2023年3月31日金曜日

制度系の事例問題に強くなる~傷病手当金

 制度系の事例問題は,当然ですが,制度を知らないと正解することができません。


今回は,社会保障の事例問題を取り上げます。


医療保険は,療養の給付とともに現金給付のものがあります。


健康保険で規定される現金給付のものの代表は,傷病手当金です。


傷病手当金は,傷病によって労務不能になった日から,連続した3日間のあと,4日目から通算して1年6か月間給付されます。


そのほかの現金給付には,出産手当金と出産育児一時金がありますが,これらはまた別の機会に紹介します。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題54 事例を読んで,健康保険などに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 会社員のFさん(35歳,男性)は,健康保険の被保険者であり,妻のGさん(33歳)と同居している。GさんはFさんの加入する健康保険の被扶養者である。ある休日,FさんはGさんを同乗させ,自家用車を運転して行楽に出掛ける途中,誤ってガードレールに衝突する自損事故を起こし,二人ともケガをしたので,治療のため病院に行った。

1 事故はFさんの過失によるものなので,健康保険は適用されず,FさんとGさんは治療費を全額負担しなければならない。

2 事故はFさんの過失によるものなので,Fさんには健康保険が適用されないが,Gさんには治療費について健康保険の給付が行われる。

3 ケガのため,翌日から連続して会社を休み,その間,給与の支払がなかった場合,Fさんは休業4日日から傷病手当金を受けられる。

4 Gさんがパートで働いており,仕事を休む場合,Gさんは傷病手当金を受けられる。

5 Fさんのケガは,労働者災害補償保険の療養補償給付の対象となる。


このような事例問題では,傷病を負ったのは,仕事中(通勤も含む)なのか,それ以外なのかを確認することから始めます。


仕事中なら労災保険が適用されるからです。


この事例の場合は,休日中の事故なので,労災保険ではなく,健康保険が適用されます。


それでは,解説です。


1 事故はFさんの過失によるものなので,健康保険は適用されず,FさんとGさんは治療費を全額負担しなければならない。

2 事故はFさんの過失によるものなので,Fさんには健康保険が適用されないが,Gさんには治療費について健康保険の給付が行われる。


健康保険は過失であっても適用されます。


傷病を負った場合,健康保険が適用されないのは,労災保険が適用される場合と故意による場合です。


3 ケガのため,翌日から連続して会社を休み,その間,給与の支払がなかった場合,Fさんは休業4日日から傷病手当金を受けられる。


これが正解です。


注意が必要なのは,労務不能になった日から連続した3日間の後,4日目から給付されることです。


4 Gさんがパートで働いており,仕事を休む場合,Gさんは傷病手当金を受けられる。


傷病手当金は,被保険者本人の所得補償です。


Gさんは,被扶養者なので,傷病手当金は給付されません。


5 Fさんのケガは,労働者災害補償保険の療養補償給付の対象となる。


休日中のけがは,健康保険の対象です。

2023年3月30日木曜日

社会保障の事例問題

社会保障では今のところ,毎回1問出題されています。


法制度の知識が問われる事例問題は,普通の一問一答式(いわゆるタクソノミーⅠ型)に比べると,事例を絡めている分,問題が難しくなります。


それでは,今日の問題です。


第25回・問題55 事例を読んで,医療保険制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 会社員のHさんは,健康保険の被保険者であるが,うつ病により会社を休職し,健康保険の傷病手当金を受給している。うつ病の原因が職場環境にあると考え,労働者災害補償保険法(以下「労災保険」という。)よる労働災害の認定を請求するとともに,病気の治療に専念するため,会社を退職することを予定している。

1 Hさんに支給される傷病手当金の額は,休業前の6か月間に支払われた平均賃金の80%である。

2 Hさんが退職後も傷病手当金の支給を受けるためには,健康保険の任意継続被保険者となる必要がある。

3 Hさんが健康保険の被保険者となって二年を経過する前に休職した場合には,傷病手当金は支給されない。

4 Hさんに対する傷病手当金は,労務不能となった日から連続する3日の待機期間の後,4日目から最長で1年6か月間支給される。

5 Hさんの請求が認められた場合,労災保険に基づく休業補償給付が支給されるため,健康保険による傷病手当金は減額される。


医療保険に関する事例問題の場合,かなりの頻度で出題されるのが,傷病手当金です。


傷病手当金って何? と思う人はかなり勉強不足の状態だと言えるので,しっかり覚えてください。


傷病手当金は,2022年に制度が変わり,この問題では今は正解がありません。


この問題の本来の正解は,選択肢4です。


4 Hさんに対する傷病手当金は,労務不能となった日から連続する3日の待機期間の後,4日目から最長で1年6か月間支給される。


制度が変わったのは,最長で1年6か月間が通算で1年6か月間となったことです。


Hさんに対する傷病手当金は,労務不能となった日から連続する3日の待機期間の後,4日目から通算で1年6か月間支給される。


これが現時点(2023年3月)で正しい文章となります。


それでは,ほかの選択肢を確認します。


1 Hさんに支給される傷病手当金の額は,休業前の6か月間に支払われた平均賃金の80%である。


傷病手当金の額は,平均賃金の3分の2です。


2 Hさんが退職後も傷病手当金の支給を受けるためには,健康保険の任意継続被保険者となる必要がある。


傷病手当金を受け取るために健康保険を任意継続するというのは,何ともおかしな話です。


退職前の1年以上にわたって被保険者であったなら,傷病手当金を受け止ることができます。


3 Hさんが健康保険の被保険者となって二年を経過する前に休職した場合には,傷病手当金は支給されない。


退職した場合と異なり現職の場合は,被保険者の期間にかかわらず,傷病手当金は支給されます。


5 Hさんの請求が認められた場合,労災保険に基づく休業補償給付が支給されるため,健康保険による傷病手当金は減額される。


労災が認められると,傷病手当金に変わって休業補償給付が支給されます。


同じ事由による傷病では,休業補償給付と傷病手当金は併給されません


2023年3月29日水曜日

後期高齢者医療制度の財源

日本の医療保険制度は,現役世代の制度と高齢者世代の制度が別建てとなっているのが特徴です。


高齢者世代の医療保険制度は,「高齢者の医療を確保する法律」による後期高齢者医療制度です。


保険者 ※法では運営主体と書かれている。

 都道府県区域の全市町村が加入する広域連合


被保険者

 75歳以上の者,及び一定の障害状態のある65~74歳の者

 ※生活保護受給者を除く


財源

 保険料 1割

 後期高齢者支援金 4割

 公費 5割


後期高齢者医療制度の特徴は,現役世代の医療保険制度からの支援金があることです。


保険料

 広域連合ごとに定める。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題74 後期高齢者医療制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 

1 保険者は都道府県である。

2 被保険者は,60歳以上の者が対象である。

3 保険料の算定は,世帯単位でされる。

4 各被保険者の保険料は同一である。

5 各医療保険者から拠出される後期高齢者支援金が財源の一部となっている。


後期高齢者医療制度が一問丸ごと出題されるのはとても珍しいことです。


現時点(2023年3月)では,平成19年度改正カリキュラムによる最晩年に当たるため,出題基準にあっても出題されてこなかったもの,あるいはほとんど出題されてこなかったものを埋めるような出題が見られます。


それでは,解説です。


1 保険者は都道府県である。


後期高齢者医療制度の保険者(運営主体)は,都道府県区域の全市町村が加入する広域連合です。


2 被保険者は,60歳以上の者が対象である。


被保険者は,75歳以上の者,及び一定の障害状態のある65~74歳の者です。


生活保護受給者は被保険者となりません。その代わり,医療扶助が給付されます。


3 保険料の算定は,世帯単位でされる。


保険料は,個人単位で算定されます。


4 各被保険者の保険料は同一である。


保険料は,広域連合ごとに定めます。


5 各医療保険者から拠出される後期高齢者支援金が財源の一部となっている。


これが正解です。現役世代の医療保険者からの後期高齢者支援金は後期高齢者医療制度の重要な財源です。財源の4割を占めているのが,後期高齢者支援金です。

2023年3月28日火曜日

短時間労働者に対する健康保険と厚生年金保険の適用

特定適用事業所で働くパート・アルバイト等の短時間労働者は,一定の要件を満たすことで,健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。


近年,特定適用事業所の範囲が拡大しています。


平成28年10月~ 

 被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時500人を超える事業所

令和4年10月~

 被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時100人を超える事業所

令和6年10月~

 被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時50人を超える事業所


〈短時間労働者の要件〉

・週の所定労働時間が20時間以上であること

・雇用期間が2か月を超えて上見込まれること

・賃金の月額が88,000円以上であること

・学生でないこと


なお,特定適用事業所でなくても労使合意で特定適用事業所と同様に適応される任意特定適用事業所となることができます。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題70 日本の医療保険の適用に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民健康保険の被保険者に扶養されている者は,被扶養者として,給付を受けることができる。

2 健康保険組合が設立された適用事業所に使用される被保険者は,当該健康保険組合に加入する。

3 「難病法」の適用を受ける者は,いずれの医療保険の適用も受けない。

4 国民健康保険は,後期高齢者医療制度の被保険者も適用となる。

5 週所定労働時間が10時間未満の短時間労働者は,健康保険の被保険者となる。 

(注) 「難病法」とは,「難病の患者に対する医療等に関する法律」のことである。


制度を正しく理解していないと正解するのはかなり難しいと言えるかもしれません。


それでは解説です。


1 国民健康保険の被保険者に扶養されている者は,被扶養者として,給付を受けることができる。


国民健康保険には,被扶養者という制度はありません。


例えば,4人家族なら世帯主が4人分の保険料を納付する義務があります。


国民健康保険と異なり健康保険には被扶養者という制度があるのは,健康保険制度は労働者を守るための制度だからです。


国民健康保険は,自営業者などが加入する制度なので,本人のがんばり次第では多くの収入を得ることができます。


それに対して,労働者の報酬は事業主次第です。イギリスの歴史を思い出せば,労働者が保護されることがなかった時代の労働者は辛い生活を強いられたことが理解できるでしょう。

