2021年3月31日水曜日

国家試験に合格できる勉強と合格できない勉強

社会福祉士の国家試験は,近年では2月第一週の日曜日に実施されています。


初めて受験する人は,その日にどんな知識を持って試験に臨んだら良いのか,具体的にイメージをするのは難しいことでしょう。


複数回の受験となる人は,もっとイメージするのが難しいかもしれません。疑心暗鬼になっているからです。


ネットでは,〇時間以上勉強したら合格できる,といった情報があります。

目安にしやすいからでしょう。


しかし,本当に重要なのは,どれだけ勉強するかといった勉強量ではなく,どのような勉強をするのかといった勉強の質です。


国試での得点力に結びつきにくい勉強法として,真っ先に挙げたいのは,参考書に書いてあることを丸暗記しようとすることです。


非効率であるとともに,文章をちょっと変えられただけでも対応が難しくなります。


第28回・問題21 社会問題の捉え方に関する次の記述のうち,構築主義的なアプローチとして,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会がどうあるべきかについては,多くの人々に共有されている規範が存在するので,これに反するものが社会問題と認識される。

2 社会は統一されたシステムを成しているので,その目標達成にとってマイナスに働く事象は,社会問題と認識される。

3 社会問題とは,客観的に実在し誰の目にも明らかな現実として存在するものである。

4 社会問題とは,専門家でなければ可視化できないような,現代社会におけるリスクのことである。

5 社会問題とは,自明なものとして存在するのではなく,人々が主張することを通して認識される問題である。


この問題の詳しい解説

https://fukufuku21.blogspot.com/2020/11/blog-post_16.html


正解は,選択肢5です。


5 社会問題とは,自明なものとして存在するのではなく,人々が主張することを通して認識される問題である。


構築主義を正しく理解しないと次の問題は解けません。


第32回・問題21 社会問題は,ある状態を解決されるべき問題とみなす人々のクレイム申立てとそれに対する反応を通じて作り出されるという捉え方がある。このことを示す用語として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会統制論

2 緊張理論

3 文化学習理論

4 構築主義

5 ラベリング論


構築主義を正しく理解することで,瞬時に答えがわかる問題です。


正解は,選択肢4です。


過去記事では,以下のように述べました。


構築主義とは,


社会問題は,ある状態を解決されるべき問題とみなす人々のクレイム申立てとそれに対する反応を通じて作り出される


ととらえるものです。


具体的には,社会問題は,誰の目にも明らかなものとして存在しているのではなく,誰かが社会問題だと出張することで,社会問題として認識されることを構築主義といいます。


より具体的には,マイノリティの人たちが,そこから生じる不利益を改善するよう求めることで,マジョリティの人たちが「これは社会問題なんだ」と認識するようなことです。


具体的には


先住民族

LGBT

環境


といったものです。


ここまでは,過去記事からの抜粋です。


さて,それでは合格できる勉強法とは,どんな勉強法でしょうか。


今まで書いたことからイメージできますか?


極論を言えば,中学生に説明できる知識にすることです。


これはかなり高度なものになりますが,


急がば回れ


これができるようになれば,国試の中で難しめな理論系の科目は攻略できます。


今回は,2問紹介しました。


1問目は,第28回

2問目は,第32回


3年の過去問では,カバーしない範囲からの出題であることに着目です。


この学習部屋で直近の国試問題を取り上げない理由は,直近の国試問題は傾向として参考になるものの知識としては必要とされないからです。


ということで,次回からは,第30回国試問題を取り上げていきます。

2021年3月30日火曜日

非行少年の徹底理解

今回は,非行少年を取り上げます。


今まで非行少年をどれだけ取り上げたかわからないくらいに何度も取り上げていますが,それだけ重要だということです。


非行少年に関する過去記事

https://fukufuku21.blogspot.com/2020/10/blog-post_25.html

https://fukufuku21.blogspot.com/2020/04/20200506.html

https://fukufuku21.blogspot.com/2020/05/20200507.html

https://fukufuku21.blogspot.com/2020/04/blog-post_21.html



非行少年

犯罪少年

14歳以上で,罪を犯した少年。

触法少年

14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年

虞犯少年

その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞(おそれ)のある少年



このように3種類に分けられますが,「犯罪少年」と「触法少年&虞犯少年」と整理したほうが理解しやすいと言えます。


今日の問題にもつながりますが,刑事処分の対象となるのは,犯罪少年のみだからです。


別な言い方をすれば,「触法少年&虞犯少年」は検察官に送致されることはないということです。


検察官に送致されるということは,起訴されて裁判にかけられる可能性があるということです。


それでは今日の問題です。



第28回・問題150 少年保護審判を担当する家庭裁判所と他の機関との連携に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 家庭裁判所は,犯罪少年については,警察官から送致を受けた場合に限り審判に付することができる。

