2019年8月21日水曜日

福祉サービスの組織と経営に係る基礎理論~パス・ゴール理論

今回がリーダーシップ理論の最終回です。

今回は,コンティンジェンシー理論の一つである「パス・ゴール理論」と行動理論の一つである「マネジリアル・グリッド」を紹介したいと思います。

まずは,パス・ゴール理論です。

ブルームらの期待理論に基づき,魅力的なゴール(目標)に至る明確なパス(経路)を示すことがリーダーの役割だとします。

ブルームらの期待理論
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/08/20190808.html
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/08/20190809.html


パス・ゴール理論は,コンティンジェンシー理論です。
変化する状況として「環境的要因」と「個人的要因」を挙げています。







パス・ゴール理論では,リーダーの行動をこの図のように「指示型リーダーシップ」「参加型リーダーシップ」「支援型リーダーシップ」「達成志向型リーダーシップ」に分類していますが,現時点では,ここまで詳しく覚える必要性はないと言えます。

さて,次はマネジリアル・グリッドです。

マネジリアル・グリッドは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸でリーダーシップのスタイルを分析するものです。
PM理論とそっくりです。

PM理論



















マネジリアル・グリッド
































上の図がPM理論,下の図がマネジリアル・グリッドです。

PM理論では「PM型」,マネジリアル・グリッドでは「9・9型」が最も優れたリーダーシップであるとしています。「グリッド」は「格子」を意味しています。

PM理論を格子状に細かくしたものが,マネジリアル・グリッドだと押さえるとよいでしょう。


それでは,今日の問題です。

第31回・問題120 リーダーシップの理論に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 パス・ゴール理論では,メンバーの目標達成のための道筋を明示することが,リーダーシップの本質であるとしている。

2 フィードラー理論に代表される「条件適合理論」において,リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約される。

3 三隅二不二は,リーダーシップの行動面に注目して,集団の「目標達成行動」と「集団維持機能」の2次元で類型化したSL理論を示した。

4 カリスマ的リーダーシップでは,リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類する。

5 マネジリアル・グリッドでは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸で類型化し,「1・1型」が最も理想的なリーダーシップのスタイルであるとしている。


前回(第29回)に引き続き,バランスのよい問題だと思います。

勉強不足の人は,まったく解けない問題でしょう。

難易度が高いので,勉強をしっかりした人でも正解するのは大変です。

しかし,こういった問題であっても,落ち着いてさえいれば,糸口は見つけられるので,決して焦ることはないです。焦ると問題文が正しく読めなくなるので要注意です。


さて,正解は,選択肢1

1 パス・ゴール理論では,メンバーの目標達成のための道筋を明示することが,リーダーシップの本質であるとしている。

パス・ゴール理論を述べたそのままズバリの内容です。

第31回で,参考書の書いてあるコンティンジェンシー理論がようやく勢ぞろいしました。
今のカリキュラムになって10年。長い道のりです。

それでは,ほかの選択肢はどこが間違っているのかを確認していきましょう。


2 フィードラー理論に代表される「条件適合理論」において,リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約される。

条件適合理論=コンティンジェンシー理論では,今まで紹介してきたように,リーダーの行動は,それぞれ異なります。


理論
状況
リーダーの行動スタイル
フィードラー理論
人間関係,タスク内容,リーダー権限
仕事志向型(タスク志向型)
人間関係志向型
SL理論
メンバーの習熟度,意欲
教示的リーダーシップ
説得的リーダーシップ
参加型リーダーシップ
委任的リーダーシップ
パス・ゴール理論
環境的要因,個人的特性
指示型リーダーシップ
参加型リーダーシップ
支援型リーダーシップ
達成志向型リーダーシップ


このようにまとめることができますが,リーダーの行動スタイルまでは覚えなくても,それぞれはコンティンジェンシー理論であることが理解できていれば,おそらく国試では答えられるはずです。

