2024年10月31日木曜日

事例における初回面接のポイント

 ソーシャルワークで,初回面接(エンゲージメント,あるいはインテーク)が重視されるのは,初回面接は特別なものだからです。


クライエントはワーカーに対して,どこまで話したらよいのだろう,この人は何をしてくれる人なのだろう,という気持ちを抱いています。


どんなにクライエントとの関係づくりが下手な人でも,2回目の面接は1回目よりも親しみを持ってもらっていると思います。


そのため,初回面接の基本がより求められます。

国家試験では,基本が問われます。


教科書の初回面接の部分をもう一度確認しておくようにしてください。


それでは,今日の問題です。


第33回・問題102

事例を読んで,N市の地域包括支援センターのJ社会福祉士の初回面接の対応に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

〔事 例〕

 J社会福祉士は,初めて地域包括支援センターに来所したKさん(66歳,女性)の相談を受けた。「娘が結婚して家を出て以来,夫と二人で暮らしてきました。1年前に夫が定年で退職した頃から,夫が塞ぎ込み不眠にも悩まされるようになりました。V病院を受診していますが,一向に良くなりません。私にささいなことで怒鳴ることがあり,どうしたらいいか分かりません」と不安そうに話した。 

1 夫婦間の問題であるため,配偶者暴力相談支援センターに相談するよう伝える。 

2 夫の不眠の症状を改善させる方法をアドバイスする。

3 Kさんが問題や不安を落ち着いて語れるように心掛ける。

4 V病院にKさんの夫の医療情報を照会する。

5 Kさんに対して地域包括支援センターの役割について説明する。


問題の難易度としては簡単な部類に入りますが,答えを2つ選ぶものなので,それを忘れないことが重要です。


それでは解説です。


1 夫婦間の問題であるため,配偶者暴力相談支援センターに相談するよう伝える。


自分の機関では対応できないとき,他機関を紹介することをリファーラルといいます。


単なるDVなら,配偶者暴力相談支援センターが適切であるかもしれません。


しかし,この事例では,配偶者暴力相談支援センターに相談しても解決はできません。


2 夫の不眠の症状を改善させる方法をアドバイスする。


初回面接でのアドバイスは,エンゲージメントの基本から外れます。


3 Kさんが問題や不安を落ち着いて語れるように心掛ける。


これが1つめの正解です。

初回面接でのクライエントは,とても不安です。落ち着いて語れるように心がけるのは,エンゲージメントの基本に即しています。


4 V病院にKさんの夫の医療情報を照会する。


今後,夫の医療情報が必要になることがあるかもしれません。


しかし,通常の初回面接ではなく,あくまでもその後の対応です。


夫の医療情報を照会するとすれば,Kさんの支援に必要な場合です。


5 Kさんに対して地域包括支援センターの役割について説明する。


機関の機能を説明するのは,エンゲージメントに含まれます。

2024年10月30日水曜日

課題中心アプローチの事例問題

 

課題中心アプローチ

クライエント自らが問題を解決するための課題を設定し,あらかじめ決められた期間の中で課題を達成することを目指す。

 

具体的には,クライエントとともに課題を明確化して,期間を決めて目標を設定します。

 

それでは,今日の問題です。

 

33回・問題103

事例を読んで,課題中心アプローチに基づくL指導員(社会福祉士)の応答として,適切なものを2つ選びなさい。

〔事 例〕

 W自立援助ホームのL指導員は,Mさん(18歳,男性)から将来についての相談を受けた。Mさんは就職をして一人暮らしをしたいと思っているが,求人募集に何度応募しても不採用が続いている。自信を失ったMさんは,「また駄目かもしれないと思うと,面接が怖いです」とうつむいた。

1 「就職活動をする上で,今,何が一番問題だとMさんは思われますか」と尋ねる。

2 「面接が奇跡的にうまくいったとしたら,どのように感じますか」と尋ねる。

3 「面接が怖いのであれば,採用試験に面接がない職場を探しましょう」と提案する。

4 「Mさんが次の面接の日までに取り組む具体的な目標を一緒に考えましょう」と提案する。

5 「大丈夫,Mさんなら自信を持って何でもできますよ」と励ます。

 

この問題はつくり方が下手なので,課題中心アプローチを知らずとも消去できてしまう選択肢があります。

 

今後は,そのような問題は出題されないと思います。しっかりした知識をもつ人だけが正解できるのが,国家試験にふさわしいと思います。

 

