2022年8月7日日曜日

医療観察法と社会復帰調整官

今回は医療観察法を取り上げます。

 

出題されるポイントはそれほど多くはない法制度ですが,多くの受験生にとっては実生活でなじみのないこともあり,苦手だと思う人も多いのが現実です。

 

もったいないように思います。

 

以下は,厚生労働省のホームページ「医療観察法制度の概要について」の説明です。(一部改変)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sinsin/gaiyo.html

 

(制度の目的)

心神喪失又は心神耗弱の状態(精神障害のために善悪の区別がつかないなど,刑事責任を問えない状態)で,重大な他害行為(殺人,放火,強盗,強制性交等,強制わいせつ,傷害)を行った人に対して,適切な医療を提供し,社会復帰を促進することを目的とした制度です。

 

(検察官による申立て)

心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行い,不起訴処分となるか無罪等が確定した人に対して,検察官は,医療観察法による医療及び観察を受けさせるべきかどうかを地方裁判所に申立てを行います。

 

(合議体による処遇の決定)

検察官からの申立てがなされると,鑑定を行う医療機関での入院等が行われるとともに,裁判官と精神保健審判員(必要な学識経験を有する医師)の各1名からなる合議体による審判で,本制度による処遇の要否と内容の決定が行われます。

 

(入院決定と社会復帰調整官による生活環境の調整)

審判の結果,医療観察法の入院による医療の決定を受けた人に対しては,厚生労働大臣が指定した医療機関(指定入院医療機関)において,手厚い専門的な医療の提供が行われるとともに,この入院期間中から,法務省所管の保護観察所に配置されている社会復帰調整官により,退院後の生活環境の調整が実施されます。

 

(通院決定と社会復帰調整官による精神保健観察)

医療観察法の通院による医療の決定(入院によらない医療を受けさせる旨の決定)を受けた人及び退院を許可された人については,保護観察所の社会復帰調整官が中心となって作成する処遇実施計画に基づいて,原則として3年間,地域において,厚生労働大臣が指定した医療機関(指定通院医療機関)による医療を受けることとなります。

この通院期間中においては,保護観察所が中心となって,地域処遇に携わる関係機関と連携しながら,本制度による処遇の実施が進められます。

 

今日のもう一つのテーマは,この中に出てくる社会復帰調整官です。

 

社会復帰調整官は,保護観察所に配置され,対象者が入院治療中は,生活環境の調整,通院治療中は,精神保健観察を行います。

 

抗精神病薬は統合失調症の治療にとても効果があり,精神障害者にとって決められたように服薬していることは極めて重要です。

 

生活状況を見守って,通院治療を受けているかどうかを確認するのが,精神保健観察の目的の一つです。

 

通院治療中は,社会復帰調整官はケア会議を開いて,医療スタッフなどの関係者と情報の共有,ケア方針の確認などを行います。

 

ケア会議は,一般的なケア会議と同じように,本人が参加することもあります。

 

それでは,今日の問題です。

 

31回・問題150 社会復帰調整官に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会復帰調整官は,地方検察庁に配属されている。

2 社会復帰調整官は,医療刑務所入所中の者の生活環境の調整を行う。

3 社会復帰調整官が,「医療観察法」の審判で処遇を決定する。

4 社会復帰調整官は,精神保健観察のケア会議に支援対象者の参加を求めることができる。

5 社会復帰調整官が,指定通院医療機関の指定を行う。

(注) 「医療観察法」とは,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」のことである。

 

社会復帰調整官の任用資格には,社会福祉士も含まれることもあり,しっかり覚えたいところです。

 

それでは解説です。

 

1 社会復帰調整官は,地方検察庁に配属されている。

 

社会復帰調整官が配属されているのは,保護観察所です。

 

2 社会復帰調整官は,医療刑務所入所中の者の生活環境の調整を行う。

 

社会復帰調整官が生活環境の調整を行うのは適切ですが,対象は,指定入院医療機関に入院中の者です。

 

医療刑務所では,刑に服している者が対象となってしまいます。医療観察法の対象者は,心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行い,不起訴処分となるか無罪等が確定した人です。

 

3 社会復帰調整官が,「医療観察法」の審判で処遇を決定する。

 

審判で処遇を決定するのは,裁判官と精神保健審判員による合議体です。

 

精神保健審判員は,医師の名称がつきませんが医師なので注意が必要です。

 

4 社会復帰調整官は,精神保健観察のケア会議に支援対象者の参加を求めることができる。

 

これが正解です。

 

医療観察というと,特別な感じがするかもしれませんが,福祉的支援に関しては,一般的なものと変わるものではありません。

 

5 社会復帰調整官が,指定通院医療機関の指定を行う。

 

指定通院医療機関の指定を行うのは,厚生労働大臣です。

 

法務大臣が指定を行うのではないところに注意が必要です。医療観察制度=法務省だと思っていると間違う原因となるので,確実に覚えておきたいです。

 

社会福祉士や精神保健福祉士が社会復帰調整官の任用資格であったり,指定医療機関を指定するのは厚生労働大臣であったり,厚生労働省管轄の内容が含まれるために,医療観察法の所管は,厚生労働省と法務省の共同で行っています。

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