リーダーシップを「構造づくり」と「配慮」に分類したのは,オハイオ州立大学研究です。


3 三隅二不二は,リーダーシップの行動面に注目して,集団の「目標達成行動」と「集団維持機能」の2次元で類型化したSL理論を示した。

故・三隅先生の理論は,PM理論です。今は落ち着いて問題文を読んでいるので,SL理論をPM理論に読み間違うことはないと思います。

しかし,国試会場では,普段はしないようなミスをします。

この問題もPM理論と読み間違う恐れは十二分にあります。


4 カリスマ的リーダーシップでは,リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類する。

カリスマ的リーダーシップは,またまたの登場です。

任務遂行志向とは,おそらく仕事志向型(タスク志向型)と同意語です。

そうすれば,この2つに分類したのは,フィードラー理論だということになります。

しかしそれを正確にわかっていなくとも,カリスマ的リーダーシップは,もともとはウェーバーの支配システムであり,リーダーシップ理論ではないので,このような分類はしないだろうと想像することができるでしょう。


5 マネジリアル・グリッドでは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸で類型化し,「1・1型」が最も理想的なリーダーシップのスタイルであるとしている。


マネジリアル・グリッドは,初めての出題でした。

1のパス・ゴール理論を正解にできないとこの選択肢の正否を判断できないので,消去法で正解にたどり着くことができません。

最も理想的なリーダーシップであるのは,「9・9型」です。

この手の出題の解答テクニックは,実はあります。

具体的な数字が示されているものは,怪しいという勘です。
この問題の場合は,「1・1型」は,数字が小さいので,もっと大きな数字のものがあるのではないか,という勘です。

これと同様の解答テクニックには,「右は左ではないか」「上は下ではないか」といったものがあります。
かなり高度テクニックですが,どうしてもわからないときには,こういったことを思い出して,注意して問題を読むとよいです。


<今日の一言>

今回で,リーダーシップ理論は終了です。

行動理論よりもコンティンジェンシー理論の方が高度である分,より実践的なリーダーシップ理論だということができます。

日本では有名なPM理論があるので,行動理論も正解になる可能性はありますが,第31回で主なコンティンジェンシー理論が出揃ったこともあり,今後はよりコンティンジェンシー理論を中心に据えた出題をしてくることが予測されます。

重要なのは,人名ではなく,その内容であることは決して忘れないようにしましょう。


<おまけ>

国試の出題スタイルには,「セット入れ替え作問法」があります。

たとえば,以下のようなタイプのものです。
似たようなタイプのAとBがあったとします。

Aは,〇〇である。
Bは,××である。

これを

Aは,××である。

と出題して,

Bについては出題しない。

これがセット入れ替え手法です。

AとBを入れ替えて,AとBを両方出題するよりも難易度が高くなる手法です。

どちらも出題すると,ヒントが多くなりますが,片方だけを出題すると,それぞれの選択肢をそれぞれ考えていかなければならないので,ミスする確率が上がります。

第31回国試では,全部入れ替え手法という,問題をつくる上では最もらくらくな出題が多くみられました。

第32回国試は,試験委員の多くが入れ替わったこともあり,おそらく高度な出題はできないのではないかと予測しています。

セット入れ替え手法も間違い選択肢をつくるテクニックとしては,らくらくお手軽なので,多用してくる可能性があります。

セット入れ替え手法対策としては,セットになるもの(つまり似たようなもの)をしっかり覚えることです。

リーダーシップ理論で言えば,「特性理論」と「行動理論」の違い。

「行動理論」と「コンティンジェンシー理論」の違いといったものです。

これから勉強をすすめるときは,特に意識してみてください。
得点力が格段に上がっていくでしょう。

最新の記事

基礎知識を固めて,試験委員のトラップを潜り抜けろ!!

難解に思える「社会福祉調査の基礎」でも,ちぁ~んと突破口は存在しています。 しっかり勉強すれば満点に近い点数は取れる手堅い科目になることでしょう。 と言うか・・・ 「量的調査の集計と分析」以外はしっかり覚えると得点できるようになります。 出題されても1・2問の「量的調査の集計と分...

過去一週間でよく読まれている記事