売春防止法は,1951年(昭和31年)に制定され,1958年(昭和33年)に施行された古い法制度です。
制定以来大きな改正はなく,今日的な問題に対応できないことから,新しい法制度の制定が期待されています。
同法の今日的な意義を考えると,婦人相談所(都道府県に設置義務),婦人保護施設(都道府県に任意設置),一時保護する施設(都道府県に設置義務),婦人相談員(都道府県による委嘱)だと言えるかもしれません。
しかし,それらは,売春防止の意味ではなく,DV防止に関するものです。
DV防止法は,2001年(平成13年)に制定されたものです。
同法では,配偶者暴力相談支援センターを規定していますが,売春防止法の婦人相談所がその機能を果たしています。
婦人保護施設と一時保護する施設は,DV被害者を守るためのシェルターとして機能しています。
婦人相談員は,DV被害者の相談に応じています。
これらでわかるように,売春防止法で規定されていて,売春防止としての意味を失っているものをDV防止のために流用しているのです。
なお,婦人相談員は,以前は非常勤とすることを規定していますが,今はその規定が削除されています。
それでは,今日の問題です。
第22回・問題140 婦人保護制度に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 婦人保護施設は,母子及び寡婦福祉法に基づく施設である。
2 売春防止法によれば,婦人相談員は常勤でなければならない。
3 市町村は,婦人相談所を設置しなければならない。
4 婦人相談所には,要保護女子を一時保護する施設を設けなければならない。
5 都道府県は,要保護女子を収容保護するための施設を設置しなければならない。
婦人保護制度という用語自体が古臭いです。
若い人は,婦人という言葉自体になじみがないのではないかと思います。
婦人保護制度とは,売春防止法に基づく制度のことです。
売春防止法で,今,ほとんど機能していないのが,婦人補導院だと言えます。
婦人補導院は,売春のために補導処分となった者を収容して,保護更生するための施設です。
補導処分の期間は6か月で,仮退院が許され5号観察として,保護観察に付されます。しかし,実際には近年5号観察となった者はいないようです。
それもそのはず。補導処分となる者自体がほとんどいないからです。
現在唯一残る東京婦人補導院
https://www.moj.go.jp/content/000046934.pdf
婦人保護制度の今日的意義は,DV防止のためにあると言っても決して過言ではないでしょう。そのため,婦人補導院および5号観察が国家試験に出題されることはないと思います。
それでは,解説です。
1 婦人保護施設は,母子及び寡婦福祉法に基づく施設である。
母子及び寡婦福祉法は,現在の母子及び父子並びに寡婦福祉法です。
同法は,入所施設の規定はありません。
母子・父子福祉施設として規定されているのは,母子家庭等の相談に応じる「母子・父子福祉施設」,母子家庭等のレクリエーション施設である「母子・父子休養ホーム」だけです。
これらは,都道府県,市町村等の任意設置です。
婦人保護施設は,売春防止法に基づく施設です。都道府県の任意設置です。
2 売春防止法によれば,婦人相談員は常勤でなければならない。
この問題が出題されたときは,「婦人相談員は非常勤とする」という規定がありましたが,現在は,この規定は削除されています。
つまり,現在としては,常勤とも非常勤とも規定されていません。
かつて,非常勤という規定があったのは,それほどの業務はないという理由からだったのでしょう。
現在は,DV防止法に基づく業務,さらには,児童虐待に関連して,児童相談所と連携した業務も行います。
婦人相談員が児童虐待防止にかかわることを期待されているのは,DVと児童虐待は関連していることもあるからです。
3 市町村は,婦人相談所を設置しなければならない。
婦人相談所の設置義務があるのは,都道府県です。
婦人保護制度のようにめったにないことは,市町村が行う事務には不向きです。
4 婦人相談所には,要保護女子を一時保護する施設を設けなければならない。
これが正解です。
婦人相談所には,要保護女子を一時保護する施設を設けなければなりません。
5 都道府県は,要保護女子を収容保護するための施設を設置しなければならない。
要保護女子を収容保護するための施設(婦人保護施設のこと)は,都道府県の任意設置です。
婦人相談所の一時保護する施設は設置義務。
要保護女子を収容保護するための施設は,任意設置。
整理しておきたいです。