今回は,コンティンジェンシー理論の一つである「パス・ゴール理論」と行動理論の一つである「マネジリアル・グリッド」を紹介したいと思います。
まずは,パス・ゴール理論です。
ブルームらの期待理論に基づき,魅力的なゴール(目標)に至る明確なパス(経路)を示すことがリーダーの役割だとします。
ブルームらの期待理論
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パス・ゴール理論は,コンティンジェンシー理論です。
変化する状況として「環境的要因」と「個人的要因」を挙げています。
パス・ゴール理論では,リーダーの行動をこの図のように「指示型リーダーシップ」「参加型リーダーシップ」「支援型リーダーシップ」「達成志向型リーダーシップ」に分類していますが,現時点では,ここまで詳しく覚える必要性はないと言えます。
さて,次はマネジリアル・グリッドです。
マネジリアル・グリッドは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸でリーダーシップのスタイルを分析するものです。
PM理論とそっくりです。
PM理論 |
マネジリアル・グリッド |
上の図がPM理論,下の図がマネジリアル・グリッドです。
PM理論では「PM型」,マネジリアル・グリッドでは「9・9型」が最も優れたリーダーシップであるとしています。「グリッド」は「格子」を意味しています。
PM理論を格子状に細かくしたものが,マネジリアル・グリッドだと押さえるとよいでしょう。
それでは,今日の問題です。
第31回・問題120 リーダーシップの理論に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 パス・ゴール理論では,メンバーの目標達成のための道筋を明示することが,リーダーシップの本質であるとしている。
2 フィードラー理論に代表される「条件適合理論」において,リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約される。
3 三隅二不二は,リーダーシップの行動面に注目して,集団の「目標達成行動」と「集団維持機能」の2次元で類型化したSL理論を示した。
4 カリスマ的リーダーシップでは,リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類する。
5 マネジリアル・グリッドでは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸で類型化し,「1・1型」が最も理想的なリーダーシップのスタイルであるとしている。
前回(第29回)に引き続き,バランスのよい問題だと思います。
勉強不足の人は,まったく解けない問題でしょう。
難易度が高いので,勉強をしっかりした人でも正解するのは大変です。
しかし,こういった問題であっても,落ち着いてさえいれば,糸口は見つけられるので,決して焦ることはないです。焦ると問題文が正しく読めなくなるので要注意です。
さて,正解は,選択肢1
1 パス・ゴール理論では,メンバーの目標達成のための道筋を明示することが,リーダーシップの本質であるとしている。
パス・ゴール理論を述べたそのままズバリの内容です。
第31回で,参考書の書いてあるコンティンジェンシー理論がようやく勢ぞろいしました。
今のカリキュラムになって10年。長い道のりです。
それでは,ほかの選択肢はどこが間違っているのかを確認していきましょう。
2 フィードラー理論に代表される「条件適合理論」において,リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約される。
条件適合理論=コンティンジェンシー理論では,今まで紹介してきたように,リーダーの行動は,それぞれ異なります。
理論
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状況
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リーダーの行動スタイル
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フィードラー理論
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人間関係,タスク内容,リーダー権限
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仕事志向型(タスク志向型)
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人間関係志向型
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SL理論
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メンバーの習熟度,意欲
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教示的リーダーシップ
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説得的リーダーシップ
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参加型リーダーシップ
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委任的リーダーシップ
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パス・ゴール理論
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環境的要因,個人的特性
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指示型リーダーシップ
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参加型リーダーシップ
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支援型リーダーシップ
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達成志向型リーダーシップ
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このようにまとめることができますが,リーダーの行動スタイルまでは覚えなくても,それぞれはコンティンジェンシー理論であることが理解できていれば,おそらく国試では答えられるはずです。
リーダーシップを「構造づくり」と「配慮」に分類したのは,オハイオ州立大学研究です。
3 三隅二不二は,リーダーシップの行動面に注目して,集団の「目標達成行動」と「集団維持機能」の2次元で類型化したSL理論を示した。
故・三隅先生の理論は,PM理論です。今は落ち着いて問題文を読んでいるので,SL理論をPM理論に読み間違うことはないと思います。
しかし,国試会場では,普段はしないようなミスをします。
この問題もPM理論と読み間違う恐れは十二分にあります。
4 カリスマ的リーダーシップでは,リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類する。
カリスマ的リーダーシップは,またまたの登場です。
任務遂行志向とは,おそらく仕事志向型(タスク志向型)と同意語です。
そうすれば,この2つに分類したのは,フィードラー理論だということになります。
しかしそれを正確にわかっていなくとも,カリスマ的リーダーシップは,もともとはウェーバーの支配システムであり,リーダーシップ理論ではないので,このような分類はしないだろうと想像することができるでしょう。
5 マネジリアル・グリッドでは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸で類型化し,「1・1型」が最も理想的なリーダーシップのスタイルであるとしている。
マネジリアル・グリッドは,初めての出題でした。
1のパス・ゴール理論を正解にできないとこの選択肢の正否を判断できないので,消去法で正解にたどり着くことができません。
最も理想的なリーダーシップであるのは,「9・9型」です。
この手の出題の解答テクニックは,実はあります。
具体的な数字が示されているものは,怪しいという勘です。
この問題の場合は,「1・1型」は,数字が小さいので,もっと大きな数字のものがあるのではないか,という勘です。
これと同様の解答テクニックには,「右は左ではないか」「上は下ではないか」といったものがあります。
かなり高度テクニックですが,どうしてもわからないときには,こういったことを思い出して,注意して問題を読むとよいです。
<今日の一言>
今回で,リーダーシップ理論は終了です。
行動理論よりもコンティンジェンシー理論の方が高度である分,より実践的なリーダーシップ理論だということができます。
日本では有名なPM理論があるので,行動理論も正解になる可能性はありますが,第31回で主なコンティンジェンシー理論が出揃ったこともあり,今後はよりコンティンジェンシー理論を中心に据えた出題をしてくることが予測されます。
重要なのは,人名ではなく,その内容であることは決して忘れないようにしましょう。
<おまけ>
国試の出題スタイルには,「セット入れ替え作問法」があります。
たとえば,以下のようなタイプのものです。
似たようなタイプのAとBがあったとします。
Aは,〇〇である。
Bは,××である。
これを
Aは,××である。
と出題して,
Bについては出題しない。
これがセット入れ替え手法です。
AとBを入れ替えて,AとBを両方出題するよりも難易度が高くなる手法です。
どちらも出題すると,ヒントが多くなりますが,片方だけを出題すると,それぞれの選択肢をそれぞれ考えていかなければならないので,ミスする確率が上がります。
第31回国試では,全部入れ替え手法という,問題をつくる上では最もらくらくな出題が多くみられました。
第32回国試は,試験委員の多くが入れ替わったこともあり,おそらく高度な出題はできないのではないかと予測しています。
セット入れ替え手法も間違い選択肢をつくるテクニックとしては,らくらくお手軽なので,多用してくる可能性があります。
セット入れ替え手法対策としては,セットになるもの(つまり似たようなもの)をしっかり覚えることです。
リーダーシップ理論で言えば,「特性理論」と「行動理論」の違い。
「行動理論」と「コンティンジェンシー理論」の違いといったものです。
これから勉強をすすめるときは,特に意識してみてください。
得点力が格段に上がっていくでしょう。