2 家庭裁判所は,触法少年については,都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けた場合に限り審判に付することができる。

3 家庭裁判所は,審判を開始する前に,少年鑑別所に命じて,審判に付すべき少年の取調その他の必要な調査を行わせることができる。

4 家庭裁判所は,犯行時14歳以上の少年が犯した犯罪については原則的に検察官に送致しなければならない。

5 家庭裁判所は,保護処分を決定するため必要があると認めるときは,保護観察官の観察に付することができる。


この問題が出題された当時,最後の最後に頭を使わせる問題を出題したと感じました。

疲れ切って解くには,かなり酷です。


そういった意味では正解するのが難しいので,正解できなくてもそんなに大きな痛手とはならないでしょう。


しかし,正解できるならできたほうが良いに決まっています。


それでは解説です。


1 家庭裁判所は,犯罪少年については,警察官から送致を受けた場合に限り審判に付することができる。


犯罪少年が検挙されると「全件送致主義」というのが取られ,すべて家庭裁判所に送致されます。


その送致には2種類があります。


犯罪が軽い場合は,警察官から家庭裁判所に直接送致されます。


犯罪が重い場合は,警察官は検察庁に送致して,検察庁によって取り調べを行ったうえで,家庭裁判所に送致されます。


2 家庭裁判所は,触法少年については,都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けた場合に限り審判に付することができる。


この問題の難易度が高くなった理由は,この選択肢です。


解答テクニック的に言えば,「限り」は「のみ」と同じ意味なので,消去してしまいます。


しかし,この選択肢が正解です。やられた感が強いです。

「虞犯少年&触法少年」は,児童福祉法が優先されます。

そのため,犯罪少年と異なり,家庭裁判所に送致されることは基本的にありません。


都道府県知事又は児童相談所長が保護処分が必要だと考えた場合に限り,家庭裁判所に送致されます。


3 家庭裁判所は,審判を開始する前に,少年鑑別所に命じて,審判に付すべき少年の取調その他の必要な調査を行わせることができる。


必要な調査を行うのは,家庭裁判所調査官です。


4 家庭裁判所は,犯行時14歳以上の少年が犯した犯罪については原則的に検察官に送致しなければならない。


家庭裁判所から検察官に送致することを「逆送致」といいます。


逆送致されるのは,家庭裁判所が刑事処分が妥当だと判断した場合です。


5 家庭裁判所は,保護処分を決定するため必要があると認めるときは,保護観察官の観察に付することができる。


家庭裁判所は,保護処分を決定するため必要があると認めるときは,家庭裁判所調査官による「試験観察」が行われます。


2021年3月29日月曜日

更生保護施設

今回は,更生保護施設を取り上げます。


更生保護施設の根拠法は,更生保護事業法です。


更生保護施設の多くは,同法に規定される更生保護法人によって運営されていますが,運営主体は更生保護法人に限定されているわけではありません。


更生保護施設では,改善更生のための保護を必要としている者に対して,宿泊場所の供与,社会生活に適応させるために必要な生活指導などを行います。


それでは今日の問題です。


第28回・問題149 更生保護施設に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 更生保護施設は,更生緊急保護の対象者に限って収容保護を行う。

2 更生保護施設の収容期間は,3か月を超えてはならない。

3 更生保護施設は,少年と成人とを別の施設に収容しなければならない。

4 更生保護施設は,被保護者に対して社会復帰のための処遇を実施する。

5 更生保護施設の運営は,社会福祉法人に限定される。


国試の最終盤になって,緊張感あふれる問題です。


もう少しで終わると思ったところで,こんな問題が出題されると考えるのが面倒になってしまうのではないでしょうか。


朝からずっと問題を解き続けてきているのでかなり疲れ切っている場面です。


こんな時こそ,解答テクニックの出番です。


1 更生保護施設は,更生緊急保護の対象者に限って収容保護を行う。


「限って」という表現がなされていますが,意味は「のみ」と同じです。

更生保護施設と言えば,更生緊急保護というイメージが強いかもしれませんが,実はもう一つ重要な役割を担っています。


更生緊急保護は,保護観察に付されているものは対象としない。


これまで何度も出題されてきたことです。


なぜ,更生緊急保護は,保護観察に付されているものは対象としないのか,と思ったことはありませんか?