労働力を報酬に変える労働者にとって,働けなくなることは即貧困に陥ります。


2 健康保険組合が設立された適用事業所に使用される被保険者は,当該健康保険組合に加入する。


これが正解です。


大企業などは独自に組合を作って健康保険の運営を行うことができます。


そこに雇用されている労働者は,その健康保険組合の被保険者となります。


3 「難病法」の適用を受ける者は,いずれの医療保険の適用も受けない。


難病法は,難病者の医療保険の自己負担分を軽減するための制度です。


4 国民健康保険は,後期高齢者医療制度の被保険者も適用となる。


後期高齢者医療制度の被保険者は,後期高齢者医療制度が適用されます。


5 週所定労働時間が10時間未満の短時間労働者は,健康保険の被保険者となる。


健康保険の被保険者となることができる短時間労働者の要件は,週20時間以上です。

2023年3月27日月曜日

医療保険に対する国庫補助・国庫負担

社会保険制度は,社会保険料を財源として運用されますが,日本の社会保険制度には,社会保険料だけではなく,税も財源としていることに特徴があります。

 

しかし,注意してほしいのは,財源割合では税が社会保険料を超えるようには制度設計はされないことです。

 

もし税財源のほうが多くなれば,それは最早社会保険制度は言えないものとなってしまうでしょう。

 

医療保険に対しても国庫補助と国庫負担があります。

ここでは,国庫補助と国庫負担の違いは問われないので,簡単に以下のように整理してみます。

 ※必要以上の知識は必要とされません。


保険者

療養の給付の費用

事務費用

協会けんぽ

あり

あり

健康保険組合

なし

あり

都道府県等が行う国民健康保険

あり

あり

国民健康保険組合

なし

あり

 

注意すべき点は,いずれの保険者に対しても事務費用に対する国の負担がありますが,健康保険組合と国民健康保険組合の療養の給付には,国の補助はないことです。

 

それでは,今日の問題です。

 

32回・問題53 医療保険制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 後期高齢者医療制度には,75歳以上の全国民が加入する。

2 後期高齢者の医療費は,後期高齢者の保険料と公費で折半して負担する。

3 都道府県は,当該都道府県内の市町村とともに国民健康保険を行う。

4 健康保険組合の保険料は,都道府県ごとに一律となっている。

5 協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の給付費に対し,国は補助を行っていない。

 

この問題の正解は,選択肢3です。

3 都道府県は,当該都道府県内の市町村とともに国民健康保険を行う。

 

従来,市町村国民健康保険と呼ばれていた市町村が保険者となる国民健康保険は,平成30年の制度改正で,都道府県も保険者になりました。

 

それでは,ほかの選択肢も解説します。

 

1 後期高齢者医療制度には,75歳以上の全国民が加入する。

 

後期高齢者医療制度の被保険者は,6574歳で一定の障害がある者と75歳以上の者であることは,今までに何度も出題されています。

 

それでは,75歳以上の全国民が加入するのでしょうか?

 

いいえ,生活保護受給者は除かれます。

 その代わり,生活保護受給者に医療が必要な場合は,医療扶助が給付されます。

 

2 後期高齢者の医療費は,後期高齢者の保険料と公費で折半して負担する。

 

後期高齢者医療制度の財源は,保険料と公費に加えて,現役世代の保険者の拠出金である「後期高齢者負担金」によって賄われます。

 

4 健康保険組合の保険料は,都道府県ごとに一律となっている。

 

健康保険組合の保険料は,組合が独自に定めます。

 

5 協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の給付費に対し,国は補助を行っていない。

 

協会けんぽの給付費(療養の給付等)に対して,国の補助があります。

少し複雑なので,上記の表は必ず覚えておきたいです。

 

給付費に対して国の補助がないのは,健康保険組合と国民健康保険組合です。

ただし,これらに対しても事務費用に対しては国の負担はあります。

2023年3月26日日曜日

健康保険制度と国民健康保険制度

現役世代の医療保険制度には,大きく分けて以下の2つがあります。


①被用者を対象とする健康保険制度


②自営業者等を対象とする国民健康保険制度


それぞれには,独自に組合を作って保険業務を行う組合があります。


大企業が組合をつくる健康保険組合(健保組合)


同業者が組合をつくる国民健康保険組合(国保組合)


それでは今日の問題です。


第33回・問題51 医療保険制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民健康保険には,被用者の一部も加入している。

2 医師など同種の事業又は業務に従事する者は,独自に健康保険組合を組織することができる。

3 協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の保険料率は,全国一律である。

4 健康保険の被扶養者が,パートタイムで働いて少しでも収入を得るようになると,国民健康保険に加入しなければならない。

5 日本で正社員として雇用されている外国人が扶養している外国在住の親は,健康保険の被扶養者となる。


とてもうまい出題です。

決して難しいものを出題しているわけではありませんが,正解するには正確な知識が必要です。国家試験の理想です。


それでは,解説です。


1 国民健康保険には,被用者の一部も加入している。


これが正解です。


短時間雇用などの理由で健康保険の適用にならない被用者は,国民健康保険に加入します。


2 医師など同種の事業又は業務に従事する者は,独自に健康保険組合を組織することができる。


医師など同種の事業又は業務に従事する者が組織するのは,国民健康保険組合です。


3 協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の保険料率は,全国一律である。


協会けんぽの保険料率は,都道府県の医療費などの違いによって,都道府県ごとに若干異なります。


医療費が高い都道府県の保険料は高く設定され,医療費が低い都道府県の保険料は低く設定されます。

疾病予防などに力を入れて,その都道府県内の医療費が下がれば,保険料率も下がります。


4 健康保険の被扶養者が,パートタイムで働いて少しでも収入を得るようになると,国民健康保険に加入しなければならない。


収入があっても扶養の範囲なら,健康保険の被扶養者どなります。


5 日本で正社員として雇用されている外国人が扶養している外国在住の親は,健康保険の被扶養者となる。


健康保険の被扶養者となるには,日本国内に住所を有することが必要です。

2023年3月24日金曜日

日本の医療保障制度

医療保障制度は,それぞれの国の特徴が表われます。


日本は,社会保険制度中心

イギリスは,税財源による国民医療サービス(NHS)

アメリカは,高齢者等に対するメディケア,低所得者に対するメディケイド,全国民を対象とする公的医療保険はない。


こんな感じです。


繰り返しますが,日本の医療保障は,社会保険制度が中心です。これを押さえておくと,いろいろな問題に対して応用が効きます。


日本の医療保険制度は,戦前から存在した制度を利用して国民皆保険を作り上げました。


公的年金保険制度ほどは複雑ではありませんが,医療保険制度も複雑です。


現役世代の医療保険制度は


健康保険

国民健康保険


これらはそれぞれ組合をつくって保険者となることができます。


このほかに共済組合と船員保険があります,このうち,船員保険の保険者も協会けんぽです。


これに,後期高齢者医療制度が加わります。


それでは,今日の問題です。


第23回・問題52 医療保障制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の前身は,中小企業等で働く従業員やその家族が加入していた政府管掌健康保険である。

2 後期高齢者医療制度の被保険者は,日本に住む75歳以上の高齢者のみである。 

3 後期高齢者医療制度の運営主体は,市町村単位の広域連合である。

4 前期高齢者医療制度は,国民健康保険・被用者保険の各保険者が,被保険者の所得に応じて費用負担を調整している。

5 大企業等で働く従業員やその家族が加入する組合管掌健康保険においては,すべての組合の保険料率は同率である。


ずいぶん古い問題ですが,今でもそのまま使えます。


法制度は変わるため,新しいもので勉強しないとだめですが,制度変更を押さえることができる会社がつくった古い過去問を使った過去問題集は,学びが多いものです。


それでは,解説です。


1 協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の前身は,中小企業等で働く従業員やその家族が加入していた政府管掌健康保険である。


これが正解です。

健康保険制度は,日本で最も古い社会保険制度です。ここから歴史が始まりました。


制度ができた当初から保険者は政府でしたが,現在は,協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)が保険者となります。


健康保険の保険者には,中小企業を対象にする協会けんぽと大企業などが組織する健康保険組合があります。


2 後期高齢者医療制度の被保険者は,日本に住む75歳以上の高齢者のみである。


後期高齢者医療制度の被保険者には,一定の障害がある65歳以上74歳未満の者も含みます。


3 後期高齢者医療制度の運営主体は,市町村単位の広域連合である。


後期高齢者医療制度の運営主体は,都道府県単位の広域連合です。


4 前期高齢者医療制度は,国民健康保険・被用者保険の各保険者が,被保険者の所得に応じて費用負担を調整している。


前期高齢者医療制度は,現役世代の保険者のそれぞれの前期高齢者の加入率によって,費用負担を調整する制度です。


5 大企業等で働く従業員やその家族が加入する組合管掌健康保険においては,すべての組合の保険料率は同率である。


健康保険組合の保険料率は,組合それぞれが独自に定めます。

2023年3月23日木曜日

社会保障制度の外国人への適用について

日本は難民条約を批准しています。


難民条約では,難民に対して国民と同様の社会保障を提供することを求めています。


そのため,ほとんどの社会保障制度は,日本国内に住所を有する外国人に適用されます。


しかし,生活保護法だけは別です。法で「すべての国民に対し」と規定しているために外国人には適用されていません。


とは言ってもすべての外国人が生活保護を受けられないということではありません。法は適用されませんが,法に準じた生活保護が予算措置によって行われています。


それでは今日の問題です。


第35回・問題54 社会保険制度の適用に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者は,雇用保険に加入することはできない。

