不法行為とは,意図的,あるいは不注意によって,他人に損害を与えることをいいます。
不法行為に対しては,金銭賠償を求めることができます。
職員の不法行為に関しては,その職員を雇用している法人も使用者責任を負います。
それでは,今日の問題です。
第33回・問題
事例を読んで,関係当事者の民事責任に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Y社会福祉法人が設置したグループホーム内で,利用者のHさんが利用者のJさんを殴打したためJさんが負傷した。K職員は,日頃からJさんがHさんから暴力を受けていたことを知っていたが,適切な措置をとらずに漫然と放置していた。
1 Hさんが責任能力を欠く場合には,JさんがK職員に対して不法行為責任を追及することはできない。
2 JさんがK職員に対して不法行為責任を追及する場合には,Y社会福祉法人に対して使用者責任を併せて追及することはできない。
3 JさんはY社会福祉法人に対して,施設利用契約における安全配慮義務違反として,損害賠償を請求することができる。
4 Hさんに責任能力がある場合に,JさんがY社会福祉法人に対して使用者責任を追及するときは,Jさんは,損害の2分の1のみをY社会福祉法人に対して請求することができる。
5 Y社会福祉法人が使用者責任に基づいてJさんに対して損害賠償金を支払った場合には,Y社会福祉法人はK職員に対して求償することができない。
論点を整理します。
ポイントは,K職員が適切な措置を取らなかったことです。
民法の規定がわからずとも,これが事例に含まれていることから,答えに関係すると推測できます。
国家試験の事例には,ムダな情報はありません。
それでは解説です。
1 Hさんが責任能力を欠く場合には,JさんがK職員に対して不法行為責任を追及することはできない。
K職員は安全に配慮していないことから,責任は追及されます。
Hさんが責任能力を欠いていたとしても,それは同じです。
今回,負傷した暴力は突発的だったとしても,これまでに何度も繰り返されているからです。
それに対して対策を打っていたなら,訴訟を起こされたとしても反論の余地はあります。しかし,K職員は何の手も打っていません。
2 JさんがK職員に対して不法行為責任を追及する場合には,Y社会福祉法人に対して使用者責任を併せて追及することはできない。
使用者責任とは,職員の不法行為によって,他者に損害を与えた場合,その職員を雇用している法人も責任を負うことです。
使用者責任を追及されないためには,日ごろから職員への教育指導を徹底し,報告させるなどの措置を行うことが必要です。
3 JさんはY社会福祉法人に対して,施設利用契約における安全配慮義務違反として,損害賠償を請求することができる。
これが正解です。
安全配慮義務とは,事故が起きることが予見されている場合に,事故が起きないように対策を打つことです。
契約書に安全に配慮することの内容が含まれていなかったとしても,安全配慮義務は生じます。
4 Hさんに責任能力がある場合に,JさんがY社会福祉法人に対して使用者責任を追及するときは,Jさんは,損害の2分の1のみをY社会福祉法人に対して請求することができる。
Hさんに責任能力がある場合,Hさんに対しても損害賠償を追及することができます。
だからといって,法人に対する責任は軽減されないと考えられます。
5 Y社会福祉法人が使用者責任に基づいてJさんに対して損害賠償金を支払った場合には,Y社会福祉法人はK職員に対して求償することができない。
Y社会福祉法人には使用者責任があるので損害賠償をしなければなくなるかもしれません。
その場合は,K職員に対して,損害賠償を追及することができます。