実は,更生保護法では,保護観察に付されているものに対して「応急の救護」という制度が規定されています。


保護の内容は,更生緊急保護と同じです。


国家試験では,「応急の救護」について出題されたことがありません。出題しないのは意図的なようにも思えます。


整理すると


保護観察に付されているもの → 応急の救護

保護観察に付されていないもの → 更生緊急保護


となります。


更生保護施設は,「応急の救護」も「更生緊急保護」も実施します。


2 更生保護施設の収容期間は,3か月を超えてはならない。


更生緊急保護は,6か月という期限があります(さらに6か月を超えない範囲で延長可能)が,それ以外には期間の定めはありません。


3 更生保護施設は,少年と成人とを別の施設に収容しなければならない。


少年と成人を別の施設に収容しなければならない,という定めはありません。


言い切り表現に,正解少なし


です。


4 更生保護施設は,被保護者に対して社会復帰のための処遇を実施する。


これが正解です。


更生保護施設は,宿泊場所の供与,社会生活に適応させるために必要な生活指導などを行います。これらは,被保護者に対して社会復帰のための処遇です。


5 更生保護施設の運営は,社会福祉法人に限定される。


「限定される」という表現になっていますが,いみは「のみ」と同じです。



<今日の一言>


「のみ」や「すべて」は,正解になりにくいことを多くの人が知っているため,近年はそれらを極力使わないで,問題文がつくられています。


しかし,その亜流は散見できます。「限って」「限定」「全」などがそうです。


こういったところに気がつくことができれば,ミスは減らすことができるでしょう。

2021年3月28日日曜日

保護観察官&保護司

回は,保護観察官と保護司を取り上げます。

 

更生保護制度に取り組むたびに取り上げていますが,それほど重要であり,繰り返し出題されているということです。しっかり覚えたいです。 


 保護観察官と保護司の職務

保護観察官

保護観察,調査,生活環境の調整その他犯罪をした者及び非行のある少年の更生保護並びに犯罪の予防に関する事務に従事する。

保護司

保護観察官で十分でないところを補う。

 

このように保護観察官と保護司の役割分担は,法に規定されていません。

 

なお,それぞれの根拠法は,保護観察官は「更生保護法」,保護司は「保護司法」です。

 

保護観察は,保護観察対象者の改善更生を図ることを目的として,権力的性格の「指導監督」と福祉的性格の「補導援護」によって行われます。

 

指導監督の方法

・面接その他の適当な方法により保護観察対象者と接触を保ち,その行状を把握すること。

・保護観察対象者が一般遵守事項及び特別遵守事項を遵守し,並びに生活行動指針に即して生活し,及び行動するよう,必要な指示その他の措置をとること。

・特定の犯罪的傾向を改善するための専門的処遇を実施すること。

補導援護の方法

・適切な住居その他の宿泊場所を得ること及び当該宿泊場所に帰住することを助けること。

・医療及び療養を受けることを助けること。

・職業を補導し,及び就職を助けること。

・教養訓練の手段を得ることを助けること。

・生活環境を改善し,及び調整すること。

・社会生活に適応させるために必要な生活指導を行うこと。

・前各号に掲げるもののほか,保護観察対象者が健全な社会生活を営むために必要な助言その他の措置をとること。

 

それでは,今日の問題です。

 

28回・問題148 保護観察官及び保護司に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 保護観察官の職務は,法執行に関わる保護観察の実施であり,犯罪予防活動については,地域社会の実情に精通した保護司の職務とされている。

2 保護観察官が,保護司なしに直接,保護観察事件を担当することはない。

3 保護司には給与は支給されないが,職務に要した費用は実費弁償の形で支給されている。

4 保護司は,保護観察官とは異なり,職務上知り得た関係者の身上に関する秘密を尊重する義務はない。

5 保護観察対象者の信教の自由に配意して宗教家は保護司になることが認められていない。

 