2 労働者災害補償保険制度には,大工,個人タクシーなどの個人事業主は加入できない。

3 日本国内に住所を有する外国人には,年齢にかかわらず国民年金に加入する義務はない。

4 厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者で,一定以下の収入しかない者は,国民年金に加入する義務はない。

5 生活保護法による保護を受けている世帯(保護を停止されている世帯を除く。)に属する者は,「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者としない。


この問題は,すべて否定形でそろえられているため,問題の難易度が若干上がります。


表現がそろっていないものや文章が極端に長いものや短いものは,そういったところがヒントになって消去することができます。しかし,このように表現をそろえられると,知識不足の人は正解するのが難しくなります。


そういった意味では,国家試験の理想だと言えます。出題している内容はそれほど高度なものではなくても,受験生をふるいにかけることができるからです。


それでは,解説です。


1 週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者は,雇用保険に加入することはできない。


雇用保険の加入要件は,1週間の所定労働時間が20時間以上であり,継続して31日以上雇用される見込みのある労働者です。


2 労働者災害補償保険制度には,大工,個人タクシーなどの個人事業主は加入できない。


労働者災害補償保険制度は,労働者の労災に備える制度ですが,大工,個人タクシーなどの個人事業主が加入できる「特別加入制度」があります。


3 日本国内に住所を有する外国人には,年齢にかかわらず国民年金に加入する義務はない。


国民年金は,1981年(昭和56年)の難民条約を批准したときに,最初に国籍要件が撤廃された制度の一つです。


もちろん日本国内に住所を有する外国人も加入します。


4 厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者で,一定以下の収入しかない者は,国民年金に加入する義務はない。


厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者で,一定以下の収入しかない者は,国民年金の第三号被保険者です。


国民年金の第三号被保険者は保険料を納付していないために,国民年金に加入していないと勘違いする人もいるので注意が必要です。


5 生活保護法による保護を受けている世帯(保護を停止されている世帯を除く。)に属する者は,「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者としない。


これが正解です。


生活保護法による保護を受けている世帯が,「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者としない理由は,医療保険の代わりに医療扶助が給付されるからです。

ただし,保護を受けている世帯の世帯員であっても健康保険に加入している人もいます。その場合は,医療扶助ではなく保険を使って医療を受けることになります。

2023年3月22日水曜日

社会保険の被保険者

社会保険制度は,日本の社会保障制度の中心です。


つまり,社会保障に強くなるためには,社会保険制度を押さえることが重要です。


社会保険制度を押さえるポイントはいくつかありますが,その中でも被保険者は極めて重要です。


今日の問題は,基本中の基本です。


第35回・問題51 事例を読んで,社会保険制度の加入に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事例〕

 Gさん(76歳)は,年金を受給しながら被用者として働いている。同居しているのは,妻Hさん(64歳),離婚して実家に戻っている娘Jさん(39歳),大学生の孫Kさん(19歳)である。なお,Gさん以外の3人は,就労経験がなく,Gさんの収入で生活している。 

1 Gさんは健康保険に加入している。

2 Hさんは国民健康保険に加入している。 

3 Jさんは健康保険に加入している。

4 Jさんは介護保険に加入している。

5 Kさんは国民年金に加入している。


この問題はとても素敵です。


試験委員のセンスを感じませんか。

座布団を一枚あげたくなるような問題です。


知識があれば解けるし,知識がなければ解けない,という理想の問題です。


それでは解説です。


1 Gさんは健康保険に加入している。


Gさんは,76歳です。


75歳になった時点で,健康保険を抜けて,後期高齢者医療制度の被保険者となっているはずです。


2 Hさんは国民健康保険に加入している。


これが正解です。


Gさんが75歳未満だったときは健康保険の被保険者だったと考えられ,Hさんはその扶養者となっていたでしょう。


Gさんが75歳になった時点で,後期高齢者医療制度の被保険者となりました。


国民健康保険と後期高齢者医療制度には,健康保険と異なり,被扶養者という制度はありません。


そのため,Hさんは国民健康保険に加入することになります。


3 Jさんは健康保険に加入している。


Jさんは就労経験がないという情報があるため,加入しているのは,国民健康保険だと考えられます。


4 Jさんは介護保険に加入している。


40歳であれば,介護保険の第二号被保険者となるかもしれませんが,Jさんはこの時点ではまだ39歳です。


5 Kさんは国民年金に加入している。


国民年金は,20歳以上60歳未満の者が加入します。Jさんはこの時点ではまだ19歳です。


〈今日の一言〉


今日の問題は決して高度な知識を問う問題ではありません。しかし,確実に正解するのはとても難しいものです。


こういった問題が,国試の合否を分けると言っても決して過言ではないでしょう。


2023年3月21日火曜日

国民年金の第三号被保険者

 国民年金の被保険者

第一号被保険者

日本国内に住所を有する二十歳以上六十歳未満の者であって次号及び第三号のいずれにも該当しないもの。

第二号被保険者

厚生年金保険の被保険者。

第三号被保険者

第二号被保険者の配偶者(日本国内に住所を有する者又は外国において留学をする学生その他の日本国内に住所を有しないが渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められる者として厚生労働省令で定める者に限る。)であって被扶養配偶者のうち二十歳以上六十歳未満のもの。

 

国家試験では,たったこれだけのものをさまざまなスタイルで出題します。

 

社会保障が苦手な人は,一度根拠法令を確認することをおすすめします。

 

それでは今日の問題です。

 

34回・問題55 公的年金の被保険者に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 厚生年金保険の被保険者は,老齢厚生年金の受給を開始したとき,その被保険者資格を喪失する。

2 20歳未満の者は,厚生年金保険の被保険者となることができない。

3 被用者は,国民年金の第一号被保険者となることができない。

4 厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者であっても,学生である間は,国民年金の第三号被保険者となることができない。

5 国民年金の第三号被保険者は,日本国内に住所を有する者や,日本国内に生活の基礎があると認められる者であること等を要件とする。

 

知識不足の人は,5分の1程度の確率でしか正解できないものです。しかし,問題づくりが下手だと知識なしでも消去できてしまう選択肢ができるので,知識不足の人でも60点くらいは取ることが可能です。

 

つまり,その程度の点数しか取れていない人は,合格するための知識は圧倒的に不足していることになります。

 

再受験を目指すなら,相当な覚悟が必要でしょう。

 

国家試験は,受験生に知っておいてもらいたいものを出題することを覚えておけば,つまらないミスは減ります。

 

それでは,解説です。

 

1 厚生年金保険の被保険者は,老齢厚生年金の受給を開始したとき,その被保険者資格を喪失する。

 

厚生年金は,70歳まで加入します。

 

老齢厚生年金を受給しても,被用者であれば,70歳までは被保険者となります。

 

2 20歳未満の者は,厚生年金保険の被保険者となることができない。

 

厚生年金は,70歳以下の者が加入します。つまり,20歳未満でも要件に合う人は加入します。

 

3 被用者は,国民年金の第一号被保険者となることができない。

 

被用者であっても,厚生年金の加入要件に合わない人は,国民年金の第一号被保険者として加入します。

 

4 厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者であっても,学生である間は,国民年金の第三号被保険者となることができない。

 

被扶養配偶者は被扶養配偶者です。学生は除くといった要件はありません。

 

5 国民年金の第三号被保険者は,日本国内に住所を有する者や,日本国内に生活の基礎があると認められる者であること等を要件とする。

 

これが正解です。制度改正があったものをすぐ出題した珍しいものです。

しかし,これを知らずとも,正解することは難しくない問題でした。

なぜなら,選択肢2~4は,消去できるからです。「できない」ものを正解にする意義はあまりありません。

 

すべてが「できない」で統一されると難しくなりますが,この問題のように表現がばらつくとそこがヒントになります。

2023年3月20日月曜日

遺族年金は国家試験のダークホース

公的年金制度は,老齢,障害,遺族年金があり,それぞれ基礎年金と厚生年金があります。


共通しているものもありますし,異なるものもあります。


そのため,覚えるのがとても面倒です。


しかし,社会保険制度は,クライエントの支援だけではなく,生活に直接関連するので,覚えておくと自分や家族の役にも立つでしょう。


遺族年金は,社会福祉士の国家試験での出題頻度は多くはありません。


そのため,過去問題で押さえるのは困難に近いです。参考書などで知識をつけることが必要です。


それでは,今日の問題です。


第32回・問題52 遺族年金に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 死亡した被保険者の子が受給権を取得した遺族基礎年金は,生計を同じくするその子の父または母がある間は支給停止される。

2 死亡した被保険者の子が受給権を取得した遺族基礎年金は,その子が婚姻した場合でも引き続き受給できる。

3 遺族基礎年金は,死亡した被保険者の孫にも支給される。

4 受給権を取得した時に,30歳未満で子のいない妻には当該遺族厚生年金が10年間支給される。

5 遺族厚生年金の額は,死亡した者の老齢基礎年金の額の2分の1である。


遺族年金を一問丸ごと出題したのは,第22回以降では,現在のところこの問題だけです。


この問題の正解は,選択肢1です。


1 死亡した被保険者の子が受給権を取得した遺族基礎年金は,生計を同じくするその子の父または母がある間は支給停止される。


遺族基礎年金は,子のある配偶者が遺族基礎年金を受け取っている間や子に生計を同じくする父または母がいる間は,子には遺族基礎年金は支給されません。


生計を同じくするその子の父または母がいる場合とはどんな場合でしょう?


