役割距離とは・・・
人は他人の役割期待に対して,それに一致するように役割を演じています。
しかし,いつも役割を演じているわけではありません。それでは疲れてしまいますし,自分が目立つ存在になることもできません。
そこで,
人は役割期待に対して,ちょっと距離を置いた行動をとります。
役割距離は,役割を演じているときの緊張感や葛藤を緩和することで心に余裕を持たせる,ちょっと悪ぶって見せることで,人とは違うのだということを感じさせる,人が緊張している中でふざけてみせることで,自分は余裕があるのだということを印象づける,自分が緊張する場面で冗談を言うことで,自分の有能感を印象づける,などさまざまな場面で,さまざまな意味をもって演じられます。
役割距離は,役割期待に対して,ちょっとだけ距離をおくことが大切です。
ちょっと悪ぶる。
ちょっとふざける。などです。
役割期待から距離を取りすぎると,役割期待を演じられていないので,人から「逸脱者」としてのレッテルを貼られることになり,自分にとって好ましいイメージを他人に呈示するという当初の目的から離れてしまいます。
ゴフマンは,役割距離について「子どもが木馬に乗る」という例を挙げて説明しています。
子どもはかわいくおとなしく(つまり子どもらしい様子で)木馬に乗ることを期待されています。
それでは,今日の問題です。
第33回・問題
次のうち,ゴッフマン(Goffman,E.)が提示した,他者の期待や社会の規範から少しずらしたことを行うことを通じて,自己の存在を他者に表現する概念として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 役割取得
2 役割距離
3 役割葛藤
4 役割期待
5 役割分化
「役割〇〇」はたくさんありますが,出題頻度が高いので,確実に覚えたいです。
それでは,解説です。
1 役割取得
役割取得は,社会における自分の役割を理解していく過程です。
2 役割距離
これが正解です。
役割取得や役割葛藤,そして役割距離は,言葉から意味を推測するのが難しいので,確実に意味を押さえておくことが必要です。
3 役割葛藤
役割葛藤は,他者による複数の役割期待の中で,葛藤する板挟み状態です。
父親は部活に打ち込むこと,母親は学業に打ち込むことをそれぞれ期待し,子どもはそれらの役割期待の間で悩みます。
また,母親自身は,仕事で疲れ切ってしまい,家族に食事を作る気力が出ない,徹夜で家族の看病をして,職場で居眠りをしてしまう,といったことともあるでしょう。
これらは,役割葛藤の中でも特に,ワーク・ファミリー・コンフリクトといいます。
コンフリクトは葛藤の意味です。
4 役割期待
役割期待は,地位に対する他者からの期待です。
役割期待の中には,慣習や規範によるものもあります。
そのため,役割期待を察知するためには,文化を共有していることも必要です。
外国人が日本に来て,トラブルになることがあるのは,文化を共有していないことも理由にあるでしょう。
5 役割分化
役割分化は,役割が分かれていくことです。
役割の分業とも言えるかもしれません。
例えば,家族という社会システムでは,昔は,教育なども行いました。
しかし,高度なシステムが作られていくと,教育は,幼稚園,学校などの教師が担います。
親は子に対して,愛情を注ぐ役割だけは残ります。
それさえもなされない親をもつ子には,社会的養護を検討します。