これまで事例問題は何度も取り上げてきましたが,事例問題は,多くの人が思っているほど簡単には正解させてくれません。
特に制度を問う事例の場合は,制度がわからなければ解けません。
事例問題は,複数の正解が生じることで不適切問題にならないように細心の注意を払って,正解以外の選択肢は確実に消去できるように作成されています。
そこに気がつくとつまらないミスはかなり減るように思います。
今まで不適切問題は何度も生じていますが,事例問題で不適切問題になったのは,1回くらいしかなかったように思います。
今日の問題は,なかなか手ごわいです。
第22回・問題144 Hさん(45歳,男性)は,工業系大学を卒業後,Z社の工場部門でエンジニアとして勤務してきたが,一昨年製造第一課長に就任後間もなく,脳卒中で倒れ,右半身麻痺(2種4級)となった。リハビリテーションにより日常生活はほぼ自力でできるようになったが,言語障害がかなりあることや移動能力に相当程度の制約があることに加え,軽度の認知症状が見られたことなどから,退職せざるを得なくなった。Hさん自身は再就職を強く望んでいる。
次のうち,Hさんが再就職するに当たって利用する就労支援サービスとして,最も適切なものを一つ選びなさい。
1 就労継続支援事業
2 職業準備支援
3 就労移行支援事業
4 障害者就業・生活支援センター事業
5 公共職業訓練
国試直前の今の時点(1月中旬)で,これらのサービス内容がわからないという人は,かなり知識不足です。
ここで,復習しておきたいです。障害者の就労に関しては,障害者の科目でも出題されます。
ある程度,知識のある人が迷うのは,
1 就労継続支援事業
3 就労移行支援事業
5 公共職業訓練
の3つだと思います。
「2.職業準備支援」は,訓練で社会生活技能を身につけるものです。
「3.障害者就業・生活支援センター事業」は,就職に向けた支援も行いますが,今まで働いてきた人が今さら利用することはないでしょう。
一般就労を目指す場合は,就労移行支援事業だと思う人も多いと思います。
それはそれで正解です。
中途障害の場合は,就労移行支援を利用することなく,就労継続支援を利用することもあります。
こんなことを考えていると正解が見えなくなってきます。
福祉的就労に視点が向きすぎていませんか?
Hさんが望んでいるのは,再就職です。しかも軽度の認知症状があったとしても,もともとはエンジニアとして第一線で働いてきた方です。しかも再就職を強く望んでいます。
そのことを考えてみると,
5.公共職業訓練
しかあり得ないのです。
Hさんには,福祉的就労しかできないと考えるのは,単なる思い込みです。クライエントの希望を無視しているとも言えるのではないでしょうか。
身体的には制約があったとしても,エンジニアとして仕事をしてきたことは貴重な経験です。
公共職業訓練を受けることで,その技能を生かしながら新しい技能を身につけることが可能です。
<今日の一言>
この問題を改めて見てみると
1 就労継続支援事業
2 職業準備支援
3 就労移行支援事業
4 障害者就業・生活支援センター事業
と
5 公共職業訓練
では明らかに色合いが異なると思いませんか。
答えに迷うことがあったら,このように角度を変えて問題を眺めてみることをおすすめします。