〈問題づくりが下手な選択肢〉

3 「面接が怖いのであれば,採用試験に面接がない職場を探しましょう」と提案する。

5 「大丈夫,Mさんなら自信を持って何でもできますよ」と励ます。

 

それでは,このほかの解説です。

 

1 「就職活動をする上で,今,何が一番問題だとMさんは思われますか」と尋ねる。

 

これが1つめの正解です。

 

「就職活動をする上で,今,何が一番問題だとMさんは思われますか」と課題の明確化をしています。

 

2 「面接が奇跡的にうまくいったとしたら,どのように感じますか」と尋ねる。

 

この質問は,解決志向アプローチに用いられるミラクルクエスチョンです。

 

解決志向アプローチでは,こういった特徴的な質問を用いるのが特徴です。

 

このほかには,スケーリングクエスチョン(今の状況を数値化する質問),サバイバルクエスチョン(困難な状況でもなんとかやってこれたことに気づいてもらうための質問),例外探し(あまくいったことに気づいてもらう)などがあります。

 

4 「Mさんが次の面接の日までに取り組む具体的な目標を一緒に考えましょう」と提案する。

 

これが2つめの正解です。

 

Mさんが問題だと思うことを明確化した後は,具体的な目標を設定します。

 

〈今後の出題について〉

 

当然ですが,正解以外は誤りの文章です。

 

選択肢2が適切な誤りの文章の見本です。

 

試験委員は比較的簡単に問題をつくることができて,しかも知識があいまいだと解くのが難しくなります。

 

今後は,こういった出題が多くなると思います。

 

しっかりした知識がある人にとっては,何の不安もなく,試験に臨むことができるでしょう。

2024年10月29日火曜日

様々なアプローチ

 

今回は,様々なアプローチを学びます。

 

アプローチ名

援助方法

影響を与えた主な理論

提唱者

 

心理社会的アプローチ

「状況の中の人」を基本概念として,心理社会的に課題のあるクライエントに対して,コミュニケーションを通して関わっていく。

精神分析理論

ホリス

 

機能的アプローチ

ワーカーの所属する機関の機能を活用して,クライエントの意志で問題解決できるように援助する。

意志心理学

タフト

ロビンソン

スモーリー

 

問題解決アプローチ

クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する

役割理論

パールマン

 

課題中心アプローチ

クライエント自らが問題を解決するための課題を設定し,あらかじめ決められた期間の中で課題を達成することを目指す。

精神分析理論,役割理論,学習理論

リード

エプスタイン

危機介入アプローチ

危機状態に陥っている人に対して早期にかかわり,危機に対して対処能力を高める。

発達理論,危機理論

ラポポート

 

行動変容アプローチ

学習理論を活用して,クライエントの問題となる行動を消去や強化することにより,問題行動全体の変容を図る。

学習理論

トーマス

 

エンパワメントアプローチ

クライエントが抑圧された状況を認識して,潜在能力に気づいて,対処能力を高められるようにかかわる。

ソーシャルアクション

ソロモン

 

ナラティブアプローチ

クライエントが語るストーリーを重視して,新たな意味の世界を創り出すことを援助する。

物語理論

ホワイト

エプストン

解決志向アプローチ

クライエントが抱く解決のイメージを尊重し,その実現に向けてクライエントの社会的機能を高めることを目指す。

短期療法(ブリーフセラピー)

シェザー

バーグ

フェミニストアプローチ

女性にとっての差別や抑圧などの社会的な現実を顕在化させ,個人のエンパワメントと社会的抑圧の根絶を目指す。

女性主義(フェミニズム)

不明

 

実存主義アプローチ

利用者が他者とのつながりを形成し,疎外状態から解放されることに焦点を当てる。

実存主義

クリル

 

エコロジカルアプローチ

「人と環境」の交互作用に着目した援助法

システム理論

ジャーメイン

ギッターマン

 

 

 

これを覚えたところで今日の問題です。

 

33回・問題101

次のうち,ソーシャルワークにおける機能的アプローチに関する記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 クライエントが被っている差別や抑圧に対抗するため,既存の制度や政策を批判し,これらの変革を目指す。

2 クライエントとのコミュニケーションを通じ,クライエントのパーソナリティの変容と環境との機能不全の改善を目指す。

3 クライエントのニーズを機関の機能との関係で明確化し,援助過程の中でクライエントの社会的機能の向上を目指す。

4 クライエントの望ましい行動を増加させ,好ましくない行動を減少させることを目指す。

5 クライエントの問題の解決へのイメージに焦点を当て,問題が解決した状態を実現することにより,クライエントの社会的機能の向上を目指す。

 

