扶養義務者に対する書面による通知を行う仕組みが導入された。


この時の改正は,人気タレントの親が生活保護を受給していたことに世の中の批判が集まったことによるものです。


しかし,この規定ができたことで,生活保護を申請すると親族に通知がいくと思い,申請をためらう人もいるようです。


保護を受けられる状況にある人のうち,実際に保護を受けている人の割合は,捕捉率(テイクアップレート)といいます。

捕捉率はわずか10%程度であるという報告もあります。

保護が必要なときは,保護を受けて,そして体勢を整えた後に,元の位置に戻す制度や支援が求められるところです。


それでは,ほかの選択肢を確認します。


2 保護の実施機関は,家庭裁判所の審判を経ずに,直系血族及び兄弟姉妹以外の者に扶養義務を負わせることができる。


直系血族及び兄弟姉妹以外の三親等以内の親族が扶養義務を負うのは,家庭裁判所の審判があった場合です。


3 保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の親族の申請に基づいて開始される。


これはものすごくいやらしいものです。

これに引っ掛かった人は多いのではないでしょうか。


正しくは「その他の親族」ではなく「同居の親族」です。


4 夫婦間と子の老親に対する関係は,生活保護法の規定に基づき,その他の範囲に比べて強い扶養義務が課せられている。


これもうっかりすると引っ掛けられてしまいます。


夫婦間と子の老親に対する関係は,その他の親族に比べると強い扶養義務が課せられているのは正しいです。


どこが間違っているかと言えば,規定されているのは生活保護法ではなく,民法だからです。


しかし,慎重に読めば,この文章は間違いでありそうだ,と気づくことができます。


というのは,生活保護法が正しければ,


夫婦間と子の老親に対する関係は,その他の範囲に比べて強い扶養義務が課せられている。


で良いはずです。


こういったところに気づくことができるセンスが身につけば,得点力は必ず上がります。


5 被保護者に対して扶養義務者が扶養の義務を履行しないとき,国は,その費用の全部又は一部をその扶養義務者から徴収することができる。


最も強い扶養義務があるのは,夫婦間と未成年の子に対する扶養です。


生活に余裕があるとかないとかにかかわらず,パンが一個しかなければそれを分け合って食べるという生活保持義務を負っているのです。


それ以外の扶養義務者は,自分の生活を犠牲にしない程度の扶養の義務があります。これを生活扶助義務といいます。


同じ扶養義務者であっても扶養義務の強さは異なります。


その費用の全部又は一部をその扶養義務者から徴収するのは,扶養義務の範囲内ということになります。

この額は,保護の実施機関と扶養義務者との協議で定めます。協議ができない場合,協議が整わない場合は,保護の実施機関の申立てによって家庭裁判所が定めます。

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