大学等では,2021年4月から新しいカリキュラムによる教育が始まります。
この人たちが卒業する年の国家試験から新しいカリキュラムで実施されます。
第34回(2022年2月) |
旧カリキュラム |
第35回(2023年2月) |
↓ |
第36回(2024年2月) |
↓ |
第37回(2025年2月) |
新カリキュラム |
第38回(2026年2月) |
↓ |
教育課程の修業年限によって,新カリキュラムに移行する時期が異なります。
2年制の短大・専門学校・一般養成施設は,2023年4月から
1年制の一般養成施設・半年の短期養成施設は,2024年4月から
それぞれ新カリキュラムに移行し,2025年2月に実施される国家試験で新カリキュラムの国家試験に挑むことになります。
前回の改正は,社会福祉士及び介護福祉士法の改正に伴い,それに見合う社会福祉士の養成の必要性があって行われたものです。
そのために科目が大きく変わりました。
今回の改正は,法改正のような背景はなく,時代に合わせて改正したものです。
大きく変わるのは,社会福祉士と精神保健福祉士の教育の関連性です。
社会福祉士のカリキュラムは介護福祉士と一緒に変わる予定でしたが,遅れに遅れました。その結果として精神保健福祉士の改正と同時になったことを好機ととらえて,再編したのです。
「更生保護制度」という科目は,「刑事司法と福祉」という科目に移行して,精神保健福祉士との共通科目になります。
この科目で,大きく変わるのは「施設内処遇」について学ぶことです。
これまでは「社会内処遇」しか学んでいませんでした。
今回のカリキュラム改正は,ゆっくりゆっくり移行していくので,国家試験も急激に変えることなく,新カリキュラムの内容を小出しにして,新カリキュラムの国試に対応しやすくする方針のようです。
第33回国試では,以下のような出題があります。
問題142 子どもに関わる専門職等に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 家庭裁判所調査官は,家庭内の紛争や非行の原因などの調査や,児童福祉施設入所等の適否を判断するための調査等を行う。
2 法務教官は,児童自立支援施設において,生活指導,職業指導,教科教育等各種の教育訓練による矯正教育を行う。
3 保健師は,児童福祉法に基づき,妊産婦や新生児の訪問指導,乳幼児健診,保健指導などを行う。
4 児童委員は,要保護児童の把握や通告を行うこととされており,児童相談所の決定による子どもやその保護者への指導を行うことは業務外となっている。
5 保育士は,子どもを対象とした直接的な援助が主な業務であり,保護者への保育に関する指導を行うことは業務外となっている。
法務教官は,少年院と少年鑑別所に配置される専門職です。
正解は,選択肢1です。
問題148 少年司法制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 少年法は,家庭裁判所の審判に付すべき少年として,犯罪少年,触法少年,虞犯少年,不良行為少年の4種類を規定している。
2 家庭裁判所は,18歳未満の少年については,都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り,これを審判に付することができる。
3 少年鑑別所は,警察官の求めに応じ,送致された少年を一定期間収容して鑑別を行う施設である。
4 少年院は,保護処分若しくは少年院において懲役又は禁錮の刑の執行を受ける者に対し,矯正教育その他の必要な処遇を行う施設である。
5 家庭裁判所が決定する保護処分は,保護観察,児童自立支援施設又は児童養護施設送致,少年院送致,検察官送致の4種類である。
この問題は,問題142と異なり,選択肢4の少年院が正解となっています。
そのため,ほかの選択肢を消去できないと正解することができないタイプの問題だと言えます。
施設内処遇とは,少年院や刑務所のことです。
新しいカリキュラムで学ぶものをこのように小出しにしながら,新しい国試に備えていることがわかるでしょう。
だからといって,国試自体が難しくなるわけではありません。これらの問題のように現在のカリキュラムの内容で十分対応できるように問題がつくられるからです。
新カリに備えて,少年院,少年鑑別所,法務教官などを覚えておいてください,というメッセージを送ってくれているのです。現在のカリキュラムでは,現時点(2021年3月)では,あと3回実施されますが,このような小出し作戦が続くことでしょう。
何と優しいのでしょう。そう思いませんか?