すべての選択肢はあるアプローチのことを述べている問題です。

 

この中から,機能的アプローチを選びます。

 

知識がないと5分の1以上の確率で正解することは困難です。

 

それでは,解説です。

 

1 クライエントが被っている差別や抑圧に対抗するため,既存の制度や政策を批判し,これらの変革を目指す。

 

これは,エンパワメントアプローチを述べたものです。

 

抑圧という用語が含まれていると,エンパワメントアプローチ,あるいは,フェミニストアプローチです。

 

2 クライエントとのコミュニケーションを通じ,クライエントのパーソナリティの変容と環境との機能不全の改善を目指す。

 

これは,心理社会的アプローチを述べたものです。

 

コミュニケーションという用語が含まれていると心理社会的アプローチだと判断できます。

 

3 クライエントのニーズを機関の機能との関係で明確化し,援助過程の中でクライエントの社会的機能の向上を目指す。

 

これが正解です。

 

機関の「機能」という用語が含まれていると機能的アプローチだと判断できます。

 

4 クライエントの望ましい行動を増加させ,好ましくない行動を減少させることを目指す。

 

これは行動変容アプローチを述べたものです。

 

行動を変えるといったニュアンスが含まれていると行動変容アプローチだと判断できます。

 

5 クライエントの問題の解決へのイメージに焦点を当て,問題が解決した状態を実現することにより,クライエントの社会的機能の向上を目指す。

 

これは,解決志向アプローチを述べたものです。

 

解決のイメージといったニュアンスが含まれていると解決志向アプローチだと判断できます。

 

ただし,解決志向アプローチは,さまざまなスタイルで出題されます。解決志向アプローチで用いられる質問も押さえておきたいです。

2024年10月28日月曜日

ソーシャルワークにおけるエコシステム

 

今回は,ソーシャルワークにおけるエコシステムを学びます。


エコシステムとは,人と環境のことです。


人と環境の交互作用に着目したアプローチ法は,エコロジカル・アプローチといいます。


それでは,今日の問題です。


第33回・問題100

事例を読んで,エコシステムの視点に基づくEさんへのFソーシャルワーカー(社会福祉士)の対応として,適切なものを2つ選びなさい。

〔事 例〕

 U里親養育包括支援(フォスタリング)機関のFソーシャルワーカーは,里親のEさん(42歳,女性)宅へ訪問した際,委託を受け養育しているGちゃん(10歳,女児)のことで相談を受けた。Gちゃんは,最近無断で学校を休み,友達のHちゃんと万引きをした。EさんはGちゃんに注意し,諭したが,Gちゃんは二日前に再び万引きをした。Eさんは夫に心配を掛けてはすまないと思い,一人で対処してきたが,自分の里親としての力のなさに失望している。

1 「Gちゃんの万引きがやまなければ,児童相談所に委託の解除を相談してはいかがでしょうか」

2 「Gちゃんが通う学校の先生に,Gちゃんの学校での様子について尋ねてみてはいかがでしょうか」

3 「Hちゃんとの付き合いが,Gちゃんの問題を引き起こしているのでしょう」

4 「お一人で悩まれずに,Gちゃんのことをご夫婦で話し合われてはいかがでしょうか」

5 「Gちゃんに欲しい物を尋ね,買ってあげてはいかがでしょうか」


問題づくりが下手なので,エコシステムの視点を意識せずとも正解できてしまう問題です。


このような問題は,今後は出題されないと思います。


こういったタイプの問題では,おそらく,対応は不適切ではなくても,設問の条件と異なるために正解にならないという問題を出題するのではないかと思います。


さて,この問題の正解は,選択肢2と4です。


2 「Gちゃんが通う学校の先生に,Gちゃんの学校での様子について尋ねてみてはいかがでしょうか」

4 「お一人で悩まれずに,Gちゃんのことをご夫婦で話し合われてはいかがでしょうか」


選択肢2は,学校という環境に着目しています。


選択肢4は,両親という環境に着目しています。


1 「Gちゃんの万引きがやまなければ,児童相談所に委託の解除を相談してはいかがでしょうか」

3 「Hちゃんとの付き合いが,Gちゃんの問題を引き起こしているのでしょう」

5 「Gちゃんに欲しい物を尋ね,買ってあげてはいかがでしょうか」


この3つのうち,エコシステムに基づくものに近いのは,選択肢3です。


Hちゃんという環境に着目しています。しかし,そのあとの「Gちゃんの問題を引き起こしているのでしょう」と締めくくっているところが,エコシステムとは異なります。


これは,原因(Hちゃんとの付き合い) → 結果(問題を引き起こしている)と直線的な関係で考える医学モデルです。


エコシステムの視点ではあれば,GさんがHちゃんにも影響を与えていると考えます。それが「交互作用」です。

2024年10月27日日曜日

家族システムの事例問題

今回は,家族システムの事例問題を取り上げます。


家族システム論では,家族メンバーが交互作用を行っていると考えます。1人の不安は,ほかの家族メンバーにも影響を与えます。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題98

