福祉業界にいると,医療法を紐解く機会はほとんどないでしょう。
医療法人は,非営利法人です。
非営利とは,収益を上げてはならない,ということではなく,社会福祉法人で学んだのと同様に,収益(剰余金)を配当してはならないという意味です。
収益を配当することができるは「株式会社」だということになります。
社会福祉法人と同じ非営利法人でありながら,税制面での優遇はありません。
収益事業(医療法では「収益業務」という)も行うことができません。
医療法では,社会医療法人という類型があります。
社会医療法人は,地域医療などを担う法人として,都道府県知事の認定を受けた法人です。
社会医療法人の認定を受けるには高いハードルがありますが,一般の医療法人には認められていない収益業務を行うことができる,税制面での優遇がある,一部の社会福祉事業を行うことができる,などのメリットがあります。
収益業務は,業務に支障のない限り,その収益を当該社会医療法人が開設する病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院の経営に充てることを目的として,厚生労働大臣が定める業務を行うことができる,と規定されています。
それでは今日の問題です。
第29回・問題120 医療法人及び特定非営利活動法人に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 医療法人は剰余金の配当が可能である。
2 第5次医療法改正の施行後に設立される医療法人には出資持分が認められている。
3 社会医療法人は,収益業務を行うことができない。
4 特定非営利活動法人の解散時の残余財産は,定款で定めた他の特定非営利活動法人等に帰属する。
5 特定非営利活動法人における各社員の表決権は平等ではない。
社会医療法人は,平成18年(2006年)の医療法改正で制度化されたものですが,国試で出題されたのは,この時が初めて(そして現時点では唯一)です。
この問題の正解は,選択肢4です。
4 特定非営利活動法人の解散時の残余財産は,定款で定めた他の特定非営利活動法人等に帰属する。
この選択肢のポイントは,
特定非営利活動法人の解散時の残余財産は,定款で定めた他の特定非営利活動法人等に帰属する。
「定款で定めた」というところです。
特定非営利活動促進法では,以下のように規定されています。
(残余財産の帰属)
第三十二条 解散した特定非営利活動法人の残余財産は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除き、所轄庁に対する清算結了の届出の時において、定款で定めるところにより、その帰属すべき者に帰属する。
2 定款に残余財産の帰属すべき者に関する規定がないときは、清算人は、所轄庁の認証を得て、その財産を国又は地方公共団体に譲渡することができる。
3 前二項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する。
定款に定められていることが必要です。
第24回国試では
特定非営利活動法人が解散する場合,残余財産は,法人の開設者に帰属させることができる。
と出題されて,間違いとなっています。
なぜなら,定款の定めるところにより,という条件が含まれていないからです。
残余財産の場合は,定款の定めるところが重要なことであることがわかります。
ほかの選択肢も見てみましょう。
1 医療法人は剰余金の配当が可能である。
第五十四条 医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。
と規定されています。
2 第5次医療法改正の施行後に設立される医療法人には出資持分が認められている。
出資持分とは,出資者(社員)がもつ一定の権利です。
法人の種類
|
最高議決機関
|
|
社会福祉法人
|
評議員会
|
|
特定非営利活動法人
|
社員総会
|
|
医療法人
|
財団
|
評議員会
|
社団
|
社員総会
|
このように,社員は,最高議決機関である社員総会での議決権も持ちます。
医療法人が,非営利法人でありながら,税制面での優遇がない理由は,出資持分を認めた定款のある医療法人(社団)があるからだと考えられます。
国の施策では,持分のない医療法人への移行を進めています。
今,出資持分を認めた定款をもつ医療法人は,そのままで良いですが,新しく設立する医療法人には認められていません。
社会医療法人に認定されるためには,医療法で
定款又は寄附行為において解散時の残余財産を国、地方公共団体又は他の社会医療法人に帰属させる旨を定めていること。
という規定がなされています。
3 社会医療法人は,収益業務を行うことができない。
医療法人は収益業務を行うことはできませんが,社会医療法人は収益業務を行うことができます。
法人種別
|
収益事業(収益業務)の可否
|
医療法人
|
行うことができない
|
社会医療法人
|
行うことができる
|
社会福祉法人
|
行うことができる
|
特定非営利活動法人
|
行うことができる
|
収益事業(収益業務)を行うことができないのは,医療法人のみということになります。
5 特定非営利活動法人における各社員の表決権は平等ではない。
これは,とてもマニアックな出題です。
特定非営利活動促進法では
(社員の表決権)
第十四条の七 各社員の表決権は、平等とする。
普通に考えると,一人一票だと思いますが,わざわざこの規定を設けているのは,特定非営利活動法人の社員は,〇口というように年会費制にすることが多いからです。
一口の社員と10口の社員の表決権は平等であるという意味です。
<今日の一言>
社会福祉法人,NPO法人,医療法人にはそれぞれ特徴があることがわかってきたのではないでしょうか。
国は,医療法人の非営利性を高めるために社会医療法人を創設しました。
国は,持分のない医療法人への移行施策として,平成29年(2017年)に認定医療法人という制度を創設しています。
出資持分は,出資者が医療法人に対してもつ財産権なので,出資者が亡くなると相続者は持分に応じた相続税を払わなければなりません。
親が亡くなったときは,家や土地を処分するか物納すればよいですが,病院等の場合はそうはいきません。
そのために,持分のない医療法人に移行するための制度として創設したのが,認定入用法人ということになります。
医療法人が非営利法人でありながら,税制面での優遇がないのは,様々な理由があるのです。