日本の公的年金制度は,戦時中に被用者を対象とする厚生年金制度が誕生し,戦後に自営業者などを対象とする国民年金制度が誕生して,国民皆年金制度を形成しています。
それぞれに老齢年金,障害年金,遺族年金があり,制度がとても複雑です。
しかも,国民年金の被保険者は,第一号,第二号,第三号まであります。
第二号被保険者は,厚生年金の被保険者,第三号被保険者は,第二号被保険者の被扶養配偶者,第一号被保険者は,第二号,第三号被保険者ではないものです。
それでは,今日の問題です。
第32回・問題55
事例を読んで,適切なものを2つ選びなさい。
〔事 例〕
Fさん(65歳女性)は,22歳からアパレル関係の大企業で正社員として働き,厚生年金にも加入していた。その後会社員の夫と結婚し,35歳の時に退職して専業主婦になった。48歳の時に個人事業主として手芸店を開き,現在ではかなりの事業収入を得ている。
1 Fさんが大企業で働いて厚生年金に加入していた時には,給与の額にかかわらず毎月定額の保険料を支払っていた。
2 Fさんは通算して10年以上年金制度に加入しているので,老齢基礎年金を受給できる。
3 Fさんが専業主婦であった期間は,Fさん自身が国民年金の保険料を納付する必要はない。
4 Fさんは,事業収入に応じた年金保険料を支払わなければならない。
5 Fさんは65歳なので老齢厚生年金を受給できるが,事業収入が基準を超える場合は年金額が減額される。
社会保障の事例問題の場合,年齢に着目する必要があります。
この場合は,Fさんは,65歳であることを押さえておきます。
それでは,解説です。
1 Fさんが大企業で働いて厚生年金に加入していた時には,給与の額にかかわらず毎月定額の保険料を支払っていた。
年金保険の保険料は,国民年金と厚生年金では異なります。
国民年金 定額制
厚生年金 報酬比例制(報酬によって保険料率が変わる)
2 Fさんは通算して10年以上年金制度に加入しているので,老齢基礎年金を受給できる。
これが1つめの正解です。
老齢基礎年金は,10年以上加入していることで受給権が生じます。
3 Fさんが専業主婦であった期間は,Fさん自身が国民年金の保険料を納付する必要はない。
これが2つめの正解です。
Fさんの夫は,会社員だったということ,Fさんが専業主婦になれるほどの給与を得ていたということから,Fさんの夫は,厚生年金の被保険者だったと考えられます。
そうすると,Fさんは国民年金の第三号被保険者だったと考えられます。
国民年金の第三号被保険者は,保険料を納付しません。
4 Fさんは,事業収入に応じた年金保険料を支払わなければならない。
収入に応じて,保険料が変わるのは,厚生年金です。
被用者であれば,70歳までは厚生年金に加入します。
しかし,Fさんは,厚生年金の加入者ではありません。
また,国民年金は,20歳から60歳未満の者が加入しますが,60歳以上64歳未満の者は,任意加入することができます。
しかし,Fさんは,65歳なので,国民年金の被保険者でもありません。
65歳の自営業者は,公的年金制度の保険料を払うことはありません。
5 Fさんは65歳なので老齢厚生年金を受給できるが,事業収入が基準を超える場合は年金額が減額される。
厚生年金には,厚生年金加入者の事業収入が基準を超える場合は年金額が減額,あるいは支給停止になる「在職老齢年金」という制度があります。
しかし,Fさんは,厚生年金の被保険者ではありません。
〈今日の注意ポイント〉
国民年金が出題される場合は,第三号被保険者に関連する知識が問われることがよくあります。
第三号被保険者は,第二号被保険者の被扶養配偶者です。保険料の支払いはありません。
近年の改正によって,第三号被保険者の要件に「日本国内に住所を有する者」が加わったことを合わせて覚えておきたいです。