事例を読んで,R市子ども福祉課の社会福祉士が行う,家族システムの視点に基づいた今後の対応として,適切なものを2つ選びなさい。

〔事 例〕

 Jさん(15歳)は,小学6年生の時に父親を交通事故で亡くした後,母親(37歳)と母方の祖母(58歳)の3人で暮らしている。母親は,朝から夜中まで働いているため,家事全般は祖母が担っている。Jさんは,中学生になった頃から,祖母へ暴言を吐くようになり,最近は家の中で暴れたり,家に帰ってこなかったりするようになった。祖母は途方に暮れ,友人でもある近所の民生委員・児童委員に相談すると,R市子ども福祉課の相談窓口を紹介され,来所につながった。

1 祖母に思春期の子への対応方法を学習する機会を提供する。

2 家族の凝集性の高さが問題であるため,母親に祖母との距離を置くよう求める。

3 家族関係を理解するため,3人の互いの思いを尋ねていく。

4 家族システムを開放するため,Jさんの一時的別居を提案していく。

5 家族の規範を再確認するため,それぞれの役割について話し合う機会を設ける。


事例問題は,この問題のように,答えを限定しているものがあります。


対応が適切でも限定された答え以外のものは,正解になりません。


〈家族システムの視点に基づいていないもの〉

1 祖母に思春期の子への対応方法を学習する機会を提供する。

2 家族の凝集性の高さが問題であるため,母親に祖母との距離を置くよう求める。

4 家族システムを開放するため,Jさんの一時的別居を提案していく。


〈家族システムの視点に基づいているもの〉

3 家族関係を理解するため,3人の互いの思いを尋ねていく。

5 家族の規範を再確認するため,それぞれの役割について話し合う機会を設ける。


この2つが正解です。


この問題でわかるように,家族システムに基づかないのは,家族メンバー個々に働きかけるものです。


家族システムに基づくものは,家族の関連性に着目して働きかけるものです。


家族システムの開放といった意味がわかりにくいものが出題されていて混乱しそうですが,そのあとの部分で不適切だということがわかります。

2024年10月26日土曜日

家族システム論における円環的とは?

 

今回は,家族システム論を学びます。


システム理論は,人と環境は交互作用を行っていると考えます。


交互作用とは,人は環境に影響を受けて変化し,環境は人に影響を受けて変化することをいいます。


家族システム論は,家族内で交互作用が起きることを述べたものです。


さて,今日のテーマは「家族システム論における円環的とは?」です。


円環的とは,原因と結果が直線的ではなく,始まりと終わりが明確ではない円のように,原因と結果は影響していることをいいます。


よく例に出される親と子の関係


A













B













AとBは始まりが異なります。しかし,どっちが原因なのかが明確にはわかりません。


これが円環的です。


それでは,今日の問題です。


第33回・問題99

家族システム論に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 家族内で生じる問題は,原因と結果が円環的に循環している。

