第37回の国家試験から新カリキュラムの国家試験となります。
中央法規の過去問題集で勉強している人も多いことでしょう。
この問題集は,試験の年度ごとにまとめたものなので,新カリの科目になっていません。
何となく新カリの科目を推測できる科目もあります。
新カリの出題基準からなくなったものは,介護技術です。
旧カリでは,「高齢者に対する支援と介護保険制度」という科目に介護技術が出題されています。
具体的に言えば,
第36回
問題129
第35回
問題128
問題130
第34回
問題128
旧カリの国家試験は,この科目は10問出題されていました。
ほかの科目に比べてなぜ多いのかと思う人もいると思います。
社会福祉士及び介護福祉士法が制定された背景には,やがて到来する高齢社会で,増大する介護需要に対応するために,老人,身体障害者等に関する福祉に対する相談や介護を依頼することができる専門的能力を有する人材が求められことがあります。
そのために社会福祉士のカリキュラムに「介護概論」を入れました。
平成19年度カリキュラムでは,新科目を入れるために,介護概論を消滅させて,その内容は,高齢者に対する支援と介護保険制度に含めました。
2科目を1つにまとめたために,ほかの科目よりも出題数を多く設定しました。
今回のカリキュラムによって,とうとう介護に関するものがなくなりました。
ということで,先に述べた問題に関連するような内容は,今後の国家試験には出題されないので,勉強しなくて良いです。
それでは,今日の問題です。
第33回・問題13
心理検査に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 特別支援学級への入級を検討したい子どもの知能検査を学校から依頼されたので,ロールシャッハテストを実施した。
2 改訂長谷川式簡易知能評価スケールの結果がカットオフポイントを下回ったので,発達障害の可能性を考えた。
3 10歳の子どもに知能検査を実施することになり,本人が了解したので,WAIS-Ⅳを実施した。
4 投影法による性格検査を実施することになったので,矢田部ギルフォード(YG)性格検査を実施した。
5 WISC-Ⅳの結果,四つの指標得点間のばらつきが大きかったので,全検査IQ(FSIQ)の数値だけで全知的能力を代表するとは解釈しなかった。
この問題を見た時,公認心理師にずいぶん寄せたものだと感じました。
カットオフポイント(カットオフ値)やウェクスラー式知能検査の検査内容が出題されたからです。
カットオフポイントは,心理検査で調べたいものを判断する基準値です。
認知症検査などは,下回ると認知症などが疑われます。
うつ病検査などは,上回るとうつ病などが疑われます。
この違いは,認知症検査は,クリアできる項目が多いと点数が高くなり,クリアできない項目が少ないと点数が低くなるのに対し,うつ病検査などは,当てはまる項目が多いと点数が高くなり,当てはまらない項目が少ないと点数が高くなるためです。
WISCとWAISでは,以下の4つの指標得点と全検査IQを算出することができます。
言語理解指標(VCI):言語による理解する力,推理する力など
知覚推理指標(PRI):視覚による情報をつかんで,推理する力など
ワーキングメモリー指標(WMI):一時的に情報を記憶して処理する力など
処理速度指標(PSI):情報を処理するスピード
この4つの結果から算出するのが全検査IQです。
それでは,解説です。
1 特別支援学級への入級を検討したい子どもの知能検査を学校から依頼されたので,ロールシャッハテストを実施した。
ロールシャッハテストは,パーソナリティ検査です。
2 改訂長谷川式簡易知能評価スケールの結果がカットオフポイントを下回ったので,発達障害の可能性を考えた。
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は,MMSE(ミニメンタルステート検査)とともに,認知症のスクリーニング検査です。
カットオフポイントは
改訂長谷川式簡易知能評価スケールは,20点。
MMSEは,23点。
この数値を下回ると,認知症が疑われます。
3 10歳の子どもに知能検査を実施することになり,本人が了解したので,WAIS-Ⅳを実施した。
ウェクスラー式知能検査は,対象の年齢別で3種類あります。
WPPSI(ウィプシ) 低年齢児用 2歳6か月~7歳3か月
WISC(ウィスク) 児童用 5歳~16歳11か月
WAIS(ウェイス) 成人用 16歳~90歳11か月
10歳の子どもに使うのは,WISCです。
対象年齢が規定されている心理検査は,その範囲に合うものを使用しなければなりません。
10歳の子どもがとても大人びているからといって,WAISを使うことはできません。
第35回国家試験では,
乳幼児の知能を測定するため,WPPSIを実施した。
と出題されて,これが正解でした。
WPPSIの対象年齢は,2歳6か月~7歳3か月です。
児童福祉法の乳児の定義は,「満一歳に満たないもの」,幼児の定義は,「満一歳から,小学校就学の始期に達するまでの者」です。
本来なら,WPPSIは,乳児には用いることができないので,これは厳密に言えば正解とはなりません。
そういう意味で,良くない問題だったと思います。
いずれにせよ,ウェクスラー式知能検査の3つの検査の対象は,押さえておくことが必要です。
4 投影法による性格検査を実施することになったので,矢田部ギルフォード(YG)性格検査を実施した。
性格検査(パーソナリティ検査)は,
投影法
質問紙法
作業検査法
の3種類があります。
矢田部ギルフォード(YG)性格検査は,当てはまるものに,「はい」「いいえ」「どちらでもない」で答える質問紙法です。
投影法には,選択肢1で出題されたロールシャッハテストなどがあります。
作業検査法には,内田クレペリン精神検査などがあります。
5 WISC-Ⅳの結果,四つの指標得点間のばらつきが大きかったので,全検査IQ(FSIQ)の数値だけで全知的能力を代表するとは解釈しなかった。
これが正解です。
四つの指標は
言語理解指標:言語による理解する力,推理する力など
知覚推理指標:視覚による情報をつかんで,推理する力など
ワーキングメモリー指標:一時的に情報を記憶して処理する力など
処理速度指標:情報を処理するスピード
この点数にばらつきが大きかったというのは,この4つの指標得点の中に高いものや低いものがあったということです。
全検査IQ(FSIQ)の数値は,4つの指標得点から算出します。全検査IQ(FSIQ)では,詳しい様子はわかりません。
指標得点は,以下のように分類されます。
130以上 |
非常に高い |
120~129 |
高い |
110~119 |
平均の上 |
90~109 |
平均 |
80~89 |
平均の下 |
70~79 |
低い |
69以下 |
非常に低い |
あくまでも,診断するための材料です。
診断よりも重要なのは,知能検査で何が得意で何が苦手なのかを知り,支援に役立てることです。