〈例〉

親が離縁させられて,誰かの養子になっている場合。

死亡した被保険者が再婚していた場合に再婚相手から離れて,実親(再婚前の親)に引き取られている場合。


いずれも今ではあまり多くはないかもしれません。


昔は大黒柱を失うと,妻は離縁させられ,子は親類の養子になることはよくあったことです。


妻は子を産むための存在だったという側面があったからなのでしょう。現代社会では考えにくいものです。


それではそのほかの解説です。


2 死亡した被保険者の子が受給権を取得した遺族基礎年金は,その子が婚姻した場合でも引き続き受給できる。


これは今となっては,婚姻できる年齢が18歳になったので,あまり意味のないものです。


子に支給されるのは,18歳(障害のある場合は20歳まで)だからです。


3 遺族基礎年金は,死亡した被保険者の孫にも支給される。


遺族基礎年金の支給対象者は

・子のある配偶者

・子


です。孫は含まれません。



4 受給権を取得した時に,30歳未満で子のいない妻には当該遺族厚生年金が10年間支給される。


10年ではなく,5年です。



5 遺族厚生年金の額は,死亡した者の老齢基礎年金の額の2分の1である。


遺族厚生年金の額は,死亡した者の老齢厚生年金の額の4分の3です。

2023年3月19日日曜日

障害基礎年金を極めよう

 障害基礎年金は,社会保険制度の中にありながら,社会福祉制度の性格をもちます。


社会保険制度は,事前に社会保険料の納付があることを原則とするのに対し,障害基礎年金は社会保険料の納付がなくても給付されることがあるからです。


この意味がわかる人は,かなり勉強が進んでいると言えるでしょう。とても順調だと思います。


社会保険料の納付がなくても障害基礎年金が給付される場合を考えていると以下のようなものがあります。


①初診日が20歳前にある傷病

国民年金の障害等級1・2級に該当する場合,20歳になった時点で給付される。


②学生納付特例制度の適用中

学生納付特例制度が適用されている場合は,第1号被保険者となり,この期間に国民年金の障害等級1・2級に該当する障害状態になった場合に給付される。


特に「①初診日が20歳前にある傷病」は重要です。先天性の障害があって,就労ができない場合,収入源は障害基礎年金のみということもあります。


社会福祉制度では受給にはスティグマを感じることもありますが,社会保険制度であれば,スティグマを感じることなく受給することができます。


そういった意味で,障害基礎年金を社会保険制度の中に組み込んだという制度設計を考えた人はすごいと思いませんか?


それでは,今日の問題です。


第26回・問題54 事例を読んで,障害年金制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

Lさんは,大学在学中に20歳となり国民年金の第1号被保険者となったが,学生納付特例制度を利用し,国民年金保険料の納付は行っていなかった。大学卒業後に民間企業に就職したが,入社1年後に精神疾患の診断を受け,療養のために退職した。Lさんは障害年金を受給したいと考えている。

1 Lさんが,国民年金法が定める障害等級2級に該当すると認定を受けたとしても,学生納付特例制度により納付を猶予された保険料を初診日の前に追納していなければ,障害基礎年金は支給されない。

2 障害認定日に障害の状態に該当しないとされた場合であっても,10年後に裁定請求し障害等級2級と認定されたときは,Lさんに対して障害基礎年金が支給される。

3 Lさんが障害厚生年金を受給するためには,精神疾患による障害認定日が厚生年金保険の被保険者期間内でなければならない。

4 精神疾患による障害が,国民年金法が定める障害等級2級に該当する場合,Lさんに支給される障害基礎年金の支給額は老齢基礎年金の満額の1.25倍となる。

5 Lさんの精神疾患が業務災害によるものであり,労災保険から障害補償年金が支給される場合,Lさんに対して障害基礎年金は支給されない。


事例の情報は,「Lさんは,大学在学中に20歳となり国民年金の第1号被保険者となったが,学生納付特例制度を利用し,国民年金保険料の納付は行っていなかった。大学卒業後に民間企業に就職したが,入社1年後に精神疾患の診断を受け,療養のために退職した」しかありません。


この問題は制度系なので,この情報だけでも正解できます。一般的な事例問題の場合,気をつけなければならないのは,情報がないのにもかかわらず,「きっとこうだろう」と思って考えてしまうことです。


それでは解説です。


1 Lさんが,国民年金法が定める障害等級2級に該当すると認定を受けたとしても,学生納付特例制度により納付を猶予された保険料を初診日の前に追納していなければ,障害基礎年金は支給されない。


学生納付特例制度の適用期間中に,障害状態になった場合,保険料の納付実績がなくても障害基礎年金は給付されます。


障害基礎年金は,老齢基礎年金と異なって減額制はありません。それにもかかわらず「追納」といったものが出題されて場合は,すぐに誤りだと判別することができます。


老齢基礎年金の場合は,40年間(480か月)にわたって保険料を納付することで満額支給となります。納付猶予された場合や免除されていた期間の分を追納することで,将来受け取る年金額が多くなります。


2 障害認定日に障害の状態に該当しないとされた場合であっても,10年後に裁定請求し障害等級2級と認定されたときは,Lさんに対して障害基礎年金が支給される。


これが正解です。


障害認定日は,初診日から1年6か月後に障害状態にあること,あるいは,それ以前に治癒して障害が残った場合です。


しかし,障害認定日に国民年金の障害等級1・2級に該当せずとも,その傷病が原因でその後に悪化して,そのレベルになった場合,請求して認められると障害基礎年金が支給されます。


3 Lさんが障害厚生年金を受給するためには,精神疾患による障害認定日が厚生年金保険の被保険者期間内でなければならない。


これは引っ掛けが施されているものです。


障害厚生年金を受給するために必要なのは,初診日が厚生年金保険の被保険者期間内であることです。


ここが障害基礎年金と異なる部分です。


障害基礎年金は,20歳前に初診日がある場合,つまり国民年金の被保険者期間内でなくても給付される場合があります。


4 精神疾患による障害が,国民年金法が定める障害等級2級に該当する場合,Lさんに支給される障害基礎年金の支給額は老齢基礎年金の満額の1.25倍となる。


障害基礎年金は,老齢基礎年金と異なり減額制はありません。


1級の場合は,老齢基礎年金の満額の1.25倍,2級の場合は,老齢基礎年金の満額と同額です。


5 Lさんの精神疾患が業務災害によるものであり,労災保険から障害補償年金が支給される場合,Lさんに対して障害基礎年金は支給されない。


障害補償年金は,労災によって障害を負った場合の所得補償です。


障害補償年金と障害基礎年金は合わせて受給できます。

障害基礎年金が優先され,障害補償年金は減額して支給されます。

2023年3月18日土曜日

社会保障の事例問題

社会保障の事例問題を確実に正解するためには,知識が必要です。


そういった意味では,タクソノミーⅡ型に分類されるのでしょう。


それでは,前説なしに今日の問題です。


第32回・問題55 事例を読んで,適切なものを2つ選びなさい。

〔事 例〕

 Fさん(65歳女性)は,22歳からアパレル関係の大企業で正社員として働き,厚生年金にも加入していた。その後会社員の夫と結婚し,35歳の時に退職して専業主婦になった。48歳の時に個人事業主として手芸店を開き,現在ではかなりの事業収入を得ている。

1 Fさんが大企業で働いて厚生年金に加入していた時には,給与の額にかかわらず毎月定額の保険料を支払っていた。

2 Fさんは通算して10年以上年金制度に加入しているので,老齢基礎年金を受給できる。

3 Fさんが専業主婦であった期間は,Fさん自身が国民年金の保険料を納付する必要はない。

4 Fさんは,事業収入に応じた年金保険料を支払わなければならない。

5 Fさんは65歳なので老齢厚生年金を受給できるが,事業収入が基準を超える場合は年金額が減額される。


わくわくするような問題だと思いませんか。


問題を解くのが楽しいと思えるようになるのは大変ですが,そこまで至れば国家試験は盤石です。


国家試験に失敗する人に共通の傾向は,自信をなくして実力を発揮することができないままに試験が進んでしまうことです。


知識があることは合格するのに必要なことですが,それだけでは合格するのは難しいということなのでしょう。


それでは解説です。


1 Fさんが大企業で働いて厚生年金に加入していた時には,給与の額にかかわらず毎月定額の保険料を支払っていた。


厚生年金の保険料は,報酬比例(報酬によって保険料が変わること)です。



2 Fさんは通算して10年以上年金制度に加入しているので,老齢基礎年金を受給できる。


これが1つめの正解です。

老齢基礎年金を受給するためには,10年以上の加入期間が必要です(免除期間等も含む)。

以前は,25年が必要でしたが,近年の改正によって短縮されました。


3 Fさんが専業主婦であった期間は,Fさん自身が国民年金の保険料を納付する必要はない。


これが2つめの正解です。

第三号被保険者の保険料は,第二号被保険者全体で支えているので,本人は保険料負担がありません。


4 Fさんは,事業収入に応じた年金保険料を支払わなければならない。


報酬によって保険料が変わるのは厚生年金です。

Fさんは,現在は厚生年金には加入していません。


5 Fさんは65歳なので老齢厚生年金を受給できるが,事業収入が基準を超える場合は年金額が減額される。


これを正解だと思う人も多いでしょう。そのためにこの問題を正解するのが難しくなります。


在職老齢年金は,65歳以上70歳以上の厚生年金の被保険者が一定以上の報酬があった場合に,年金額が停止,減額される制度です。

Fさんは現在,厚生年金の被保険者ではないために,在職老齢年金の対象にはならないために,減額されません。

2023年3月17日金曜日

障害基礎年金は重要です

日本の公的年金制度は,社会保険制度を採用していますが,その中では,障害基礎年金は,社会福祉制度の性格を持ちます。


20歳前に初診日がある場合,保険料を納付せずとも障害基礎年金を受給できる可能性があるからです。


それでは,今日の問題です。


第33回・問題55 国民年金に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民年金の第一号被保険者の保険料は,前年の所得に比例して決定される。