2 各家族員の分化度が高いほど,家族内において相互依存が生じる。

3 家族の内と外は,区別されず連続している。

4 ある家族の全体が有する力は,各家族員が持つ力の総和に等しい。

5 多世代家族において,一つの世代の家族の不安は,別の世代の家族に影響を与えない。


今日のテーマは,選択肢1に出題されています。

選択肢2には,「分化度」というよくわからないものが出題されています。


分化度にとらわれることなく,正解にたどり着きたいです。


それでは,解説です。


1 家族内で生じる問題は,原因と結果が円環的に循環している。


前説に書いたようにこれが正解です。


システム理論は「円環的」ととらえます。システム理論にかかわらず,「直線的」と出題された場合は誤りだと判断できます。


2 各家族員の分化度が高いほど,家族内において相互依存が生じる。


分化度とは,家族の心理的なつながりの度合いです。


分化度とは,分かれている度合いという意味なので,家族の心理的なつながりが強いのは,分化度が低いほうです。


家族内の相互依存が生じるのは,分化度が低い場合です。


3 家族の内と外は,区別されず連続している。


家族の内と外は,連続していません。家族内と家族外は明らかに区別されます。


家族以外,つまり環境が家族と同じものにはなり得ません。垣根を低くしたところで,家族間のつながりの強さは,家族外よりも弱いと考えられます。


4 ある家族の全体が有する力は,各家族員が持つ力の総和に等しい。


システム理論では,創発特性という考え方があります。


創発特性とは,システムの構成要素が影響し合うことで,もともとのものとは異なるものが創られることをいいます。


そのため,全体の力は,個々がもつ力よりも弱くなったり,強くなったりします。


5 多世代家族において,一つの世代の家族の不安は,別の世代の家族に影響を与えない。


多世代家族とは,二世代世帯以上の家族のことです。


家族システム論では,家族メンバーが交互作用を行っていると考えます。1人の不安は,ほかの家族メンバーにも影響を与えます。

2024年10月25日金曜日

人と環境に関するソーシャルワーク理論

 

今回は,人と環境に関するソーシャルワーク理論を学びます。

 

人名

内容

リッチモンド

パーソナリティの変容を目指し,人と環境との間を個別に意識的に調整すると説いた。

ピンカスとミナハン

クライエントの環境は,アクション・システムなど,複数のシステムから構成されると説いた。

ホリス

「人」,「状況」,「人と状況の相互作用」の三重の相互関連性を説いた。

バートレット

人々が試みる対処と環境からの要求との交換や均衡を,社会生活機能という概念で説いた。

ジャーメイン

生態学的視座に立ち,人が環境の中で生活し,社会的にも機能していると説いた。

 

これを覚えたところで,今日の問題です。

 

33回・問題98

次の記述のうち,人と環境との関係に関するソーシャルワーク理論として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 リッチモンド(Richmond,M.)は,「人」,「状況」,「人と状況の相互作用」の三重の相互関連性を説いた。

2 ピンカス(Pincus,A.)とミナハン(Minahan,A.)は,生態学的視座に立ち,人が環境の中で生活し,社会的にも機能していると説いた。

3 ホリス(Hollis,F.)は,パーソナリティの変容を目指し,人と環境との間を個別に意識的に調整すると説いた。

4 バートレット(Bartlett,H.)は,人々が試みる対処と環境からの要求との交換や均衡を,社会生活機能という概念で説いた。

5 ジャーメイン(Germain,C.)は,クライエントの環境は,アクション・システムなど,複数のシステムから構成されると説いた。

 

知識不足だと5分の1以上の確率で正解することは困難です。

 

それでは解説です。

 

1 リッチモンド(Richmond,M.)は,「人」,「状況」,「人と状況の相互作用」の三重の相互関連性を説いた。

 

これは,ホリスの内容を述べたものです。

 

 

2 ピンカス(Pincus,A.)とミナハン(Minahan,A.)は,生態学的視座に立ち,人が環境の中で生活し,社会的にも機能していると説いた。

 

これは,ジャーメインの内容を述べたものです。

 

3 ホリス(Hollis,F.)は,パーソナリティの変容を目指し,人と環境との間を個別に意識的に調整すると説いた。

 

これは,リッチモンドの内容を述べたものです。

 

パーソナリティの変容を目指し,人と環境との間を個別に意識的に調整することは,リッチモンドが述べたソーシャル・ケース・ワークの定義です。

 

確実に覚えたいです。

 

4 バートレット(Bartlett,H.)は,人々が試みる対処と環境からの要求との交換や均衡を,社会生活機能という概念で説いた。

 

これが正解です。

 

5 ジャーメイン(Germain,C.)は,クライエントの環境は,アクション・システムなど,複数のシステムから構成されると説いた。

 

これは,ピンカスとミナハンの内容を述べたものです。

 

〈覚え方のコツ〉

 

文章をそのまま覚えるのはかなり難しいものです。

 

覚えるポイントをなるべくシンプルにするのが覚え方のコツです。

 

〈例〉

 

ホリス → 状況の中の人

バートレット → 社会生活機能

ジャーメイン → 生態学あるいはエコロジカル

 

これだと「暗記が苦手」という人も覚えられそうだと思いませんか?