それでは今日の問題です。
第28回・問題147 保護観察に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 少年院からの仮退院者や児童自立支援施設からの退所者には保護観察が付される。
2 少年事件の保護観察を実施する機関は児童相談所であり,そこには保護観察官が配属されている。
3 犯罪をした者及び非行のある少年に対し,矯正施設や社会内において適切な処遇を行うことにより改善更生を助けることが保護観察の目的である。
4 保護観察官が指導監督,保護司が補導援護を行う役割分担を行っている。
5 法務大臣が指定する施設などにおいて,一定期間の宿泊の継続とそこでの指導監督を受けることが特別遵守事項の一つとされている。
現行の「更生保護制度」は,社会内処遇に絞った内容となっているので,覚えるポイントがとても少ないです。
勉強をしっかりしたら,簡単に正解できる問題がそろっているのですが,たった4問しかない科目であることと最後の科目であることなどが影響して,不十分な勉強で国試に臨む人が多いようです。
この問題の正解は,選択肢5です。
5 法務大臣が指定する施設などにおいて,一定期間の宿泊の継続とそこでの指導監督を受けることが特別遵守事項の一つとされている。
保護観察対象者が遵守すべき事項には,すべての者が遵守しなければならない「一般遵守事項」と必要がある場合,特定の者に定められる「特別遵守事項」があります。
更生保護法を見ることはあまりないと思いますが,法では以下のように定められています。
一般遵守事項 |
一 再び犯罪をすることがないよう、又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること。 二 次に掲げる事項を守り、保護観察官及び保護司による指導監督を誠実に受けること。 イ 保護観察官又は保護司の呼出し又は訪問を受けたときは、これに応じ、面接を受けること。 ロ 保護観察官又は保護司から、労働又は通学の状況、収入又は支出の状況、家庭環境、交友関係その他の生活の実態を示す事実であって指導監督を行うため把握すべきものを明らかにするよう求められたときは、これに応じ、その事実を申告し、又はこれに関する資料を提示すること。 三 保護観察に付されたときは、速やかに、住居を定め、その地を管轄する保護観察所の長にその届出をすること。 四 前号の届出に係る住居に居住すること。 五 転居又は七日以上の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察所の長の許可を受けること。 |
特別遵守事項 |
一 犯罪性のある者との交際、いかがわしい場所への出入り、遊興による浪費、過度の飲酒その他の犯罪又は非行に結び付くおそれのある特定の行動をしてはならないこと。 二 労働に従事すること、通学することその他の再び犯罪をすることがなく又は非行のない健全な生活態度を保持するために必要と認められる特定の行動を実行し、又は継続すること。 三 七日未満の旅行、離職、身分関係の異動その他の指導監督を行うため事前に把握しておくことが特に重要と認められる生活上又は身分上の特定の事項について、緊急の場合を除き、あらかじめ、保護観察官又は保護司に申告すること。 四 医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識に基づく特定の犯罪的傾向を改善するための体系化された手順による処遇として法務大臣が定めるものを受けること。 五 法務大臣が指定する施設、保護観察対象者を監護すべき者の居宅その他の改善更生のために適当と認められる特定の場所であって、宿泊の用に供されるものに一定の期間宿泊して指導監督を受けること。 六 善良な社会の一員としての意識の涵養及び規範意識の向上に資する地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を一定の時間行うこと。 七 その他指導監督を行うため特に必要な事項 |
特別遵守事項は,上記の内容を踏まえて具体的に定められます。
ほかの選択肢も解説します。
1 少年院からの仮退院者や児童自立支援施設からの退所者には保護観察が付される。
少年院からの仮退院者には保護観察が付されますが,児童自立支援施設からの退所者には保護観察は付されません。
児童自立支援施設送致は保護処分の一つですが,児童自立支援施設は児童福祉法の児童福祉施設であり,入所している児童は保護処分を受けた少年のみではありません。
2 少年事件の保護観察を実施する機関は児童相談所であり,そこには保護観察官が配属されている。
専門職がどこに配置されるかを問うのは,社会福祉士国試の定番です。
保護観察官は,保護観察所と地方更生保護委員会に配置されます。
保護観察所には,医療観察法にもとづく社会復帰調整官も配置されています。
3 犯罪をした者及び非行のある少年に対し,矯正施設や社会内において適切な処遇を行うことにより改善更生を助けることが保護観察の目的である。
保護観察の目的は「社会内処遇」です。
少年院などの矯正施設は,「施設内処遇」です。保護観察は施設内ではなく,社会内において実施されます。
何度も何度も出題されているものです。
新カリキュラムではいよいよ施設内処遇も学ぶことになります。
4 保護観察官が指導監督,保護司が補導援護を行う役割分担を行っている。
保護観察は,権力的性格の指導監督と福祉的性格の補導援護によって実施されます。
保護観察官と保護司の役割分担はありません。役割分担がないのは,指導監督と補導援護に限りません。
聞くところによると,保護司マニュアルのような冊子に役割分担があるような記述があるそうです。実際には見たことがありません。
そういったものを見た人は,役割分担があるように覚えてしまう恐れがあるのが怖いです。
保護司は,更生保護法で「保護観察官で十分でないところを補い」と規定されるのみです。
法制度に関するものは,やっぱり法律にあたって覚えるのが王道だということでしょう。