2 障害基礎年金を受給していると,国民年金の保険料納付は免除される。

3 学生納付特例制度の適用を受けた期間は,老齢基礎年金の受給資格期間には算入されない。

4 自営業者の配偶者であって無業の者は,国民年金の第三号被保険者となる。

5 障害基礎年金には,配偶者の加算がある。


この問題の元ネタは,これです。

https://fukufuku21.blogspot.com/2023/03/blog-post_14.html


それでは解説です。


1 国民年金の第一号被保険者の保険料は,前年の所得に比例して決定される。


国民年金の保険料は,定額です。


保険料が所得に比例される報酬比例となっているのは,厚生年金です。


2 障害基礎年金を受給していると,国民年金の保険料納付は免除される。


これが正解です。


元ネタとなった問題と同じものが正解です。


生活保護受給者,障害基礎年金受給者は,申請せずとも保険料が免除される法定免除です。


3 学生納付特例制度の適用を受けた期間は,老齢基礎年金の受給資格期間には算入されない。


学生納付特例制度の適用を受けた期間は,老齢基礎年金の受給資格期間には算入されます。


そのため,学生納付特例制度の適用を受けることはとても重要です。


4 自営業者の配偶者であって無業の者は,国民年金の第三号被保険者となる。


国民年金の第三号被保険者となるのは,厚生年金加入者(第二号被保険者)の被扶養配偶者です。


自営業者は,第一号被保険者なので,その被扶養配偶者も第一号被保険者として加入します。


5 障害基礎年金には,配偶者の加算がある。


配偶者の加算があるのは,厚生年金です。


障害基礎年金に加算があるのは,子の加算です。

2023年3月16日木曜日

障害基礎年金の特徴

日本の年金制度は,社会保険制度を取ります。


しかし,その中で障害基礎年金は,社会保険制度の性格とは少し異なります。


社会保険は事前に保険料を負担することで,保険事故が発生した場合に保険給付されます。


障害基礎年金の場合は,20歳前に初診日がある傷病によって,国民年金法が定める障害等級1・2級に相当する障害状態になった場合,保険料を納付せずとも20歳になったら保険給付されます。


つまり,社会保険制度の中にありながら,社会福祉制度の性格を持っていることになります。


それでは,今日の問題です。


第29回・問題52 事例を読んで,Cさんの年金の取扱いに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 先天性の視覚障害で,全盲のCさん(25歳,子どもなし)は,20歳になった翌月から1級の障害基礎年金を受給している。これまでは,仕事に就かず,年金以外にほとんど収入はなかったが,今年からU社に就職し,厚生年金に加入した。Cさんの視覚障害は,今後も回復が見込めないものとする。

1 Cさんは,障害基礎年金を受給しているので,厚生年金の保険料を免除される。

2 Cさんは,先天性の視覚障害により,障害厚生年金を受給できる。

3 Cさんは,先天性の視覚障害により,労災保険の障害補償年金を受給できる。

4 Cさんの障害基礎年金は,就職後の所得の額によっては,その全部又は一部の支給が停止される可能性がある。

5 今後,Cさんに子どもが生まれても,Cさんの障害基礎年金の額が加算される可能性はない。


障害基礎年金は,社会保険制度の中にありながら社会福祉制度の性格をもつと述べました。


社会福祉制度は,低所得者を対象とする施策です。これは,社会保障制度審議会の1962年勧告で示されています。


それでは解説です。


1 Cさんは,障害基礎年金を受給しているので,厚生年金の保険料を免除される。


障害基礎年金を受給している場合,国民年金の保険料は法定免除となります。


厚生年金の保険料は免除されません。


2 Cさんは,先天性の視覚障害により,障害厚生年金を受給できる。


先天性の視覚障害によって給付できるのは,障害基礎年金です。


障害厚生年金は,障害基礎年金と異なり,被保険者期間に初診日がなければなりません。


3 Cさんは,先天性の視覚障害により,労災保険の障害補償年金を受給できる。


労災保険の障害補償年金は,業務災害に対して給付されるものです。


4 Cさんの障害基礎年金は,就職後の所得の額によっては,その全部又は一部の支給が停止される可能性がある。


これが正解です。


20歳前の傷病によって生じた障害がある場合は,20歳になると障害基礎年金が給付されます。


ところが国民年金の被保険者は,20~60歳なので,障害基礎年金は保険料を納付せずとも給付されることになります。


ここが障害基礎年金は社会福祉制度の性格をもつところです。


社会保険制度は,所得調査を行うことなく,保険事故が生じることになり保険給付されます。


障害基礎年金は,保険料を納付せずに給付を受けることができる場合がありますが,所得が多い場合は,この選択肢にあるように,全部又は一部の支給が停止されることがあります。


極めて社会福祉制度の性格をもつことがわかります。


この規定があるのは,保険料を納付している人との不公平を調整するためです。


5 今後,Cさんに子どもが生まれても,Cさんの障害基礎年金の額が加算される可能性はない。


障害基礎年金には,子の加算があります。

2023年3月15日水曜日

国民年金の第三号被保険者

国民年金の第三号被保険者は,第二号被保険者(厚生年金の加入者)の被扶養配偶者(20~60歳)です。


この知識だけで今日の問題です。


第28回・問題52 次のうち,国民年金の第三号被保険者になる者として,正しいものを1つ選びなさい。

1 厚生年金の適用事業所で,正社員として1日8時間,週40時間働いている夫(63歳)の被扶養配偶者である妻(61歳)

2 国民年金の第一号被保険者である夫(40歳)の被扶養配偶者である妻(37歳)

3 厚生年金の適用事業所で,正社員として1日8時間,週40時間働いている妻(25歳)の被扶養配偶者である大学生である夫(22歳)

4 国民年金の第一号被保険者である夫(40歳)の妻で,正規雇用の公務員として働いている者(35歳)

5 学生納付特例制度の適用を受けている妻(22歳)の夫で学生である者(22歳)


第三号被保険者探していく第1チェックポイントは,厚生年金加入者の被扶養配偶者であるかどうか,第2のチェックポイントは,年齢です。


それでは解説です。


1 厚生年金の適用事業所で,正社員として1日8時間,週40時間働いている夫(63歳)の被扶養配偶者である妻(61歳)


夫は,厚生年金加入者(第二号被保険者)ですが,妻は61歳です。


国民年金の被保険者ではありません。


2 国民年金の第一号被保険者である夫(40歳)の被扶養配偶者である妻(37歳)


夫は,第一号被保険者なので,妻も第一号被保険者です。


3 厚生年金の適用事業所で,正社員として1日8時間,週40時間働いている妻(25歳)の被扶養配偶者である大学生である夫(22歳)


これが正解です。


妻は,第二号被保険者だと考えられるので,夫は,第三号被保険者だと考えられます。


4 国民年金の第一号被保険者である夫(40歳)の妻で,正規雇用の公務員として働いている者(35歳)


妻は,正規雇用の公務員なので,おそらく第二号被保険者です。


5 学生納付特例制度の適用を受けている妻(22歳)の夫で学生である者(22歳)


学生納付特例制度の適用を受けている場合は,第一号被保険者として加入します。


妻も夫も第一号被保険者です。


複雑そうですが,ポイントさえわかれば,とても簡単な問題です。

2023年3月14日火曜日

国民年金の保険料免除

国民年金財政の2分の1は,国庫負担によって賄われています。


保険料が免除されている期間は,国庫負担分が将来受け取る年金額に反映されます。


現在の国庫負担は2分の1なので,20~60歳まで全額が法定免除だった場合は,老齢基礎年金の満額の年間給付額は約80万円なので,約40万円が給付されることになります。


以前の国庫負担は3分の1だったので,給付額も3分の1になります。一般の人にはそれほど関係ありませんが,保険料が免除されている人にとっては,大きな影響があるでしょう。


免除されていると国庫負担分が給付額に反映されるのに対し,未納の場合は,追納しないと給付額に反映されません。


所得が下がったなどの理由で,保険料を支払えなくなった場合は,申請して免除してもらうことが必要です。


生活保護受給者,障害基礎年金受給者は,申請せずとも免除される「法定免除」です。


学生納付特例制度は,保険料納付が免除されているのではなく,猶予されているだけなので,卒業したら追納することが必要です。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題53 国民年金制度の保険料に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 60歳以下の者が生活保護を受給している場合,生活扶助費に国民年金保険料分が加算される。

2 20歳以上の学生は,学生を扶養する親の前年の所得が一定額以下である場合,学生納付特例制度を利用することができる。

3 基礎年金の給付に要する費用に対する第三号被保険者の負担は,第一号被保険者全体の保険料負担から拠出されている。

4 障害基礎年金を受給している場合,国民年金保険料の納付は免除される。

5 納付猶予制度により,保険料納付の猶予を受けた者が保険料を追納しなかった場合,当該期間の国庫負担分のみが老齢基礎年金の支給額に反映される。


知識がないと正解することはできない問題です。


合否が分かれるのは,こういった問題で得点を積み重ねることができるか否かです。


それでは,解説です。


1 60歳以下の者が生活保護を受給している場合,生活扶助費に国民年金保険料分が加算される。


生活保護受給者の保険料は,法定免除です。

生活扶助費に加算されるのは,介護保険の第1号被保険者の保険料です。


生活扶助の介護保険料加算として給付されます。介護扶助ではないことが注意ポイントです。


2 20歳以上の学生は,学生を扶養する親の前年の所得が一定額以下である場合,学生納付特例制度を利用することができる。


学生納付特例制度は,親の所得に関係なく利用できます。

関係するのは,学生本人の所得です。


3 基礎年金の給付に要する費用に対する第三号被保険者の負担は,第一号被保険者全体の保険料負担から拠出されている。


第三号被保険者は,厚生年金加入者の被扶養配偶者です。

保険料は,第2号被保険者全体の保険料負担から拠出されています。


4 障害基礎年金を受給している場合,国民年金保険料の納付は免除される。


これが正解です。


障害基礎年金受給者の保険料は,法定免除です。


5 納付猶予制度により,保険料納付の猶予を受けた者が保険料を追納しなかった場合,当該期間の国庫負担分のみが老齢基礎年金の支給額に反映される。


国庫負担分のみが老齢基礎年金の支給額に反映されるのは,免除の場合です。

猶予は,猶予されているだけなので,追納しないと反映されません。


2023年3月13日月曜日

年金保険制度の被保険者

 社会保険制度を覚えるときのポイントはいくつかありますが,その一つが被保険者の規定です。


それでは,今日の問題です。


第34回・問題55 公的年金の被保険者に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 厚生年金保険の被保険者は,老齢厚生年金の受給を開始したとき,その被保険者資格を喪失する。

