今回は,医療観察法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律)を取り上げます。
医療観察法の目的
心神喪失等の状態で重大な他害行為(他人に害を及ぼす行為をいう)を行った者に対し,その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより,継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって,その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り,もってその社会復帰を促進すること。 |
医療観察法が対象とする犯罪行為
殺人 放火 強盗 強制性交等 強制わいせつ 傷害 |
これらの行為を行った者が不起訴,あるいは無罪になった場合,検察官が申立てして,地方裁判所は裁判官と精神保健審判員(名簿に登録された精神保健指定医の中からその都度選任する)の合議によって,入院決定,通院決定,不処遇を審理します。
入院(医療観察)は,指定入院医療機関で行います。病院の設置主体は,国,都道府県,特定地方独立行政法人に限定されています。
通院は,民間病院でも指定を受けることができます。通院の期間は原則3年(延長は2年)です。通院期間中は,保護観察所の社会復帰調整官による精神保健観察を受けます。
それでは,今日の問題です。
第22回・問題150 「医療観察法」の医療観察制度に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 精神保健観察は,刑法上のすべての犯罪行為に対して適用される制度である。
2 医療観察は,厚生労働省で定める基準に適合する私立病院において医療を行う制度である。
3 精神保健観察は,必要な医療を受けているか否か及びその生活の状況を見守る制度である。
4 医療観察は,精神保健審判員の判断によって,退院を許可することができる制度である。
5 医療観察は,指定入院医療機関の管理者が,入院の申立てをする制度である。
この問題が出題されたときのことをよく覚えていますが,このように出題するのか,とびっくりしました。
というのは,正解は,選択肢3
3 精神保健観察は,必要な医療を受けているか否か及びその生活の状況を見守る制度である。
精神保健観察は,入院によらない(つまり通院)医療を受ける決定がされた際に実施されることは知っていましたが,その目的まで考えたことがなかったからです。
改めて考えてみると,統合失調症の場合,治療をしっかり受けていれば,今の抗精神病薬はとてもよいので,病状は安定します。
医療を受けているかどうかを確認するということは,とても重要なのだと思います。
ライシャワー事件を受けて,精神衛生法が改正されたとき,現在の精神通院医療につながる「通院医療費公費負担制度」が創設されたことを考えると納得できます。
それはさておいて,医療観察法の精神保健観察は,通院の決定を受けた場合に実施されるものです。
ほかの選択肢も見てみます。
1 精神保健観察は,刑法上のすべての犯罪行為に対して適用される制度である。
「すべての」という表記があるので,正解ではないと判断できますが,対象となるのは,前説で紹介したように,
殺人
放火
強盗
強制性交等
強制わいせつ
傷害
です。
強制性交等は,以前の強姦から変わったものです。
強姦は,男性 → 女性 というものになりますが,
強制性交等は,男性 ⇔ 女性 ということになります。
2 医療観察は,厚生労働省で定める基準に適合する私立病院において医療を行う制度である。
医療観察,つまり入院による処遇の場合,実施されるのは,国,都道府県,特定地方独立行政法人で,指定を受けた医療機関に限定されています。
私立病院が指定を受けられるのは,通院です。
4 医療観察は,精神保健審判員の判断によって,退院を許可することができる制度である。
精神保健審判員がかかわるのは,当初裁判の際の合議です。
退院を許可するのは,地方裁判所です。
5 医療観察は,指定入院医療機関の管理者が,入院の申立てをする制度である。
申立てを行うのは,検察官です。