認知症に関する問題のほとんどは,医学の科目で出題され,高齢者ではほとんど出題されて
いません。
事例問題は,出題しにくいためなのか,第22回国家試験以降では,たった1回しか出題されたことはありません。
その貴重な問題をみてみましょう。
第23回・問題121 事例を読んで,訪問介護員の認知症の高齢者への対応に関する次の記述のうち,最も適切なものを一つ選びなさい。
〔事例〕
Dさん(86歳,女性)は,5年前にアルツハイマー型認知症と診断され,夫と自宅で生活している。訪問介護員がDさん宅を訪れたところ,夫から,Dさんが子どもの所が困っているので手伝いに行ってくる,と言って出かけたまま戻ってこないと訴えられた。捜しに出かけたところ,道路をどんどん歩いていくDさんを発見した。
1 「Dさん,一緒に戻りましょう」と手を引っ張る。
2 「Dさん,どちらへ行かれるのですか」とたずねる。
3 「Dさん,子どもさんの所は困っていませんよ」と伝える。
4 「Dさん,ひとりで出るのは危険ですよね,戻りましょう」と制止する。
5 「Dさん,ここでお待ちください」と言い,夫に知らせに行く。
改めて,なるほどと思うのは,訪問介護員の対応を出題するのは,適切ではないと判断したのではないかということです。
受験者に対しては,どのように出題されても大きな問題はありませんが,社会福祉士の国家試験であるなら,社会福祉士の職域からの視点であるべきだと言えます。
訪問介護員の中には,社会福祉士の資格を持っている人ももちろんいるでしょう。
しかし,訪問介護員の実務経験で社会福祉士になることはできません。
それにもかかわらず,訪問介護員の対応を出題したのは,適切ではないように思います。
さて,この問題の正解は,選択肢2です。
2 「Dさん,どちらへ行かれるのですか」とたずねる。
事例のDさんは,いわゆる徘徊ですが,今は,徘徊という言葉は使わないようになってきています。
それに代わって使われるようになってきたのは「ひとり歩き」です。
徘徊とは,意味なく歩く回ることを意味しています。類語にはうろつくといったものがあります。
ところが,認知症の場合は,意味なく歩き回っているのではなく,ご本人にとって意味のある行動です。
そのため,選択肢2が正解だということになります。
この中で,尊厳の面で最も不適切なのは,
3 「Dさん,子どもさんの所は困っていませんよ」と伝える。
尊厳の面で,最も不適切なのは,子どものところが困っているかどうか,わからないことを述べている点です。
認知症だからわからないだろうと,嘘のことを言うのは不適切です。
ほかの選択肢も一応解説します。
1 「Dさん,一緒に戻りましょう」と手を引っ張る。
4 「Dさん,ひとりで出るのは危険ですよね,戻りましょう」と制止する。
訪問介護員が話す内容が適切であったとしても,手を引っ張る,制止する,という行動は適切だと言えません。
5 「Dさん,ここでお待ちください」と言い,夫に知らせに行く。
ようやく発見したのに,夫に伝えに行っている間にまたいなくなってしまったらどうするのでしょうか。
<今日の一言>
事例問題は,一般問題に比べると正解しやすいものです。
なぜかと言えば,事例の中に,答えのヒントとなるものがあるからです。
しかし,この問題の場合,そのヒントがありません。
そういった意味でも,このタイプの問題は不適切だとみなされているのかもしれません。
問題文を読んで,学んだ知識をそこで展開するというタイプの問題ではないからです。
それはさておき,事例問題は,人によって判断が分かれるようなものであってはなりません。
そのために,事例問題の中に必ず答えにつながるヒントを入れています。
そこを見つけ出すことができれば,ほぼ完ぺきに正解できます。情報が足りないから答えがわからない,と思うとしたら,そのヒントを見落としているということです。
そのように,事例問題を読んでみると,なるほど,と思うでしょう。ポイントをつかんで,確実に正解できる力をつけましょう。