国際生活機能分類(ICF)は,世界保健機構(WHO)が定めたもので,それまでのICIDHは,障害というネガティブ(医学モデル)なものでした。ICFは生活機能に焦点を当てる生活モデルです。
ICFで使われる用語
健康状態 |
疾患,外傷,妊娠,加齢,ストレス状態その他などの生活機能低下を起こす原因 |
心身機能 |
身体系の生理的機能(心理的機能を含む) |
身体構造 |
身体の解剖学的部分 |
活動 |
課題や行為の個人による遂行のこと |
参加 |
生活・人生場面への関わりのこと |
機能障害 |
心身機能または身体構造上の問題 |
活動制限 |
個人が活動を行うときに生じる難しさのこと |
参加制約 |
個人が何らかの生活・人生場面に関わるときに経験する難しさのこと |
環境因子 |
人々が生活し,人生を送っている物的な環境や社会的環境,人々の社会的な態度による環境を構成する因子のこと 環境因子と個人因子がある。 ※環境因子には,促進因子(生活機能にプラスの影響を与えるもの)と阻害因子(生活因子にマイナスの影響を与えるもの)がある。 |
それでは,今日の問題です。
第25回・問題4 国際生活機能分類(ICF)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 健常者も障害者も区別なく,個別性はあっても「健康状態」という一つの概念のもとにとらえられるという考え方をしている。
2 機能障害,能力障害,社会的不利のように,「障害」を分類したものである。
3 「健康状態」に含まれる心身機能・身体構造,活動・参加に関与する因子として,「遺伝因子」を含めている。
4 「障害」は,「環境因子」とは無関係なものととらえている。
5 症状が進行中あるいはまだ治癒していない場合を「疾患」と呼び,それが固定あるいは永続した場合を「障害」と呼んでいる。
第25回国試を私たちチームfukufuku21は,魔の第25回国試と呼んでいます。
今見るとやはり変な問題があります。この問題では,
5 症状が進行中あるいはまだ治癒していない場合を「疾患」と呼び,それが固定あるいは永続した場合を「障害」と呼んでいる。
がそんなところにあたるように思いませんか。
こんな分け方はありません。
法制度なら明確に分ける必要がありますが,生活機能を分類する際,それが疾患であったとしても障害であったとしても,本人には変わりはありません。
法制度で明確に分ける必要があるのは,お金が発生するからです。
それでは,そのほかの解説です。
1 健常者も障害者も区別なく,個別性はあっても「健康状態」という一つの概念のもとにとらえられるという考え方をしている。
これが正解です。
何となくでもICFの理念は見えてくるように思いませんか。
2 機能障害,能力障害,社会的不利のように,「障害」を分類したものである。
これが,ICIDHのことを述べているものです。
ICFとともにICIDHがどのようなものであったのかは,押さえておく必要はありそうです。
3 「健康状態」に含まれる心身機能・身体構造,活動・参加に関与する因子として,「遺伝因子」を含めている。
心身機能・身体構造,活動・参加に関与する因子は,背景因子といいます。
背景因子は,環境因子と個人因子に分けられます。遺伝因子というものはありません。
4 「障害」は,「環境因子」とは無関係なものととらえている。
障害は,環境因子と密接に関連します。
そのため,障害者の科目では,次の問題が出題されたことがあります。
第28回・問題57 事例を読んで,国際生活機能分類(ICF)の「参加制約」に該当するものとして,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Eさん(49歳,男性)は,脳性麻痺で足が不自由なため,車いすを利用している。25年暮らした障害者支援施設を退所し1年がたつ。本日,どうしても必要な買物があるが,支援の調整が間に合わない。その場での支援が得られることを期待して,一人で出掛けた。店まで来たが,階段の前で動けずにいる。
1 脳性麻痺で足が不自由なこと
2 階段があること
3 支援なしで外出できること
4 店で買物ができないこと
5 障害者支援施設を退所したこと
参加制約は,個人が何らかの生活・人生場面に関わるときに経験する難しさのことです。
正解は,選択肢4です。
4 店で買物ができないこと
ほかの選択肢は以下の通りです。
1 脳性麻痺で足が不自由なこと → 機能障害
2 階段があること → 環境因子
3 支援なしで外出できること → 活動,あるいは参加
5 障害者支援施設を退所したこと → 個人因子
この中で,ちょっとわかりにくいのは,選択肢1の「脳性麻痺で足が不自由なこと」です。
単に疾患としての「脳性麻痺」なら,第25回の問題のように,健康状態になります。「足が不自由」が加わると,脳性麻痺による心身機能に問題を生じているので,機能障害となります。