問題づくりが下手な問題です。

 

知識なしでも消去できる選択肢があるからです。

 

2 保護観察官が,保護司なしに直接,保護観察事件を担当することはない。

4 保護司は,保護観察官とは異なり,職務上知り得た関係者の身上に関する秘密を尊重する義務はない。

5 保護観察対象者の信教の自由に配意して宗教家は保護司になることが認められていない。

 

この3つの中で迷うことがあるとすれば,選択肢5でしょう。

しかし,信教の自由があるなら,保護司も同じです。宗教家を排除することは,おそらく憲法に反するのではないかと思います。

 

選択肢2と4は,

 

言い切り表現に正解少なし

 

です。

 

1 保護観察官の職務は,法執行に関わる保護観察の実施であり,犯罪予防活動については,地域社会の実情に精通した保護司の職務とされている。

 

保護観察官の職務は,

 

保護観察,調査,生活環境の調整その他犯罪をした者及び非行のある少年の更生保護並びに犯罪の予防に関する事務に従事する。

 

犯罪の予防も保護観察官の職務の一つです。

 

それよりも,保護観察官と保護司の職務として,このように役割の線引きはなされません。

 

ということで,正解は選択肢3です。

 

3 保護司には給与は支給されないが,職務に要した費用は実費弁償の形で支給されている。

 

<今日の一言>

 

この問題は,消去法を使わなくても,答えがわかる問題です。

 

しかし,こういった問題は極めてまれです。

 

多くは,消去法を使って答えを探し出します。

 

なぜなら,国試は,

 

少しずつ同じで,少しずつ違う

 

参考書を完璧にマスターしても,過去問や模擬問題集を完璧にして臨んでも,同じようには出題されません。

 

国試が難しいのは,少しずつ違うからです。

 

知恵を使って答えを見つけていく問題が圧倒的に多いことを覚えておきたいです。

2021年3月27日土曜日

刑事司法と福祉

大学等では,2021年4月から新しいカリキュラムによる教育が始まります。

 

この人たちが卒業する年の国家試験から新しいカリキュラムで実施されます。

 

34回(2022年2月)

旧カリキュラム

35回(2023年2月)

36回(2024年2月)

37回(2025年2月)

新カリキュラム

38回(2026年2月)

 

教育課程の修業年限によって,新カリキュラムに移行する時期が異なります。

 

2年制の短大・専門学校・一般養成施設は,2023年4月から

1年制の一般養成施設・半年の短期養成施設は,2024年4月から

 

それぞれ新カリキュラムに移行し,2025年2月に実施される国家試験で新カリキュラムの国家試験に挑むことになります。

 

前回の改正は,社会福祉士及び介護福祉士法の改正に伴い,それに見合う社会福祉士の養成の必要性があって行われたものです。

そのために科目が大きく変わりました。

 

今回の改正は,法改正のような背景はなく,時代に合わせて改正したものです。

大きく変わるのは,社会福祉士と精神保健福祉士の教育の関連性です。

社会福祉士のカリキュラムは介護福祉士と一緒に変わる予定でしたが,遅れに遅れました。その結果として精神保健福祉士の改正と同時になったことを好機ととらえて,再編したのです。

 

「更生保護制度」という科目は,「刑事司法と福祉」という科目に移行して,精神保健福祉士との共通科目になります。

 

この科目で,大きく変わるのは「施設内処遇」について学ぶことです。

これまでは「社会内処遇」しか学んでいませんでした。

 

今回のカリキュラム改正は,ゆっくりゆっくり移行していくので,国家試験も急激に変えることなく,新カリキュラムの内容を小出しにして,新カリキュラムの国試に対応しやすくする方針のようです。

 

33回国試では,以下のような出題があります。

 

問題142 子どもに関わる専門職等に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 家庭裁判所調査官は,家庭内の紛争や非行の原因などの調査や,児童福祉施設入所等の適否を判断するための調査等を行う。

2 法務教官は,児童自立支援施設において,生活指導,職業指導,教科教育等各種の教育訓練による矯正教育を行う。

3 保健師は,児童福祉法に基づき,妊産婦や新生児の訪問指導,乳幼児健診,保健指導などを行う。

4 児童委員は,要保護児童の把握や通告を行うこととされており,児童相談所の決定による子どもやその保護者への指導を行うことは業務外となっている。

5 保育士は,子どもを対象とした直接的な援助が主な業務であり,保護者への保育に関する指導を行うことは業務外となっている。

 