2 20歳未満の者は,厚生年金保険の被保険者となることができない。

3 被用者は,国民年金の第一号被保険者となることができない。

4 厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者であっても,学生である間は,国民年金の第三号被保険者となることができない。

5 国民年金の第三号被保険者は,日本国内に住所を有する者や,日本国内に生活の基礎があると認められる者であること等を要件とする。


年金保険制度の被保険者は複雑です。知識がないと5分の1程度の確率でしか正解することができません。


解説です。


1 厚生年金保険の被保険者は,老齢厚生年金の受給を開始したとき,その被保険者資格を喪失する。


厚生年金保険の被保険者は,70歳未満の者です。


老齢厚生年金の受給を開始しても,70歳になるまでは被保険者です。


2 20歳未満の者は,厚生年金保険の被保険者となることができない。


厚生年金保険の被保険者は,70歳未満の者です。


つまり,20歳未満であっても適用事業所に雇用されている者は,厚生年金保険の被保険者となります。


3 被用者は,国民年金の第一号被保険者となることができない。


国民年金の第一号被保険者は,第二号被保険者でも第三号被保険者でもない者です。


被用者であっても,厚生年金の適用を受ける要件に満たない者は,国民年金の第一号被保険者として加入します。


4 厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者であっても,学生である間は,国民年金の第三号被保険者となることができない。


国民年金の第三号被保険者は,厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者(20歳以上60歳未満)です。


学生であっても,厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者(20歳以上60歳未満)であれば,国民年金の第三号被保険者となります。


5 国民年金の第三号被保険者は,日本国内に住所を有する者や,日本国内に生活の基礎があると認められる者であること等を要件とする。


これが正解です。


〈国民年金の第三号被保険者の要件〉

日本国内に住所を有する者又は外国において留学をする学生その他の日本国内に住所を有しないが渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められる者として厚生労働省令で定める者。


日本国内に住所を有する者(住民票があること)を「国内居住要件」といいます。


〈日本国内に生活の基礎があると認められる者の例〉


・外国に留学する学生

・外国に赴任する被保険者に同行する者

・ワーキングホリデーや青年海外協力隊  など

2023年3月12日日曜日

年金保険制度と厚生年金制度の関係性

日本は国民皆年金制度を導入しています。


この皆年金制度は,戦前からあった厚生年金と戦後にできた国民年金を組み合わせて作り上げたものです。


そのため,制度が複雑になり,受験生を困らせます。


制度ができた順番は,厚生年金 → 国民年金 でしたね。


国民年金の被保険者は,第1号から第3号まであります。

第3号まである制度は,国民年金しかありません。


第2号被保険者は,厚生年金加入者

第3号被保険者は,厚生年金加入者の被扶養配偶者


第1号被保険者は,第2号被保険者と第3号被保険者以外の日本国内に住所のある(日本国内に生活の基礎があると認められる者等も含む)20歳以上60歳未満の者


このようにして,皆年金が構成されます。


ところが,厚生年金加入者は,国民年金に加入していないと思っている人がいます。


厚生年金は,2階建ての部分であることを忘れてしまっています。


1階がなくて,2階がある建物は存在しません。そうなると,2階建てではなく,平屋になってしまいます。


厚生年金に加入すると自動的に国民年金にも加入するため,国民年金に加入していることを意識しない人が多いように思います。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題55 公的年金制度に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 厚生年金保険の被保険者は,国民年金の被保険者になれない。

2 基礎年金に対する国庫負担は,老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金のいずれに対しても行われる。

3 厚生年金保険の保険料は,所得にかかわらず定額となっている。

4 保険料を免除されていた期間に対応する年金給付が行われることはない。

5 老齢基礎年金の受給者が,被用者として働いている場合は,老齢基礎年金の一部又は全部の額が支給停正される場合がある。


選択肢1が本日のテーマの部分です。


それでは解説です。


1 厚生年金保険の被保険者は,国民年金の被保険者になれない。


この出題は,以前はかなりの頻度でありましたが,本当に久しぶりです。


厚生年金保険の被保険者は,必ず国民年金の第2号被保険者になります。

そのように制度がつくられているからです。


厚生年金の加入者が,「国民年金には加入したくない」と思っても,それは絶対に無理です。


2 基礎年金に対する国庫負担は,老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金のいずれに対しても行われる。


この問題はなかなかの難問ですが,その理由には,この選択肢が正解だからです。


国民年金には,2分の1の国庫負担があります。ある程度勉強した人なら,必ず知っていることでしょう。


以前は,3分の1だったものが2分の1に引き上げられたことはとても重要な意味を持つからです。


しかし,「老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金のいずれに対しても行われる」と出題されると迷うでしょう。


とてもうまい出題です。極めてスタンダードなものを出題しながら,受験者を混乱させます。


もちろん,国庫負担は,老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金のいずれに対しても行われます。

もしいずれかに対して国庫負担がなかったとすれば,勉強の過程で必ず目にするはずです。


3 厚生年金保険の保険料は,所得にかかわらず定額となっている。


厚生年金保険の保険料は,所得によって変わります。これを報酬比例といいます。


4 保険料を免除されていた期間に対応する年金給付が行われることはない。


国民年金の老齢基礎年金の場合,未納の場合は,追納しないと将来受け取る年金額に反映されませんが,免除されている場合は,その期間の国庫負担分が反映されます。


障害基礎年金は,20歳前に初診日がある場合は,20歳になると給付されます。


障害基礎年金を受給していると保険料は法定免除となります。保険料負担がまったくなくても,障害基礎年金は満額支給されます。


1級の場合は,老齢基礎年金の満額の1.25倍,2級の場合は,老齢基礎年金の満額と同額です。


ただし,一定以上の所得がある場合には,給付されません。


厚生年金の場合,育児休業期間は,被保険者,事業主ともに保険料が免除されます。この期間は保険料の納付がなくても,保険料の納付があったものとみなされ,将来受け取る年金額に影響しません。


5 老齢基礎年金の受給者が,被用者として働いている場合は,老齢基礎年金の一部又は全部の額が支給停正される場合がある。


支給停正される場合があるのは,老齢基礎年金ではなく,老齢厚生年金です。


老齢基礎年金は,満額でも年80万円程度です。老齢基礎年金のみの人が高齢になって働く場合,年金が一部停止になるとかなり厳しい生活を強いられることになります。


老齢厚生年金の場合は,報酬比例となっているので,多く保険料を納付した人は,多く年金をもらえます。


一部停止になっても,それほど痛くない人も多いと思います。


〈今日の一言〉


日本の社会保険制度の中で,最も複雑なのが年金保険制度です。


覚えるのが面倒ですが,今日の問題でわかるように,基礎年金と厚生年金の関係性とその違いを明確に押さえることが必要です。


しっかり覚えることができれば,ソーシャルワークだけではなく,自分の生活にも役立つでしょう。


年金保険制度に限らず,社会保険制度は,特別なニーズを持つ人を対象とする社会福祉制度や生活保護制度と異なり,すべての人が対象になるものだからです。


勉強のし甲斐があることでしょう。

2023年3月11日土曜日

第35回国家試験を振り返るシリーズの最終回

平成19年度改正カリキュラムとなった第22回以降の国家試験は,第36回から令和元年度カリキュラムの国家試験に変わります。


その間,ずっと続けて出題されてきたものは,数少ないです。


問題数の多い相談援助系以外で,必ず出題されているのは,心理療法しかありません。


第35回・問題14 心理療法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ブリーフセラピーは,クライエントの過去に焦点を当てて解決を目指していく。

2 社会生活技能訓練(SST)は,クライエントが役割を演じることを通して,対人関係で必要な技能の習得を目指していく。

3 来談者中心療法は,クライエントに指示を与えながら傾聴を続けていく。

4 精神分析療法は,学習理論に基づいて不適応行動の改善を行っていく。

5 森田療法は,クライエントが抑圧している過去の変容を目指していく。


心理学が苦手な人は,勉強不足で受験するので,おそらくこういった超頻出のものも正解できないのではないかと思います。


実にもったいないことだと思いませんか?


社会福祉士には,本格的な心理療法を行うことは期待されていませんし,実際に行う機会もないかもしれません。


それにもかかわらず,心理療法が欠かさず出題されているのは,心理的支援に必要な知識だからです。


この問題の正解は,選択肢2のSSTです。


精神保健福祉士は,デイケアで実施します。


社会福祉士には,深い知識は求められないので,ピンポイントを押さえるだけで,正解できるようになります。


それでは,解説です。


1 ブリーフセラピーは,クライエントの過去に焦点を当てて解決を目指していく。


ブリーフセラピーは,解決した未来をイメージしてもらうようなアプローチを行います。


2 社会生活技能訓練(SST)は,クライエントが役割を演じることを通して,対人関係で必要な技能の習得を目指していく。


先に述べたようにこれが正解です。


SSTは,学習理論のモデリングを応用したものです。


自分が演じることも大切ですが,ほかの人が演じているものを観察して学習することで対人関係に必要なスキルを学んでいきます。


3 来談者中心療法は,クライエントに指示を与えながら傾聴を続けていく。


来談者中心療法では,クライエントに指示することはありません。


4 精神分析療法は,学習理論に基づいて不適応行動の改善を行っていく。


学習理論に基づいて不適応行動の改善を行っていくのは,行動療法です。


5 森田療法は,クライエントが抑圧している過去の変容を目指していく。


クライエントが抑圧している過去の変容を目指していくのは,精神分析療法です。


森田療法は,不安があることは自然のものとして,とらえられるようにかかわっていきます。


不安があることは自然のものとしてとらえることを森田療法では「あるがまま」と表現しています。


2023年3月10日金曜日

第37回国家試験で合格しよう!

