2022年3月8日火曜日

覚えるべきもの・優先度が低いもの~ヘイトスピーチ解消法はどっち?

国家試験でヘイトスピーチ解消法が一度出題されているので,今回は取り上げますが,おそらくもう二度と出題されないでしょう。


国試対策として覚える優先度合いはかなり低いですが,こうったものがあるということを覚えておくことは重要です。


国家試験に出題される問題の中には「覚えていてほしい」という意味合いのも含まれています。


受験者としては,こういう問題が出題されると焦り,慌ててしまいがちです。


しかし,出題意図を考えると答えが見えてくることが多いものです。


勉強していないものが出題された場合,必ずしも正解できなくてもよいのですが,正解できたほうが良いに決まっています。


正解しなければならないのは,勉強してきたものです。


それでは,法に関する前説なしに今日の問題です。


第31回・問題26 「ヘイトスピーチ解消法」の内容に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 外国人観光客に対する不当な差別的言動を規制することを目的としている。

2 不当な差別的言動に対する罰則が規定されている。

3 雇用における差別的処遇の改善義務が規定されている。

4 地方公共団体には,不当な差別的言動の解消に向けた取組を行う努力が求められている。

5 基本的人権としての表現の自由に対する制限が規定されている。

(注) 「ヘイトスピーチ解消法」とは,「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」のことである。


こういった問題の場合,どのように考えると正解に近づけると思いますか?


ヒントになるものには,法律名があります。


法律名は,この法律の目的,性格を表わしているからです。


「解消法」がついている法律でよく知っているものは「障害者差別解消法」があるでしょう。

この法律の場合,その内容には,国,地方公共団体,民間企業に対する義務や努力義務が含まれます。


この法律の正式名称は,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」です。


障害者差別の解消を推進するものです。秘密保持義務以外に罰則は設けられていません。

差別があっても罰則が規定されていないのは,虐待防止法に似ています。


こういったところから,ヘイトスピーチ解消法にも罰則はないだろうというとあたりをつけることができそうです。


もう一つのポイントは,法律の正式名称です。


ヘイトスピーチ解消法の正式名称は


本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律


この名称から,法律の目的がわかります。


本邦外出身者とは,外国出身者,つまり外国から日本に来て生活している人を指します。


もう答えは見えてきたのではないでしょうか。


それでは,解説です。


1 外国人観光客に対する不当な差別的言動を規制することを目的としている。


外国人観光客に対するヘイトスピーチも不適切ですが,外国人観光客に限定した立法はあまりに不自然です。


本邦外出身者という法律名称から,外国人観光客を対象にしたものではないことは明らかにわかります。


外国人観光客を対象にした法律だとしたら,「外国人観光客に対する」といった文言が法律名に入るはずです。


2 不当な差別的言動に対する罰則が規定されている。


罰則はありません。


もし本当に罰則が規定されているなら,「〇〇の規定に違反した者は,〇年以下の懲役又は〇万円以下の罰金に処せられる」といったように,出題されるでしょう。


そもそも推進法に罰則はそぐいません。


3 雇用における差別的処遇の改善義務が規定されている。


雇用とヘイトスピーチに関連しないと考えられます。


4 地方公共団体には,不当な差別的言動の解消に向けた取組を行う努力が求められている。


これが正解です。


法律の正式名称は「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」です。


この法律名と同じく「不当な差別的言動の解消に向けた取組」という部分があります。


そこからこれが正解であると推測できそうです。


悩むとすれば,「努力」という部分かもしれません。しかし,こういった細かいところが問われるのは,出題基準に含まれ,過去に何度も出題されてきた法制度です。


ヘイトスピーチ解消法のように出題基準に含まれず,しかもこれまでに出題されたことのないような法制度は,重箱の隅をつつくような出題がされないものです。


こういった社会福祉士の国家試験の特徴を知っておくと得点力は確実にアップします。


5 基本的人権としての表現の自由に対する制限が規定されている。


選択肢4を正解にできなかった人は,この選択肢に引っ掛かりがちです。


しかし,ヘイトスピーチをわざわざ憲法が規定する「表現の自由」を引き合いに出さなくても,ヘイトスピーチは誰もが不適切な行為だとわかるでしょう。


この選択肢も本当に正しければ「不当な差別的言動は,基本的人権としての表現の自由に制限される」といったように,より具体的な表現で出題されるはずです。

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