今回のテーマは,「障害者総合支援法における国・都道府県・市町村の役割」です。
この前に気を付けておきたいのは,障害者分野の法制度には,障害者基本法が存在していることです。
近年では,こどもの分野でも「こども基本法」が作られていますが,「●●基本法」は,省庁の枠を超えて,総合的な施策を推進するためのものです。
すべての「●●基本法」がそうなっているかは分かりませんが,社会福祉士の国家試験で出題されているものは,内閣府が所管しています。
「●●基本法」を受けて,それぞれの省庁で具体的な法制度を形成していきます。
障害者分野では,以下のような構成です。
内閣府 |
障害者基本法 |
各省庁 |
障害者総合支援法(厚生労働省) 障害者雇用促進法(厚生労働省) バリアフリー法(厚生労働省・国土厚生省) など |
もう一つ気を付けたいのは,計画です。
障害者分野の主な計画には,障害者基本法の障害者計画,障害者総合支援法の障害福祉計画があります。
中央省庁が定めるのは,障害者基本法の障害者基本計画は「政府」,障害者総合支援法の基本指針は「厚生労働大臣」です。
障害者総合支援法の実施主体は,市町村です。
と言っても都道府県の役割がないわけではありません。
余談ですが,福祉サービスの提供の責任を市町村が担うのは,スウェーデンとそっくりです。
福祉サービスは,基礎的地方公共団体であるコミューンが担います。
スウェーデンでは,医療サービスの提供は,広域的地方公共団体であるレギオン(ランスティングから組織変更したもの)が担います。
日本でも医療は,市町村ではなく,都道府県の範疇です。これもスウェーデンそっくりです。
日本に話を戻します。
障害者総合支援法の実施主体は市町村ですが,都道府県が担うものもあります。
〈障害者総合支援法で都道府県が担う事務〉
・障害福祉サービス事業者の指定
・指定一般相談支援事業者の指定
・都道府県の障害福祉計画の策定
・地域生活支援事業のうち,都道府県が行うもの
・自立支援医療のうち,精神通院医療の支給決定
これら以外は,基本的に市町村の役割です。
それでは,今日の問題です。
第26回・問題58 「障害者総合支援法」における行政の役割に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 都道府県知事は,障害福祉サービス事業者の指定を行う。
2 地域生活支援事業の実施については,市町村は必ず行わなければならないが,都道府県はその判断に任されている。
3 厚生労働大臣は,障害福祉サービス等の提供体制を整備するために障害者基本計画を定める。
4 都道府県知事は,障害福祉サービス受給者証を交付する。
5 都道府県は,基幹相談支援センターを設置しなければならない。
この問題は,極めてスタンダードな問題です。
国・都道府県・市町村の役割の違いが明確にわかるからです。良い問題だと思います。
それでは,解説です。
1 都道府県知事は,障害福祉サービス事業者の指定を行う。
これが正解です。
障害福祉サービス事業者の指定を行うのは,都道府県知事です。
都道府県の役割の一つには,事業者を指定する基盤整備があります。
ところが介護保険には,市町村がかかわる地域密着型サービスが存在します。
障害者総合支援法にも例外事項が存在します。
事業者指定は基本的に都道府県の役割ですが,指定特定相談支援事業者の指定は市町村の役割となっています。
2 地域生活支援事業の実施については,市町村は必ず行わなければならないが,都道府県はその判断に任されている。
介護保険法の地域支援事業には,都道府県が行うものは存在しませんが,障害者総合支援法の地域生活支援事業には,市町村,都道府県,それぞれに必須事業が存在します。
障害者総合支援法の地域生活支援事業に都道府県の役割が存在している理由は,市町村が実施するには向かない専門的なサービスを実施する必要があるからです。
3 厚生労働大臣は,障害福祉サービス等の提供体制を整備するために障害者基本計画を定める。
厚生労働大臣は,障害福祉サービス等の提供体制を整備するために定めるのは,「基本指針」です。
障害者基本計画は,障害者基本法に定められ,政府が多岐にわたる障害者施策の基本方針を定めます。
4 都道府県知事は,障害福祉サービス受給者証を交付する。
障害福祉サービス受給者証を交付するのは,市町村長です。
都道府県知事が交付するものには,身体障害者福祉法の身体障害者手帳,根拠法が存在しない療育手帳,精神保健福祉法の精神障害者保健福祉手帳です。
5 都道府県は,基幹相談支援センターを設置しなければならない。
基幹相談支援センターは,市町村が任意で設置します。
この仕組みは,介護保険法の地域包括支援センターと同じです。