人事考課とは,職員の能力評価をいいます。
目標管理と合わせて実施されます。
一般企業では,ボーナス支給の際の査定に用いられることもよくあります。
人事考課を行う役割を担う人のことは,考課者といいます。
人を適切に評価することは,かなり難しいものです。
人事考課を実施するうえで,考課者が留意しなければならないものとして,以下のようなものが挙げられます。
<人事考課の留意点>
ハロー効果
ある部分の評価が全体に影響すること。後光効果,光背効果ともいいます。「後光がさす」という表現もありますが,人が後ろから照らされると,その人は輝いて見えます。環のようなものを背負っている仏像があります。それが後光(光背)です。後光があると,仏像がより神秘的に見えて,より輝きを増します。昔の仏師が後光の効果を知っていたというのは驚きです。
対比誤差
考課者と反対の傾向を持つ人を評価する際,その人により高い評価をつけたり,逆により低い評価をつけることをいいます。例えば,期限厳守を信条としている人が評価すると,期限厳守の人をより高い評価をつけて,時間にルーズな人をより低い評価をつけることが対比誤差です。
寛大化
より高い評価をつけること。考課者が人を評価することに自信がない時に,寛大化が起きやすくなります。
厳罰化
より厳しい評価をつけること。管理者として「スタッフは●●でなければならない」という強い思いがあると,厳しい評価になりがちです。
中心化
評価スケールが1~5まであった場合,3を中心として,2や4に評価が集まることをいいます。本来は,グーンと高い評価や低い評価になるべきものが,平均的な傾向となることです。
先入観
考課者の色眼鏡で評価してしまうこと。この人はいつも●●だから今回も●●だろうと思ってしまうことがあります。
以上は,人事考課の際の留意点の一部です。これらに気を付けないと正しい評価にならない,いわゆる評価のエラーが発生します。
上記の中で,特にしっかり覚えておきたいのは,ハロー効果です。
それでは今日の問題です。
第27回・問題123 人材の確保・育成に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
1 採用計画の立案に当たっては,社員の数という量だけでなく,資格や経験などの職業能力の質についても考慮する。
2 ハロー効果とは,評価者自身と反対の特性を持つ者を過大又は過小に評価するエラーのことである。
3 人事考課などの評価の結果については,苦情が出やすいため,フィードバックの面接は行ってはならない。
4 目標管理制度では,個人の嗜好に合わせて自由に目標を設定させなければならない。
5 計画的な人事異動であるジョブ・ローテーションは,人材育成を目的としたものではない。
正解は,1
1 採用計画の立案に当たっては,社員の数という量だけでなく,資格や経験などの職業能力の質についても考慮する。
言われてみると,その通りだと思うでしょう。
しかし,国試では5つの選択肢がそれぞれ影響しあい,簡単に正解することを拒みます。
それでは,ほかの選択肢もみていきましょう。
2 ハロー効果とは,評価者自身と反対の特性を持つ者を過大又は過小に評価するエラーのことである。
ハロー効果は,一つの部分がほかの部分にも影響を与えるものです。
ある部分が好ましく思えば,ほかの部分は大したことがなくても,良い評価となります。
逆に,ある部分の評価が良ければ,ほかに優れている部分があっても,良い評価になりません。
評価者自身と反対の特性を持つ者を過大又は過小に評価するエラーのことは,対比誤差といいます。
3 人事考課などの評価の結果については,苦情が出やすいため,フィードバックの面接は行ってはならない。
人事考課の評価は,フィードバックの面接を行います。
評価の内容について,苦情が出るのであれば,その評価は適切ではないということになります。
人事考課は,能力開発の方法の一つです。
「あなたをこのように評価しました。こういったところに気を付けたらよりよいでしょう」ということを伝える必要があります。
評価するだけして,どのような評価がされたのかが分からなければ,能力開発につながりませんし,不満にもつながることでしょう。
4 目標管理制度では,個人の嗜好に合わせて自由に目標を設定させなければならない。
個人目標は,職場の目標に合わせて設定されます。
上記は,以前にご紹介した経営戦略の概念図です。
個人目標がどのような位置にあるのかを理解しておきましょう。
すべては,組織の使命(ミッション)から始まります。
それぞれは独立しているものではなく,上位にあるものを具現化していくのが,下位のものとなります。
たとえば,今年度の部門目標として,「接遇の強化」が掲げられていたとしたら,接遇の強化に関連した個人目標を立てなければなりません。
それが,個人目標は職場の目標に合わせて設定するという意味です。
5 計画的な人事異動であるジョブ・ローテーションは,人材育成を目的としたものではない。
ジョブ・ローテーションは,人材育成を目的としたものです。
<今日の一言>
今日の問題の難易度は,中の下くらいだと思います。
落ち着いて問題を解くことができれば,かなりの確率で正解できることでしょう。
国試問題の多くは,このくらいの難易度で作られます。
一つひとつを丁寧に分解すると,とてもシンプルな問題であることがわかることでしょう。
しかし,先述のように,選択肢は,それぞれが独立しているものではなく,5つの選択肢が影響し合っています。
勉強したことがない選択肢が含まれると,そこで混乱し,落ち着いて問題を読むことができなくなります。
一問一答式の参考書があります。一つひとつを確実に覚えるには良いものだと思います。
しかし,国試は一問一答式ではありません。5つの選択肢の中から答えを選び出すことが必要です。
一問一答式で勉強していても,最終的には,国試問題に合わせて問題を解く練習が必要となります。
最新の記事
児童手当法と児童手当
今回は児童手当法と児童手当を学びます。 児童手当法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法は,児童扶養手当法(1961年),特別児童扶養手当法(1964年),児童手当法(1971年)の順で成立していきました。 児童手当法の児童の定義は,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
今回は,ピンカスとミナハンが提唱したシステム理論を取り上げたいと思います。 システム 内容 クライエント・システム 個人,家族,地域社会など,クライエントを包み込む環境すべてのも...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...