法務教官は,少年院と少年鑑別所に配置される専門職です。

 

正解は,選択肢1です。

 

問題148 少年司法制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 少年法は,家庭裁判所の審判に付すべき少年として,犯罪少年,触法少年,虞犯少年,不良行為少年の4種類を規定している。

2 家庭裁判所は,18歳未満の少年については,都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り,これを審判に付することができる。

3 少年鑑別所は,警察官の求めに応じ,送致された少年を一定期間収容して鑑別を行う施設である。

4 少年院は,保護処分若しくは少年院において懲役又は禁錮の刑の執行を受ける者に対し,矯正教育その他の必要な処遇を行う施設である。

5 家庭裁判所が決定する保護処分は,保護観察,児童自立支援施設又は児童養護施設送致,少年院送致,検察官送致の4種類である。

 

この問題は,問題142と異なり,選択肢4の少年院が正解となっています。

そのため,ほかの選択肢を消去できないと正解することができないタイプの問題だと言えます。

 

施設内処遇とは,少年院や刑務所のことです。

 

新しいカリキュラムで学ぶものをこのように小出しにしながら,新しい国試に備えていることがわかるでしょう。

 

だからといって,国試自体が難しくなるわけではありません。これらの問題のように現在のカリキュラムの内容で十分対応できるように問題がつくられるからです。

 

新カリに備えて,少年院,少年鑑別所,法務教官などを覚えておいてください,というメッセージを送ってくれているのです。現在のカリキュラムでは,現時点(2021年3月)では,あと3回実施されますが,このような小出し作戦が続くことでしょう。

 

何と優しいのでしょう。そう思いませんか?

 

それでは今日の問題です。

 

28回・問題147 保護観察に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 少年院からの仮退院者や児童自立支援施設からの退所者には保護観察が付される。

2 少年事件の保護観察を実施する機関は児童相談所であり,そこには保護観察官が配属されている。

3 犯罪をした者及び非行のある少年に対し,矯正施設や社会内において適切な処遇を行うことにより改善更生を助けることが保護観察の目的である。

4 保護観察官が指導監督,保護司が補導援護を行う役割分担を行っている。

5 法務大臣が指定する施設などにおいて,一定期間の宿泊の継続とそこでの指導監督を受けることが特別遵守事項の一つとされている。

 

現行の「更生保護制度」は,社会内処遇に絞った内容となっているので,覚えるポイントがとても少ないです。

 

勉強をしっかりしたら,簡単に正解できる問題がそろっているのですが,たった4問しかない科目であることと最後の科目であることなどが影響して,不十分な勉強で国試に臨む人が多いようです。

 

この問題の正解は,選択肢5です。

 

5 法務大臣が指定する施設などにおいて,一定期間の宿泊の継続とそこでの指導監督を受けることが特別遵守事項の一つとされている。

 

保護観察対象者が遵守すべき事項には,すべての者が遵守しなければならない「一般遵守事項」と必要がある場合,特定の者に定められる「特別遵守事項」があります。

 

更生保護法を見ることはあまりないと思いますが,法では以下のように定められています。

 

一般遵守事項

一 再び犯罪をすることがないよう、又は非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること。

二 次に掲げる事項を守り、保護観察官及び保護司による指導監督を誠実に受けること。

イ 保護観察官又は保護司の呼出し又は訪問を受けたときは、これに応じ、面接を受けること。

ロ 保護観察官又は保護司から、労働又は通学の状況、収入又は支出の状況、家庭環境、交友関係その他の生活の実態を示す事実であって指導監督を行うため把握すべきものを明らかにするよう求められたときは、これに応じ、その事実を申告し、又はこれに関する資料を提示すること。

三 保護観察に付されたときは、速やかに、住居を定め、その地を管轄する保護観察所の長にその届出をすること。

四 前号の届出に係る住居に居住すること。

五 転居又は七日以上の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察所の長の許可を受けること。

特別遵守事項

一 犯罪性のある者との交際、いかがわしい場所への出入り、遊興による浪費、過度の飲酒その他の犯罪又は非行に結び付くおそれのある特定の行動をしてはならないこと。

二 労働に従事すること、通学することその他の再び犯罪をすることがなく又は非行のない健全な生活態度を保持するために必要と認められる特定の行動を実行し、又は継続すること。