社会福祉士の国家試験は,第37回から令和元年度の改正カリキュラムによるものとなります。


その前に受験資格を得た人は,何かの研修を受けないと受験資格がなくなる,といった誤った情報が一部にあるようですが,そんなことは一切ありません。


カリキュラムが変わっても,一度得た受験資格はずっとあります。


今回のカリキュラムの改正は,科目再編が中心です。とは言っても新しく加わった内容もあります。


そのようなものは,どのように出題されるかわからないこともあり,ピンポイントで覚えることが困難です。


手ごわいのは,知識を使って考えて答えなければならないタクソノミーⅡ型,Ⅲ型の問題です。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題15 次の記述のうち,ヴェーバー(Weber,M.)の合法的支配における法の位置づけとして,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 法は,被支配者を従わせ,超人的な支配者の権力を貫徹するための道具である。 

2 法は,伝統的に継承されてきた支配体制を正当化するための道具である。

3 法は,支配者の恣意的な判断により定められる。

4 法は,神意や事物の本性によって導き出される。

5 法は,万民が服さなければならないものであり,支配者も例外ではない。


合法的支配を知っていることを前提に答えを考える典型的なタクソノミーⅡ型です。


しかし,知識があれば,比較的正解しやすいタイプかもしれません。


つまり,知識があれば正解できやすく,知識がなければ,5分の1の確率でしか正解することができないのが,タクソノミーⅡ型であると言えるでしょう。


この問題の正解は,選択肢5です。


5 法は,万民が服さなければならないものであり,支配者も例外ではない。


合法的支配は,合理的ルールによる支配です。現代の民主国家は合法的支配によるもので成立します。


合理的ルールは,国の場合,法律ということになりますが,支配者も合理的ルールに従います。


それでは,これ以外も解説します。


1 法は,被支配者を従わせ,超人的な支配者の権力を貫徹するための道具である。 


これは,カリスマ的支配による法です。


超人的というところから,推測することが可能です。


2 法は,伝統的に継承されてきた支配体制を正当化するための道具である。


これは,伝統的支配による法です。


伝統的というところから,推測することが可能です。


3 法は,支配者の恣意的な判断により定められる。


恣意的とは,勝手気ままという意味です。


合法的支配以外による法だと言えます。


つまり,伝統的支配,カリスマ的支配による法です。


4 法は,神意や事物の本性によって導き出される。


これは,伝統的支配による法です。


伝統的支配には,神など神聖なものを背景とした支配も含まれるからです。


〈今日の一言〉


タクソノミーⅡ型は,受験生を苦しめます。


しかし,知識があれば,手がかりを見つけ出すことができます。


新しいカリキュラムになると手がかりを見つけにくくなる可能性があります。


そのために,現在の延長線上にある第36回国家試験で合格しておきたいです。

2023年3月9日木曜日

第35回国家試験の特徴

第35回国家試験というか,第34回国家試験からの出題トレンドかもしれませんが,特徴的なものとして気づくのは,法の目的が出題していることです。


学校の先生は,法の目的を押さえておくように言います。


それがようやく実るように傾向になってきたと言えるのかもしれませんが,覚えていなくても答えに困ることはないように思います。


多くの場合は,法の目的の中にその法の特徴を示す文言が含まれるためです。


第35回・問題28 生活困窮者自立支援法の目的規定に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

2 すべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,最低限度の生活を営めるよう必要な保護を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

3 尊厳を保持し,能力に応じ自立した日常生活を営めるよう,必要な保健医療及び福祉サービスに係る給付を行い,生活困窮者の自立の促進を図ること。

4 能力に応じた教育を受ける機会を保障する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

5 社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう施策を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。


この問題は,うまく作っていると言えます。


最後を「生活困窮者の自立の促進を図ること」で統一しているために,受験生の混乱を引き起こします。


以下のようにしてみるとどうでしょうか。


1 生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること

2 すべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,最低限度の生活を営めるよう必要な保護を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること。

3 尊厳を保持し,能力に応じ自立した日常生活を営めるよう,必要な保健医療及び福祉サービスに係る給付を行い,生活困窮者の自立の促進を図ること

4 能力に応じた教育を受ける機会を保障する措置を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること

5 社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるよう施策を講ずることにより,生活困窮者の自立の促進を図ること


共通部分は,正解以外は嘘なので,このように線を引いてみると明らかとなります。

あらあら不思議,丸裸です。


選択肢3・4・5を選ぶ人はまずいないと思います。


選択肢3は,介護保険法

選択肢4は,教育基本法

選択肢5は,障害者基本法


選択肢1と2は,いずれも「困窮」という言葉が含まれているので,迷ってしまいますが,冷静に考えると,選択肢1は,「生活困窮者に対する自立の支援」と明確に目的が書かれているので,これが正解だとわかります。


選択肢2は「最低限度の生活を営めるよう必要な保護を講ずる」という方法が書かれているので,生活保護法だと判断できます。


国家試験会場では,この冷静な判断ができなくなってしまうのがとても怖いです。


法の目的で困るのは,かつての規定を出題された場合です。


第35回・問題61 身体障害者福祉法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 

1 身体障害者福祉法の目的は,「身体障害者の更生を援助し,その更生のために必要な保護を行い,もって身体障害者の福祉の増進を図ること」と規定されている。

2 身体障害者の定義は,身体障害者手帳の交付を受けたかどうかにかかわらず,別表に掲げる身体上の障害がある18歳以上の者をいうと規定されている。

3 身体障害者手帳に記載される身体障害の級別は,障害等級1級から3級までである。

4 都道府県は,身体障害者更生相談所を設置しなければならない。

5 市町村は,その設置する福祉事務所に,身体障害者福祉司を置かなければならない。


正解は,選択肢4というとてもシンプルなものなので,難易度は低いですが,判断しにくいのが,選択肢1です。


1 身体障害者福祉法の目的は,「身体障害者の更生を援助し,その更生のために必要な保護を行い,もって身体障害者の福祉の増進を図ること」と規定されている。


これは,身体障害者福祉法の目的で正しいですが,現在のものではなく,1949年・昭和24年に法が創設された当時のものとなっています。


現在のものは以下の通りです。


この法律は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)と相まつて、身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため、身体障害者を援助し、及び必要に応じて保護し、もつて身体障害者の福祉の増進を図ることを目的とする。


更生という文字が消えています。


ここで使われている更生とは,職業リハビリテーションを意味しています。


これに関しては,第22回国家試験で,以下のように出題されています。


第22回・問題129・選択肢1

身体障害者福祉法は,制定時には身体障害者の更生を目的とし,更生とは英語のリハビリテーションの訳で,医学的な回復を意味していた。


身体障害者の更生を目的としていたのは正しいですが,医学的な回復ではなく,職業リハビリテーションを意味しています。


過去にこのように出題されているので,これをヒントに作ったのが,第35回の国家試験だと言えます。


これまでも過去の問題をアレンジして出題されることがありましたが,第35回ではそれがあからさまにわかる問題が散見しています。


このような出題が見られていることで,今後もそうなるのかはわかりませんが,これもトレンドだと言えるでしょう。

ただし,多くの人は,古い問題を目にすることはまずないと思いますし,古いものは制度が変わっているので,一般の人が古本屋などで入手して勉強するのは怖いです。

過去問を参考にして,作られるのが参考書です。

丁寧に作られた参考書なら,身体障害者福祉法のかつての定義も書かれているはずです。

つまり,国試勉強の基本は,参考書に書かれているものを覚えるということになります。

2023年3月8日水曜日

第35回国家試験と今後の行方

第35回国家試験は,合格率44.2%,合格基準点90点という結果となりました。


まさしく歴史が動いた瞬間です。


後世の人が社会福祉士の国家試験の歴史を振り返った時,ここが転換点になったことを知るのではないでしょうか。


合格率がどうなろうが,合格基準点がどうなろうが,覚えるべきものを確実に覚えれば合格できるので,それらを今までは特段気にしたことはありません。


しかし,よくわかることは,文章で構成する問題は,難易度をそろえることが難しいことです。


問題が易しくても難しくても合格基準点を6割程度に固定的に運用されるなら,問題が易しければ合格が楽になりますし,問題が難しい時は合格が難しくなります。


タクソノミーⅡ型,タクソノミーⅢ型は,知識がそのまま答えにならないので,問題の作り方によって,難易度は大きく変化します。


第35回では,不適切問題が1問あり,すべての受験者に1点が加点されました。


第35回・問題76 次の記述のうち,医療チーム内で専門分野を超えて横断的に役割を共有するトランスディシプリナリモデルの事例として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 Fさんの病状が急変したため,医師は,看護師へ静脈注射機材の準備,薬剤師へ薬剤の準備,医療ソーシャルワーカーへ家族への連絡の指示を出した。

2 災害発生による傷病者の受入れのため,G病院長は,全職員の招集,医師へのトリアージ,看護師へ手術室の準備,医事課職員へ情報収集などの指示を出した。

3 Hさんの食事摂取の自立の希望を達成するため,理学療法士は座位保持,作業療法士は用具の選定,管理栄養士は食事形態,看護師は食事介助の工夫を行った。

4 一人暮らしで在宅療養中のJさんの服薬管理について,往診医,訪問看護師,薬剤師,訪問介護員,介護支援専門員等の自宅への訪問者それぞれが,Jさんとの間で確認することにした。

