2019年8月6日火曜日

組織に関する基礎理論~組織学習とは?

前回は,チーム理論でした。今回から2回にわたって,組織学習を取り上げます。

組織学習とは,組織が変化し発展していくことをいいます。

それでは,さっそく今日の問題です。

第25回・問題121 組織学習論に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 アージリス(Argyris,C.)は,既存の枠組みとは異なる新しい可能性を探る組織の学習形態をシングルループ学習と呼び,組織が継続的に学習する上で必要であると指摘している。

2 他組織の成功体験や先進事例から学び,自組織に取り入れることは組織学習には含まれない。

3 ヘドバーグ(Hedberg,B.)は,組織にとって時代遅れとなったり,有効性が失われた知識を棄却するプロセスをアンラーニング(unlearning)と呼び,これが望ましい組織学習の上で欠かせないと考えた。

4 組織学習は,組織が短期的に適応していくプロセスについて説明するための概念である。

5 共通の専門知識と情熱によってインフォーマルに結びついた人々の集団である実践共同体(community practice)は,知識が生まれ共有される場にはならず組織の学習とは関係しない。

難易度はかなり高いです。前回の問題に比べると,人の名前は出てくるし,英語は出てくるし,そういったものが苦手な人は問題を読むのもいやになってくるかもしれません。

しかし,こういった問題では,人名がわからなければ正解できないことはまずありません。

何度も出題される人名なら,入れ替えたりしてそこを間違いポイントにすることもあります。しかし初めて出題される時に人名を入れるのは,その問題の正確性を高める意味が強く,その人名がなくても問題は成立します。

〔人名入り〕

1 アージリス(Argyris,C.)は,既存の枠組みとは異なる新しい可能性を探る組織の学習形態をシングルループ学習と呼び,組織が継続的に学習する上で必要であると指摘している。
3 ヘドバーグ(Hedberg,B.)は,組織にとって時代遅れとなったり,有効性が失われた知識を棄却するプロセスをアンラーニング(unlearning)と呼び,これが望ましい組織学習の上で欠かせないと考えた。

これらの文章は,人名を抜くとそれぞれ以下のようになります。

〔人名なし〕

1 シングルループ学習は,既存の枠組みとは異なる新しい可能性を探る組織の学習形態であり,組織が継続的に学習する上で必要である。
3 アンラーニング(unlearning)は,組織にとって時代遅れとなったり,有効性が失われた知識を棄却するプロセスであり,望ましい組織学習の上で欠かせない。

十分成立することがわかるでしょう。

ほとんど意味を持たない人名で引っ掛けられるのはもったいないことです。

さて,この問題の正解は,選択肢3

3 ヘドバーグ(Hedberg,B.)は,組織にとって時代遅れとなったり,有効性が失われた知識を棄却するプロセスをアンラーニング(unlearning)と呼び,これが望ましい組織学習の上で欠かせないと考えた。

かなり難しいです。
しかし,さっきの文章で考えてみましょう。

アンラーニング(unlearning)は,組織にとって時代遅れとなったり,有効性が失われた知識を棄却するプロセスであり,望ましい組織学習の上で欠かせない。

アンラーニングは,ラーニング(学習)なので,組織が変化し発展するためには,知識は棄却することも必要ではないかと想像できます。

これをすぐさま正解にはできないと思いますが,ほかのものを丁寧に読み込めば,結果的にこれが残ります。

それでは,ほかの選択肢も見てみましょう。

1 アージリス(Argyris,C.)は,既存の枠組みとは異なる新しい可能性を探る組織の学習形態をシングルループ学習と呼び,組織が継続的に学習する上で必要であると指摘している。

これもまた先ほど変換した文章で確認してみましょう。

シングルループ学習は,既存の枠組みとは異なる新しい可能性を探る組織の学習形態であり,組織が継続的に学習する上で必要である。

シングルループは,「一つの環」を意味しています。

それにもかかわらず,アンダーラインを引いたように

①既存の枠組み
②異なる新しい可能性を探る

という2つの要素が含まれています。

正しくは,シングルループ学習ではなく,ダブルループ学習です。

既存の枠組み → シングルループ学習
異なる新しい可能性を探る → ダブルループ学習

となります。


2 他組織の成功体験や先進事例から学び,自組織に取り入れることは組織学習には含まれない。

組織学習は,組織が変化し発展することです。

どんなきっかけであっても,組織が変化し発展することは組織学習です。
ゼロベースから新しいものを生み出すのは難しいものです。

手がかりとなるものや参考となるものがあって,そこを発展させた方が効率が良いと言えます。

研究論文を書くときに,先行研究を調べるのはそういった理由もあります。


4 組織学習は,組織が短期的に適応していくプロセスについて説明するための概念である。

組織学習が短期の適応か長期の適応かわからなくても,わざわざ「短期的」と限定するのは不自然さがあります。

そのため×はつけられるでしょう。

組織学習は,組織が変化し発展することなので,短期的に適応できたとしても,それで組織が変化し発展しなければ,組織学習とはなりません。

ということで,短期的な適応にとどまるものであれば,組織学習とはなりません。


5 共通の専門知識と情熱によってインフォーマルに結びついた人々の集団である実践共同体(community practice)は,知識が生まれ共有される場にはならず組織の学習とは関係しない。

なにこれって感じの問題ですね。

これだけ変わった問題を出題するのは,変態的な第25回国試らしいと言えます。

しかし,人と同じように組織も学習します。学習しない組織があるとすれば,それは共同体のようなものではなく,ある場所に偶然集まった集団ということになるでしょう。

共通の専門知識と情熱によってインフォーマル(非公式)に結びついた集団は,そこに新しい知識は生まれても不思議ではありませんし,むしろ新しい知識は生まれることの方が自然なことだと思います。


<今日の一言>


シングルループ学習とダブルループ学習を図示してみました。

既存の枠組みの中で変化・発展するのがシングルループ学習で,それでは対応が難しくなった時に新しい可能性を探るのがダブルループ学習です。

それぞれの周りは,赤い環になっていますが,これがループであり,変化・発展しながらそれぞれぐるぐる回っています。

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