三 七日未満の旅行、離職、身分関係の異動その他の指導監督を行うため事前に把握しておくことが特に重要と認められる生活上又は身分上の特定の事項について、緊急の場合を除き、あらかじめ、保護観察官又は保護司に申告すること。

四 医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識に基づく特定の犯罪的傾向を改善するための体系化された手順による処遇として法務大臣が定めるものを受けること。

五 法務大臣が指定する施設、保護観察対象者を監護すべき者の居宅その他の改善更生のために適当と認められる特定の場所であって、宿泊の用に供されるものに一定の期間宿泊して指導監督を受けること。

六 善良な社会の一員としての意識の涵養及び規範意識の向上に資する地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を一定の時間行うこと。

七 その他指導監督を行うため特に必要な事項

 

特別遵守事項は,上記の内容を踏まえて具体的に定められます。

 

ほかの選択肢も解説します。

 

1 少年院からの仮退院者や児童自立支援施設からの退所者には保護観察が付される。

 

少年院からの仮退院者には保護観察が付されますが,児童自立支援施設からの退所者には保護観察は付されません。

 

児童自立支援施設送致は保護処分の一つですが,児童自立支援施設は児童福祉法の児童福祉施設であり,入所している児童は保護処分を受けた少年のみではありません。

 

2 少年事件の保護観察を実施する機関は児童相談所であり,そこには保護観察官が配属されている。

 

専門職がどこに配置されるかを問うのは,社会福祉士国試の定番です。

 

保護観察官は,保護観察所と地方更生保護委員会に配置されます。

 

保護観察所には,医療観察法にもとづく社会復帰調整官も配置されています。

 

3 犯罪をした者及び非行のある少年に対し,矯正施設や社会内において適切な処遇を行うことにより改善更生を助けることが保護観察の目的である。

 

保護観察の目的は「社会内処遇」です。

 

少年院などの矯正施設は,「施設内処遇」です。保護観察は施設内ではなく,社会内において実施されます。

 

何度も何度も出題されているものです。

 

新カリキュラムではいよいよ施設内処遇も学ぶことになります。

 

4 保護観察官が指導監督,保護司が補導援護を行う役割分担を行っている。

 

保護観察は,権力的性格の指導監督と福祉的性格の補導援護によって実施されます。

 

保護観察官と保護司の役割分担はありません。役割分担がないのは,指導監督と補導援護に限りません。

 

聞くところによると,保護司マニュアルのような冊子に役割分担があるような記述があるそうです。実際には見たことがありません。

そういったものを見た人は,役割分担があるように覚えてしまう恐れがあるのが怖いです。

保護司は,更生保護法で「保護観察官で十分でないところを補い」と規定されるのみです。

 

法制度に関するものは,やっぱり法律にあたって覚えるのが王道だということでしょう。

2021年3月26日金曜日

地域若者サポートステーション(サポステ)

今回は,地域若者サポートステーション(サポステ)を取り上げます。

 

以下は,厚生労働省のホームページからの引用です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/saposute.html

 

地域若者サポートステーションとは

地域若者サポートステーション(愛称:「サポステ」)では,働くことに悩みを抱えている15歳~49歳までの方に対し,キャリアコンサルタントなどによる専門的な相談,コミュニケーション訓練などによるステップアップ,協力企業への就労体験などにより,就労に向けた支援を行っています。

サポステは,厚生労働省が委託した全国の若者支援の実績やノウハウがあるNPO法人,株式会社などが実施しています。

「身近に相談できる機関」として,全国の方が利用しやすいよう全ての都道府県に必ず設置しています(全国177箇所)。

 

サポステの支援対象者

「働きたいけど,どうしたらよいのかわからない・・・」,「働きたいけど,自信が持てず一歩を踏み出せない・・・」,「働きたいけど,コミュニケーションが苦手で・・・不安」,「働きたいけど,人間関係のつまずきで退職後,ブランクが長くなってしまった・・・」など,働くことに悩みを抱えている15歳~49歳までの方の就労を支援しています。

 

サポステは,若者という名称がついていますが,現在は49歳までを対象としています。

 