5 自立歩行を希望するKさんの目標をゴールに,理学療法士,作業療法士,看護師,介護福祉士とでケースカンファレンスを行い,立位保持訓練の方法を検討した。


これがタクソノミーⅡ型に当たる問題です。


難しくなりすぎないように,設問には「積断的に役割を共有する」という但し書きを加えた工夫がみられます。


この問題を作った試験委員は,選択肢5を正解にしたつもりだったと思いますが,選択肢4も完全に間違いだとは言えないことが不適切問題になった理由でしょう。


これを踏まえて,今後はタクソノミーⅡ型,Ⅲ型はより慎重につくられていくことになるでしょう。


今後の行方


先に述べたように,文章で構成する問題は,難易度を安定させることが難しいと考えられます。


しかも知識がそのまま答えにならないタクソノミーⅡ型,タクソノミーⅢ型の問題は,丸暗記的な勉強では,正解することができません。


第35回国家試験は,第34回国家試験の厳しさを知っているからこそ,歯を食いしばって勉強した人が多かったと思います。


第35回国家試験が易しかったから合格できたと思うのは,大間違いです。

合格するのが以前よりも易しくなったと思って,気を緩めると足元をすくわれます。


第35回に合格した人は,もしかするとそれ以前に合格した人から揶揄されることもあるかもしれません。


しかし,決してそんなことはありません。確実な知識がなければ合格できない問題に生まれ変わった国家試験で見事合格できたのは,努力があってこそのことです。


今後,受験する人は,合格が易しくなったと思うのは,大間違いです。

どんな試験になろうと,努力不足の人が合格するのは困難です。


正しい努力を続ける人は報われます。正しい国家試験の姿です。

2023年3月7日火曜日

第35回国家試験の合格発表を終えて

厚生労働省のホームページ「第35回社会福祉士国家試験合格発表」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31495.html


今回の国家試験に合格された方は,おめでとうございます。

高い得点だった方は,肩透かしを食ったような感じがしているかもしれません。

しかし,努力しないと合格できない試験であることには変わりありません。

不合格になった方は,もう少し頑張って勉強すれば良かったと嘆いているのではないでしょうか。

それは今回に限らず毎回のことです。

ものすごい点数を取る人や勉強不足の人は別ですが,多くの人は,合格・不合格は紙一重です。

ミスが少なければ合格し,ミスが多ければ不合格になります。

ただ,今回は,シビアな問題が少なかったこともあり,しっかり勉強して国家試験に臨んだ方は,多少のミスがあっても,その他の問題でカバーできたのではないかと思います。

第36回国家試験に向けたスタートですが,明日から数回にわたって,気になる問題をピックアップしていきたいと思います。

合格をつかめなかった方は,辛い気持ちが落ち着いたら,合格に向けて頑張っていきましょう。

2023年3月6日月曜日

社会保障給付費の機能別内訳

ILO基準の社会保障給付費の機能別内訳は,


1 高齢

2 保健医療

3 家族

4 障害

5 労働災害

6 失業

7 住宅

8 生活保護その他


に分類されて,まとめられています。この順番は多い順になっています。


令和2年度・2020年度では,高齢が約半分を占め,3割の保健医療と合わせて,この2つで8割を超えます。


注意すべきポイントは,「家族」です。


家族は,10年くらい前から比べるとかなり増えてきています。


以前は,わずか数パーセントにすぎませんでしたが,近年の少子化対策により,給付が伸びています。


それでも10%にも到達していません。

今後は,10%を超えると考えられると思いますが,家族がどの程度なのかは,必ず押さえておきたいです。


それでは,今日の問題です。


第29回・問題50 「平成28年度社会保障費用統計」(国立社会保障・人口問題研究所)の内容に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会保障給付費の対国内総生産比は20%を超えている。

2 政策分野別社会支出の構成割合が最も高いのは,「家族」に対する支出である。

3 政策分野別社会支出のうち,「住宅」支出の構成割合は10%を超えている。

4 部門別社会保障給付費の対国内総生産比をみると,「医療」が最も高い。

5 社会保障財源をみると,公費負担の割合が最も高い。


この時に,OECD基準の社会支出が初めて出題されました。


政策分野別社会支出は,


保健

高齢

家族

遺族

障害・業務災害・傷病

失業

積極的労働市場政策

住宅

他の政策分野


に分類されて,まとめられています。この順番は多い順になっています。


社会保障給付費の1位と2位が入れ替わっていますが,社会保障給付費と異なり,1位と2位の差はわずか数パーセントしかありません。


そのため,政策分野別社会支出の最も多いものが問われることはないと言えます。


そのため「高齢と保健を合わせると8割を超える」というところが重要です。


社会保障給付費と社会支出の内容は,基本的にほぼ一緒なので,それぞれを詳細に覚える必要はありません。


変な覚え方をするとあいまいになるので,注意が必要です。


それでは,解説です。


1 社会保障給付費の対国内総生産比は20%を超えている。


これが正解です。


対国内総生産比は,とても覚えにくいものです。

対国民所得比も出題されるので,特に覚えにくいです。


対国内総生産比は,約20%


対国民所得比は,約30%


国民所得に比べて,国内総生産のほうが規模が大きいので,比率にすると,上記のようになります。


2 政策分野別社会支出の構成割合が最も高いのは,「家族」に対する支出である。


政策分野別社会支出は,保健と高齢が1位と2位となります。家族は多くなっていますが,10%まではありません。


これは,社会保障給付費と同じです。


3 政策分野別社会支出のうち,「住宅」支出の構成割合は10%を超えている。


保健と高齢を合わせると8割を超えるので,それ以外は10%を超えるものはないと推測できます。


住宅は,1%にも満ちません。


4 部門別社会保障給付費の対国内総生産比をみると,「医療」が最も高い。


ようやくここで,社会保障給付費が出題されました。

しかし,少しひねりが入っています。


部門別社会保障給付費は,年金,医療,福祉その他(5:3:2)の順になっていることは何度も出題されていますが,ここでは対国内総生産比を聞いています。


しかし,年金,医療,福祉その他のうち,年金が最も大きいことが分かっていれば,同じ分母で割っても,割合は年金が最も大きくなります。


5 社会保障財源をみると,公費負担の割合が最も高い。


社会保障財源は,社会保険料:公費=6:4 となっています。


これは,これまでに何度出題されてきたか分からないほど,繰り返し繰り返し出題されています。


〈今日のまとめとして〉


国家試験は,もちろん新しいものを加えて出題されますが,基本的には過去に出題されたものを押さえていくと合格基準点に到達できます。


つまり,参考書に書かれているものを確実に覚えていけば,必ず合格できるということです。


不合格になるのは,覚え方が甘いということに尽きます。覚え方には工夫が必要です。

2023年3月5日日曜日

社会保障費用統計に関する出題

社会保障費用統計には,ILO基準による社会保障給付費とOECD基準による社会支出の2つの統計がまとめられています。

 

社会保障給付費は,その名称のとおり,個別に給付されているものを積み上げているのに対し,社会支出はそのほかに住宅政策などが上乗せされるなど,項目が若干異なります。

 

しかし,基本はほとんど変わらないので,どちらが出題されても,驚くことはありません。

 

社会保障費用統計に関連する出題を第22回~第35回までの実績は以下のとおりです。

 

出題

22

23

24

 

25

26

27

28

29

30

31

 

32

33

 

34

35

 

 

出題されなかったのは,わずか4回のみです。

 

年を追うごとに増大していますが,天文学的な数字だということもあり,比率はそれぞれの比率にはほとんど変化がありません。

 

近年の施策は,全世代対応型を目指しているので,家族に対する給付の割合は,年々増えていますが,それでも全体に占める割合は,令和元年度でも10%には至りません。

 

それでは,今日の問題です。

 

34回・問題50 「平成30年度社会保障費用統計」(国立社会保障・人口問題研究所)による2018年度(平成30年度)の社会保障給付費等に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会保障給付費の対国内総生産比は,40%を超過している。

2 国民一人当たりの社会保障給付費は,150万円を超過している。

3 部門別(「医療」,「年金」,「福祉その他」)の社会保障給付費の構成割合をみると,「年金」が70%を超過している。

4 機能別(「高齢」,「保健医療」,「家族」,「失業」など)の社会保障給付費の構成割合をみると,「高齢」の方が「家族」よりも高い。

5 社会保障財源をみると,公費負担の内訳は国より地方自治体の方が多い。

 

知識がなくても正解できる可能性が高い問題となっています。

 

こんなところが,合格基準点が105点となった理由の一つでしょう。

 

それでは,解説です。

 

1 社会保障給付費の対国内総生産比は,40%を超過している。

 

社会保障給付費の対国内総生産比は,約20%です。

 

これでも十分に高いですが,40%もありません。

 

2 国民一人当たりの社会保障給付費は,150万円を超過している。

 

国民一人当たりの社会保障給付費は,約90万円です。

 

3 部門別(「医療」,「年金」,「福祉その他」)の社会保障給付費の構成割合をみると,「年金」が70%を超過している。

 

部門別(「医療」,「年金」,「福祉その他」)の社会保障給付費のうち,最も割合が大きいのは年金であることは正しいですが,約50%です。

 

4 機能別(「高齢」,「保健医療」,「家族」,「失業」など)の社会保障給付費の構成割合をみると,「高齢」の方が「家族」よりも高い。

 

これが正解です。

 

高齢は,約50

家庭は,以前より多くなってきていますが,それでも現在のところ(2023年3月時点),10%は超えていません。ただし家族が子育て支援の政策によって10%を超える日はそれほど遠くはないでしょう。

しかし,家族を高齢が超えることは考えられません。

 

5 社会保障財源をみると,公費負担の内訳は国より地方自治体の方が多い。

 

公費負担は,都道府県よりも国のほうが多くなっています。



〈最後に一言〉


ここに示した傾向は,今後もずっと続きます。

社会保障給付費は増大し,それぞれの内訳も政策により変化しますが,それは天文学的な数字なので,毎年の傾向としては,微々たる変化に過ぎないためです。

ただし,覚える数値は具体的であればあるほど,すぐに陳腐化してしまいます。コツはできるざっくり覚えることです。

例えば,


部門別社会保障給付費の構成割合

年金:医療:福祉その他=5:3:2


といった感じです。

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