2024年10月24日木曜日

倫理的ジレンマの事例問題(2)

 

倫理的ジレンマは,2つの状況の中で板挟みになることです。


2つの状況が示され,その組み合わせによって答えを探すことができますが,正解を2つ選ぶタイプでも出題されます。


今日の問題は,オーソドックスである2つの状況の組み合わせです。


精神保健福祉士

第22回・問題21

U精神科病院に勤めるA精神保健福祉士は,担当患者のBさんへの支援が思うように展開できないでいた。Bさんは,障害年金と親の多額の遺産金で暮らしているが,「お金がない。生活保護を受けられないか」と何度も訴えていた。A精神保健福祉士は,Bさんが他の患者にお金を貸したり,欲しいものをすぐに買ったりして無駄遣いをしているのに生活保護を受けたいと主張することを好ましく思っていなかった。そのため,どうしてBさんが同じ主張を繰り返すのかについて,その背景に何かあるかもしれないということは気になっていたが,いつも一方的な態度をとるBさんを受け入れられず,「遺産金があるので,生活保護を申請することは難しい」と繰り返し説明していた。

 次のうち,A精神保健福祉士が抱く倫理的ジレンマとして,適切なものを1つ選びなさい。

1 自己決定とパターナリズム

2 専門職的価値と個人的価値

3 バウンダリーとクライエントの利益

4 クライエントの利益と所属機関の利益

5 秘密保持とプライバシー


5つの選択肢の内容は,第19回の問題と全く同じです。


どうしてBさんが同じ主張を繰り返すのかについて,その背景に何かあるかもしれないということは気になっていた。


いつも一方的な態度をとるBさんを受け入れられず,「遺産金があるので,生活保護を申請することは難しい」と繰り返し説明していた。


この2つによって,A精神保健福祉士は揺れ動いています。


どうしてBさんが同じ主張を繰り返すのかについて,その背景に何かあるかもしれないということは気になっていた。


 → ソーシャルワーカーとして専門的なアセスメントが必要な場面です。これは専門職的価値だと言えるでしょう。


いつも一方的な態度をとるBさんを受け入れられず,「遺産金があるので,生活保護を申請することは難しい」と繰り返し説明していた。


 → 「受け入れられない」というのは,ケースワークの原則に「非審判的態度」に反する「審判的態度」となっています。つまり,個人的価値だと言えます。


正解は,選択肢2です。


2 専門職的価値と個人的価値


またまたバウンダリーが出題されています。


バウンダリー(boundary)は,「境界」を意味し,心理学では,自分と他人の境界線を意味しています。


バウンダリーがあいまいになると,


NOと言わなければならない場面でNOと言えない。

YESと言わなければならない場面でYESと言えない

私が思っていることは相手も同じことを思っている

自分の価値観を相手に押し付ける


など,人間関係や対人援助に弊害を生じます。


バウンダリーを明確にすることは簡単なことではありませんが,対人援助職としては大切なことでしょう。


今のところ,バウンダリーはまだ正解になったことはありませんが,注意すべきダークホース的な用語です。


それでは,正解以外を解説します。


1 自己決定とパターナリズム


〈例〉

クライエントは「デイケアに行きたくない」と考えているのに対して,ソーシャルワーカーは「デイケアに行かないと生活が乱れる」と考えている。


3 バウンダリーとクライエントの利益


〈例〉

クライエントの強い態度に威圧され,クライエントの言いなりになってしまう。しかし,それはクライエントにとって本当は良いことではない。



4 クライエントの利益と所属機関の利益


〈例〉

クライエントは入院継続を望んでいるのに対して,病院は診療報酬の面から早期退院を望んでいる。


5 秘密保持とプライバシー


秘密保持とプライバシーは,同じベクトルなので,倫理的ジレンマを生じることはありません。


倫理的ジレンマを生じるとすると・・・


クライエントから「誰にも言わないで」と言われて,プライバシーに関係する話を聞く場合です。


その話の内容に,生命の危機に関係する場合は,関係機関と連携しなければなりません。


そのために,クライエントに「誰にも言わないで」と言われたら,「ここで聞いた話は,〇〇さんの許可がない限り,誰にも話しません」と秘密保持を保証したうえで,「ただし,〇〇さんを含めて生命に危険があるような場合は,関係機関に連絡させていだたくことがあります」と明確に示すことが必要です。


そのために,倫理的ジレンマを生じることになります。


この背景には,タラソフ事件があります。


アメリカで起きたこの事件は,精神科医が患者から「タラソフを殺すつもりだ」という話を聞いて,通報したものの釈放されて,その後に本当に殺人事件が発生してしまったものです。


この事件は秘密保持義務と生命の安全を考える場合に,よく引き合いに出される事件です。


守秘義務を理由に患者が殺すつもりだと宣言したタラソフさんに警告を促さなかったことで発生した事件です。


このようなことは,下手をすれば刑事的責任を問われることにもなりかねません。

2024年10月23日水曜日

倫理的ジレンマの事例問題(1)