この背景にあるのは,中高年の引きこもりです。8050問題と呼ばれる80歳代の親が50歳代の引きこもりの子どもを支える家庭が増える中,それを防止するために2020年にそれまでの39歳から49歳に対象を広げました。

 

それでは,今日の問題です。

 

28回・問題146 事例を読んで,B相談支援員(社会福祉士)の対応として,次のうち最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 Cさん(32歳男性)は両親と同居している。大学卒業後直ぐに就職したが半年で離職しその後,身の回りのことは自分でこなすが,積極的な就職活動などをすることなく自宅にとどまり家族以外とは交流を持たない状態が10年近く続いている。今回,親に促されて,生活困窮者自立相談支援事業を実施するR市役所の相談窓口を訪れた。Cさんは「就職したいという焦りと,失敗するのではという不安がある」とB相談支援員に話している。

1 医療機関の受診を勧める。

2 求人情報誌の利用による求職を勧める。

3 障害者就業・生活支援センターの利用を勧める。

4 福祉事務所の相談窓口を勧める。

5 地域若者サポートステーションの利用を勧める。

 

前回に引き続いて,またまた障害者就業・生活支援センターが出題されています。

https://fukufuku21.blogspot.com/2021/03/blog-post_25.html

 

さて,この事例は,生活困窮者自立相談支援事業の相談支援員の対応です。

 

絶対に正解にならないのは,

1 医療機関の受診を勧める。

 

医療的な判断が含まれるものは,福祉職の役割ではないからです。

第一選択にはなり得ません。

 

実際には統合失調症があるかもしれません。しかし,この事例の中では,精神疾患を疑わせるような情報は一切ありません。

 

それにもかかわらず「こうに違いない」といった余計なことを考えるとミスすることになります。

 

事例問題は,判断が分かれるような内容だと不適切問題になってしまうので,そのようには問題は作られません。

 

この事例の中の手がかりは

 

就職したいという焦りと,失敗するのではという不安がある

 

Cさんが話していることです。

 

ずばりサポステの支援対象者です。

 

正解は選択肢5です。

 

5 地域若者サポートステーションの利用を勧める。

 

余計なことを考えるとミスする原因となるので注意が必要です。

 

一応そのほかの選択肢も解説します。

 

2 求人情報誌の利用による求職を勧める。

3 障害者就業・生活支援センターの利用を勧める。

4 福祉事務所の相談窓口を勧める。

 

この3つの選択肢はすべて就労支援に直結するものですが,Cさんの不安を解決するための要素に欠けます。

 

うまくすると猫の手も借りたいような事業所に就職できるかもしれません。

しかし,もしそれが失敗すると,もっと深い傷を負うこととなります。

 

Cさんは親に連れられて,しぶしぶ相談機関に訪れたのかもしれません。

しかし,それはCさんにとって大きな一歩です。ここに着目した支援が必要です。

 

焦ると変化の芽をつぶすことになりかねません。

 

<今日の一言>

 

今日の問題は,決して難しいものではありません。

しかし,「こうあるべきだ」という思い込みがあると,正解するのは意外と簡単ではありません。

こういったタイプの事例問題は数多くあるので注意が必要です。

何度も受験しても合格できないという方は,事例問題でミスしていないか,確認してみてください。

知識をつけることには目が向きますが,事例問題の強化は抜けがちです。

2021年3月25日木曜日

福祉系大学と一般養成施設の合格率

社会福祉士の国家資格を得るルートはいくつもあります。

 

そのうち,標準なのは一般養成施設です。

 

福祉系大学は,一般養成施設で定められている科目を読み替えてもらって,受験資格を得ることができるようになっています。

 

ところで,福祉系大学ルートと一般養成施設ルートを比較するとどちらの合格率が高いと思いますか?

 

2933回国試の合格率の比較 

福祉系大学

一般養成施設

33

28.7

33.6

32

29.1

33.0

31

29.4

34.0

30

29.2

35.0

29

23.9

32.3

平均

28.1

33.6

 

各年度でも5年間の平均でも,すべてにおいて大学が下回っています。

 

関連記事

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意外だと思う人がいるかもしれません。

 

33回を詳しく見てみたいと思います。 

受験ルート

合格率

(現役)

(既卒)

福祉系大学

29.1

50.7

12.9

福祉系短大+実務経験

13.4

短期養成施設

23.1

35.9

15.7

一般養成施設

33.6

56.2

17.0

 