 

今回から数回にわたって,倫理的ジレンマの事例問題を解いてみたいと思います。


それでは,前説なしに今日の問題です。


精神保健福祉士

第19回・問題21

精神科病院を退院したAさんは,次第に昼夜逆転した生活となり,バランスの取れた食事もできていない状況にあった。精神科病院のB精神保健福祉士は,受診時にAさんと相談室で面接を行い,生活のリズムを整えることがAさんのために必要だと考え,デイケアの利用を勧めた。しかし,Aさんは,「デイケアには行きたくない。自分は退院しているし,やりたいことがある」と語った。B精神保健福祉士はAさんの思いを聞きつつも,Aさんの生活に不安を感じ,これからどのように関わっていけばよいか悩んだ。

 次のうち,B精神保健福祉士が抱く倫理的ジレンマとして,適切なものを1つ選びなさい。

1 クライエントの利益と所属機関の利益

2 秘密保持とプライバシー

3 自己決定とパターナリズム

4 バウンダリーとクライエントの利益

5 専門職的価値と個人的価値


倫理的ジレンマは,このようなスタイルで出題されます。


しっかり考えないと正解できません。


この事例の場合のポイント


Aさんは,「デイケアには行きたくない。自分は退院しているし,やりたいことがある」と語った。


B精神保健福祉士はAさんの思いを聞きつつも,Aさんの生活に不安を感じ,これからどのように関わっていけばよいか悩んだ。


正解は,選択肢3です。


自己決定によれば,デイケアには行かないということになります。しかし,B精神保健福祉士は,それでは生活に不安を感じています。


パターナリズムは,専門的立場でこのようにした方が良い,と考えることです。自己覚知ができていないと知らず知らずにパターナリズム的なかかわりになりがちなので注意が必要です。


なお,バウンダリーとは,自分と人の境界線のことをいいます。


バウンダリーがあいまいになると,こうしてくれるだろうといったように,人に過剰な期待を寄せてしまうので,これも注意が必要です。

2024年10月22日火曜日

精神保健福祉士と医師の関係

 

今回は,精神保健福祉士と医師の関係を学びます。

 

精神保健福祉士は,その業務を行うに当たって精神障害者に主治の医師があるときは,その指導を受けなければならない。

 

この規定は,社会福祉士にはありません。

 

社会福祉士と医師との関係は,連携です。

 

社会福祉士は,その業務を行うに当たつては,その担当する者に,福祉サービス及びこれに関連する保健医療サービスその他のサービスが総合的かつ適切に提供されるよう,地域に即した創意と工夫を行いつつ,福祉サービス関係者等との連携を保たなければならない。

 

※福祉サービス関係者等

医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者

 

それでは今日の問題です。

 

精神保健福祉士

16回・問題23

福祉専門職の国家資格に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 精神保健福祉士と社会福祉士は,基盤となるソーシャルワークの理念,倫理,価値において異なる。

2 精神保健福祉士,社会福祉士,介護福祉士は,それぞれが福祉の相談援助専門職として異なる法律によって規定された国家資格である。

3 社会福祉士は,身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者を相談援助の対象としている。

4 社会福祉士は,精神保健福祉士と同様に,対象者に主治医がいる場合には,その指導を受けると規定されている。

5 社会福祉士は,精神保健福祉士と同様に,日常生活への適応のために必要な訓練を行う,リハビリテーションの専門職としても位置づけられている。

 

社会福祉士と精神保健福祉士を並べて出題したものです。

今後は,こういった出題が多くなるのではないかと思います。

 

それでは,解説です。

 

1 精神保健福祉士と社会福祉士は,基盤となるソーシャルワークの理念,倫理,価値において異なる。

 

社会福祉士と精神保健福祉士の基盤は,共通です。

 

いずれもソーシャルワーカーだからです。

 

バートレットの「ソーシャルワーク実践の共通基盤」もありますし,ソーシャルワーク専門職のグローバル定義もあります。

 

2 精神保健福祉士,社会福祉士,介護福祉士は,それぞれが福祉の相談援助専門職として異なる法律によって規定された国家資格である。

 

社会福祉士と介護福祉士は,同じ法律「社会福祉士及び介護福祉士法」が根拠法です。

 

3 社会福祉士は,身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者を相談援助の対象としている。

 

これが正解です。

 

社会福祉士の定義

社会福祉士の名称を用いて,専門的知識及び技術をもつて,身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ,助言,指導,福祉サービスを提供する者又は福祉サービス関係者等との連絡及び調整その他の援助を行うことを業とする者をいう。

 

4 社会福祉士は,精神保健福祉士と同様に,対象者に主治医がいる場合には,その指導を受けると規定されている。

 

ようやく今日のテーマの登場です。

 

この規定があるのは,精神保健福祉士です。

 

社会福祉士にはこの規定はありません。医師との関係は,連携です。

 

 

5 社会福祉士は,精神保健福祉士と同様に,日常生活への適応のために必要な訓練を行う,リハビリテーションの専門職としても位置づけられている。

 

精神保健福祉士の定義

精神保健福祉士の名称を用いて,精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって,精神科病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け,若しくは精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者の地域相談支援の利用に関する相談その他の社会復帰に関する相談又は精神障害者及び精神保健に関する課題を抱える者の精神保健に関する相談に応じ,助言,指導,日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うことを業とする者をいう。


精神保健福祉士は,日常生活への適応のために必要な訓練を行います。

 

しかし,社会福祉士は,リハビリテーション専門職ではありません。

2024年10月21日月曜日

精神保健福祉士法の改正

 

精神保健福祉士法は,2010年に改正され,義務等が変わっています。

 

この時に加わったのは,「資質向上の責務」と「誠実義務」です。

 

これを聞いて,「あれっ」と思った人もいるでしょう。

 

社会福祉士及び介護福祉士法の2007年改正でも,同じようにこれらが加わっています。

 

つまり,先に社会福祉士及び介護福祉士法が改正されて,そのあとに精神保健福祉士法が同じように改正されたということです。

 

どちらも義務等は,共通しているので覚えやすいと思います。

 

義務等

・誠実義務

・信用失墜行為の禁止

・秘密保持義務

・連携等

・資質向上の責務

 

赤字の部分が,改正によって加わったものです。

 

それでは,今日の問題です。

 

精神保健福祉士

25回・問題21

次のうち,2010年(平成22年)の精神保健福祉法改正で精神保健福祉士の義務等に,新たに設けられたものとして,正しいものを2つ選びなさい。

1 信用失墜行為の禁止

2 資質向上の責務

3 名称の使用制限

4 秘密保持義務

5 誠実義務

 

正解はすぐわかると思います

 

前説のとおり,正解は,選択肢2と5です。

 

2 資質向上の責務

5 誠実義務

 

 

1 信用失墜行為の禁止

3 名称の使用制限

4 秘密保持義務

 

これらは,法の成立時から規定されているものです。

 

〈今日の一言〉

 

ソーシャルワークの基盤と専門職は,精神保健福祉士との共通科目です。

 

精神保健福祉士法は,旧カリ時代の出題基準にも含まれていましたが,出題されたことはありませんでした。

 

しかし,新カリで共通科目になったことで,精神保健福祉士法は高い確率で出題されるようになるでしょう。

2024年10月20日日曜日

社会福祉士と精神保健福祉士

 

社会福祉士と精神保健福祉士は,それぞれ別の法律に基づいた国家資格ですが,義務等は共通です。

 

義務等

・誠実義務

・信用失墜行為の禁止

・秘密保持義務

・連携等

・資質向上の責務

 

それでは,今日の問題です。

 

34回・問題91

社会福祉士及び介護福祉士法における社会福祉士と,精神保健福祉士法における精神保健福祉士に関する次の記述のうち,これらの法律に明記されている共通する責務として,正しいものを1つ選びなさい。

1 集団的責任の保持

2 権利擁護の促進

3 多様性の尊重

4 資質向上

5 倫理綱領の遵守

 

この問題が出題されたとき,精神保健福祉士法を知らないので困ったと思う人もいたと思います。

 

しかし,社会福祉士及び介護福祉士法を知っていれば,正解できる問題です。

 

まずは,社会福祉士の義務等を考えると良いからです。

 

正解は,選択肢4です。

4 資質向上

 

資質向上の責務は,両資格の根拠法に規定されています。


社会福祉士

社会福祉を取り巻く環境の変化による業務の内容の変化に適応するため,相談援助等に関する知識及び技能の向上に努めなければならない。


精神保健福祉士

精神保健及び精神障害者の福祉を取り巻く環境の変化による業務の内容の変化に適応するため,相談援助に関する知識及び技能の向上に努めなければならない。

 

1 集団的責任の保持

3 多様性の尊重

 

この2つは,ソーシャルワーク専門職のグローバル定義に書かれているものです。

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