「福祉系大学+実務経験ルート」が現役も既卒もないのは,既卒しかないためです。卒業してすぐには受験資格を得ることができません。

 

さて,福祉系大学と一般養成施設を比較すると,現役合格率も既卒合格率も一般養成施設が上回っています。

 

意外だと思う人もいるでしょう。

世の中には,一般的な認識と事実が異なることが多々あります。

 

なぜこのようなことを書いているかと言えば,大学生だからと言って決して簡単には合格できないこと,一般養成施設は最も合格率の高いルートであることを知ってもらいたいからです。

 

受験資格を得るルートにかかわらず,合格できる人は合格し,合格できない人は不合格になります。

 

国家試験を実施している「社会福祉振興・試験センター」では,合格者の年代別の比率は発表していますが,肝心の受験者の年代別の比率は発表していません。

 

そのため,年代別の合格率はわかりません。50歳代・60歳代の合格率は数パーセントなんていう人がいますが,それは誰もわかりません。 

チームfukufuk21は,大学生が多く含まれる20歳代の合格率よりもその他の年代の合格率が高いのではないかと推測しています。

大学には私学には私学助成金,国公立は運営費の形で税金が投入されています。

それに対して,一般養成施設には税金は投入されていません。

 

社会福祉士の養成という視点だけでみた場合,税金もかけず効果を上げているのは一般養成施設である,ということが明らかになったら,大学のメンツ丸つぶれということにもかりかねません。下手をすると国民の批判を受けることにもなり得ます。

 

それでは,今日の問題です。

 

28回・問題145 障害者就業・生活支援センターに関する次の記述のうち正しいものを1つ選びなさい。

1 公共職業安定所(ハローワーク)に代わり,職業紹介業務を行っている。

2 就業支援を担当する者と生活支援を担当する者が配置されている。

3 「障害者総合支援法」に基づき設置されている。

4 2015年(平成27年)5月現在,全国で21か所設置されている。

5 在職中の障害者は,支援対象とならない。

(注) 「障害者総合支援法」とは,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。

 

障害者の就労支援に関する法制度は,「障害者総合支援法」と「障害者雇用促進法」に基づくものがあります。

 

障害者就業・生活支援センターは,障害者雇用促進法に基づくものです。

 

社会人が大学生よりも強いものは,自分の分野の法制度は知っていること,歴史を体験していることなどがあります。

 

障害者雇用促進法に基づくものには,法定雇用率,障害者職業センター,そして障害者就業・生活支援センターがあります。

 

障害者就業・生活支援センターは,その名称のとおり,就業面と生活面での支援を行います。

 

正解は,選択肢2です。

 

2 就業支援を担当する者と生活支援を担当する者が配置されている。

 

就業面と生活面での支援は,それぞれを担当する職員が配置されます。

 

一般養成施設で学ぶ社会人が強いのは,自分の働く分野があることです。

そこからいろいろ推測することができます。大学生はそのベースがありません。

 

1 公共職業安定所(ハローワーク)に代わり,職業紹介業務を行っている。

 

前回も述べましたが,制度は重ならないように作られます。

職業紹介は,ハローワークの業務です。

 

3 「障害者総合支援法」に基づき設置されている。

 

根拠法は,障害者雇用促進法です。

 

4 2015年(平成27年)5月現在,全国で21か所設置されている。

 

この時からかなり経ちましたが,この時点でさえ,300か所ほどありました。

21か所というのは,あまりに半端です。こういった知恵を働かせることができるのも社会人の強みです。

 

5 在職中の障害者は,支援対象とならない。

 

もちろん在職中の障害者も対象です。

 

最後にまとめとして,障害者就業・生活支援センターの業務です。

 

支援対象障害者からの相談に応じて必要な指導及び助言を行う。

公共職業安定所,地域障害者職業センター,社会福祉施設,医療施設,特別支援学校その他の関係機関との連絡調整その他を行う。

支援対象障害者に対して,障害者職業総合センター,地域障害者職業センターその他により行われる職業準備訓練のあっせんを行う。

支援対象障害者が職業生活の自立を図るために必要な業務を行う。

 


<今日の一言>

一般養成施設の方には,年齢や仕事などを言い訳の材料にしてはいけないと言いたいです。

記憶力の優れた大学生よりも一般養成施設で学んだ人のほうが合格率は高いのです。

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